接触確認アプリは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止に役立つのか、セキュリティに問題はないのか――鈴木正朝、高木浩光、板倉陽一郎、山本一郎の4人が適度な距離を保って議論した。※本稿は2020年6月10日に収録したオンラインセミナーの内容に加筆修正を加えたものです
厚生労働省は2020年6月19日、米Appleと米Googleが共同開発したAPIを採用する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)接触確認アプリ「新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)」を公開した。本稿は、公開直前の2020年6月10日に収録し、6月24日に配信したオンラインセミナー「@IT Security Live Week」の「プライバシーフリーク・カフェ リモート大作戦!」のイベントレポート完全版である。
プライバシーフリーク・カフェ(PFC)は、鈴木正朝、高木浩光、板倉陽一郎、山本一郎の4人が、情報法と社会について、自由気ままに、そして真面目に放談するセミナーで、5年にわたって活動を続けている。
山本一郎(以降、山本) 「プライバシーフリークリモート大作戦!」でございます。今回は、コンタクトトレーシング(接触確認)アプリとその周辺に関してお話ししていきます。まずは、大枠の概要について皆さんの意見をいただきながら、問題について議論を深めていきます。
高木浩光(以降、高木) まず私から、アプリの概略を簡単にお話しします。現在(注:2020年6月10日)は、日本政府の「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」が検討しているところです。厚生労働省が主体となって、スマホのアプリを国民に提供して、感染者と濃厚接触した可能性のある人を追跡する補助に使うという話になっています。だいぶ報道されていますから、皆さんも耳にしていると思います。
アプリの仕組みは、スマホのBluetooth機能を使って、近くの数メートル以内にいる他人のスマホと番号を交換し合って日々記録していくというものです。番号は15分から20分くらいでランダムに変わっていき、受信したスマホに2週間記録しておきます。
コロナの感染が発覚したら、「実は感染者でした」とアプリに設定する。すると、過去に接触した人たちに「みんな気を付けろ。接触したぞ」と通知できる、というそれだけの機能です。ただ、「感染者でした」の設定が誰でもできちゃうとまずいので、保健所を通じて陽性の診断が出た人にだけキーを渡して設定してもらうと。そこを厚労省が主体となってやるというアプリです。
山本 結構いろんな議論がありました。「本当に大丈夫なのか?」「どのぐらい普及するのか?」というさまざまな論点が、このトレーシングアプリにはあります。
板倉陽一郎(以降、板倉) 高木さんがおっしゃった仕様は、海外の事例を見ても大体似たような感じですね。いざというときのためにずっとためておいて、接触したかもしれない人が感染した場合に通知が来るという意味で。
データ保護観点ではどうですか? という話がいろいろなところで出るだろうなと思いましたけれども、基本、入れるのはオプトイン、通知が来てからどう行動するかも自分で決めるということで、さほど問題はないかと思っています。
鈴木正朝(以降、鈴木) 政府はマスク配布以外で見るべき政策がなく、パンデミック(世界的大流行)対策としては極めて踏み込みが浅いなと思っていたので、ツールが提供されるのはいいことだと思ってみていました。ただ、どの局面でどう使うのかがよく分からなかったですね。
山本 導入が遅れたのではないかという批判がありましたけれど。
高木 内閣府IT担当副大臣の平将明議員が日経ビジネスの記事で説明されています。当初は民間の非営利団体「Code for Japan」が自主的に海外の動向を見ながら独自にシステムを作っていたけれども、途中で米Appleと米GoogleがOSレベルで仕組みを提供することになり、それに乗っかることになったため、それまでの開発が中止となって、遅れているということです。それについては後で詳しく述べます。
山本 世の中の反応というか「入れる/入れない」でずいぶん騒ぎにはなりました。現状では落ち着いている中でアプリを入れてくれるのか、という普及の問題があると思います。もちろん、利用が進めばそれだけ効果があることは間違いないのですが。
鈴木 普及率は私たちが評価できない部分でして。感染率との相関とか、普及率が何割を超えると実効性があるとかいったところはサイエンスをやっている人たちに教えていただかないと、政策を評価するにはちょっと前提知識が欠けると思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.