アクセンチュアは、世界のテクノロジートレンドに関する調査「テクノロジービジョン 2020」を発表。企業が旧来型のモデル/サービス/システムから脱却するために、何を取り入れていくべきかを5つのトレンドを挙げて紹介した。
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アクセンチュアは、世界のテクノロジートレンドに関する調査「テクノロジービジョン 2020」について、2020年8月5日、記者発表会を開催した。同調査は2000年から1年に1度、同社とアクセンチュア・リサーチが連携し作成している。企業、政府機関、その他の組織に、最も大きな影響を及ぼすと考えられるIT分野の事象を取り上げている。2019年12月〜2020年1月までに25カ国の企業経営者と4カ国の生活者(消費者)から得られた回答と、各種専門家へのインタビューを基に作成した。
同調査の2020年のテーマは、「ポスト・デジタル時代を生きる――企業が『テック・クラッシュ』を乗り切るには」。説明会に登壇した同社テクノロジーコンサルティング本部インテリジェントソフトウェア、エンジニアリングサービスグループ日本統括マネジング・ディレクターの山根圭輔氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう時代になり、デジタル化が急加速している一方で、医療機関や既存の企業は、旧来型のモデル/サービス/システムからの脱却が非常に難しいのではないかと感じている」と語る。
一方で、テクノロジーは日常の一部となって浸透しているといえる。調査によると、インターネットに接続する人口は世界で45億人に達しており、全人類の約半分を占め、平均的に1日当たりおよそ6.4時間を何らかのデバイスを用いてオンライン状態で過ごしているという。
「消費者にとってテクノロジーは生活に溶け込んで欠かせないものになっているが、企業側は企業視点で囲い込む狭いエコシステムを採用したり、テクノロジーの利用で効率化するのは既存業務が中心になったりと、古いスタイルを続けている。先進的な生活者のスタイルと、企業側の古いスタイルの間に生まれたギャップがテクノロジークラッシュを生み出してしまう」(山根氏)
テクノロジークラッシュとは、企業側が提供するサービスに対して、消費者が信頼できず、消費者や顧客の信頼を喪失してしまうことだという。山根氏は「企業側はより顧客中心のテクノロジーを再考し、作り上げていくということがポスト・デジタル時代で急務になる」と語った。
ではどのようにして「顧客中心のテクノロジーを再考し、作り上げる」のか。山根氏はあらゆる企業はデジタルを利用する企業ではなく、テクノロジー企業に変化する必要があると主張し、テクノロジー企業への変革を主導するのは「テクノロジーCEO」であるとした。
同調査では、テクノロジー企業と、それを実現するためテクノロジーCEOが取り組むべきトレンドを「体験の中の『私』」「AIと私」「スマート・シングスのジレンマ」「解き放たれるロボット」「イノベーションのDNA」の5つに分けて提示している。
調査では、ライブエクスペリエンスに対する支出は過去30年間で70%増加し、コンテンツを自動的にカスタマイズすることが重要と答えた生活者の割合は67%という結果が示された。その一方で、パーソナライズされた広告コンテンツが倫理的であると回答した割合は17%、ニュースフィードでは24%と、広告やニュースフィードが倫理的かどうかについては、消費者は懐疑的であることが見受けられた。
山根氏は、「消費者としてはライブ感があって自分向けと感じる体験に対しては好意的であるが、『あなたはこうだろう』という形で企業が提示するものに対しては、非常に懐疑的になる。ここで重要なのは、提供から共創に変わっていくことだ」と語り、顧客が能動的に参加し企業と共にサービスを作り上げるという体験を、さまざまなテクノロジーを用いて、リアルとバーチャルを組み合わせたような形で提供することが非常に重要になると主張した。
調査では、79%の企業幹部が人間とマシンの協働が将来のイノベーションに必要不可欠と回答した一方で、相互作用を生み出す協働を前提としたAI(人工知能)の仕組みが用意できていると回答した企業は23%だったという。
これについて山根氏は「相互理解というのは、人間がAIを、AIが人間を理解すること。AI、人間の両方で今までと違った考え方をしていかなければならない」と語り、例として、BOSCHとGoogleを挙げた。
BOSCHは、2025年までに全製品にAIを搭載予定としており、社内の方針として、AIを用いた意思決定は、常に人間の監視下で実施することを原則化しているという。Googleは、文脈を理解可能な自然言語処理技術をオープンソース化し、AIが人間の言語の意図まで理解できるようにしているという。
「今後、高まるAIへの信頼を崩さないようにするというのが大きなポイントになる。現状でも倫理的、セキュリティ的、プライバシー的なところから、AIの利用シーンに対して警鐘を鳴らされているところもある。いかにして人間中心のデザインをAIにしていけるかが、さらなるAI浸透への鍵となる」(山根氏)
次に挙げたのは、スマートプロダクトについてだ。スマートプロダクトはインターネットに接続していることが前提で、アップデートによる機能の改善や追加が容易であるが、その柔軟性が「製品をβ版でリリースし続ける」というジレンマをもたらすという。山根氏は「β版に対する顧客の期待と不安を充足するためには、一貫した製品体験に基づく信頼関係を構築するべき」と語った。
「β版の足かせは将来、より強くなっていく。今はCOVID-19と戦うためのツールとして、導入が進んでいるが、どこかでプライバシーの保護に対する議論が活発になる。GoogleやAppleが、接触追跡のアプリの中に厳格なプライバシー保護の仕組みを取り入れたのと同じように、今後の長期的なスマート・シングスにも、新しい機能をプライバシー保護と併せて組み込むのが非常に重要になると考えている」(山根氏)
山根氏はロボットについても取り上げ、「ロボット活用について目的を同じくする企業は、個社に閉じず、業界全体、ひいては国境を超えて、データや治験を共有する仕組みを確立すべき」と語った。
最後に、冒頭に言及した、テクノロジー企業、テクノロジーCEOについて、山根氏は説明。ポスト・デジタルの時代では、テクノロジーを単純に使いこなし、導入するだけでは不十分で、サイエンスやテクノロジーを企業の中に組み込み、分けられないほど密接なものにしていくことが重要とし、テクノロジーを組み込んだ企業のことをテクノロジー企業、企業をテクノロジー企業へ変革するのがテクノロジーCEOであるとした。
「テクノロジーCEOは、先端技術にただ詳しいCEOではない。企業の核にテクノロジーを融合させて考えられる、『テクノロジー思考』を持つことができるCEOのことだ」(山根氏)
テクノロジーCEOが、自社をテクノロジー企業に変革するためのポイントとして「自社のデジタルテクノロジーの成果を展開、顕在化する」「サイエンスの進歩を取り込み業界に破壊的インパクトを与える」「DARQ*)にいち早くリーチし将来の基盤を創造する」の3つを挙げた。
*)分散型台帳技術(DLT)、人工知能(AI)、拡張現実(XR)、量子コンピューティング(Quantum Computing)の4技術のこと
「現在、パンデミックがイノベーションのストレステストのような様相を呈している。さまざまなイノベーションのDNAを組み込んでいる否かによって、COVID-19のインパクトにも差が出てきている状況だ。COVID-19だけでなく、大きな変化にあわせて企業が世界と共に変わることができるようなイノベーションのDNAを組み込んでいくことが重要といえる」(山根氏)
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