連載
» 2020年10月01日 05時00分 公開

得意なものを見つけること、そしてそれを好きになること――人に誇れる仕事こそが原動力Go AbekawaのGo Global!〜Yonatan Wexler編(後)(2/2 ページ)

[取材・文:阿部川久広(Go Abekawa), 構成:中村篤志,@IT]
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長寿化による問題を解決したい

ウェクスラー氏 OrCam MyEyeに関しては、現在よりもより多くの認識機能を追加する予定ですし、対応言語も増やす予定です。他にはユーザーがデバイスに、音声で命令できるような機能も追加したいと思っています。そこで重要になるのが不要な音声情報(ノイズ)を除外する機能です。

 私たちが音を聞いたとき、脳はその音以外の音をしっかりと取り除き、聞きたいその音だけを認識させてくれるという、非常に優れた機能を持っています。例えば走行中の車の中で会話する場合、相手の話だけが聞こえ、エンジン音が同様に聞こえてくるといったことはありません。もし同時に会話とエンジンの音を認識していたら会話はできません。この場合聴覚に障害があると、会話ではなく、エンジンの音が大きく聞こえてしまうのです。このような場合は、会話を長く続けるのは非常に困難になります。

 私たちは会話をするときに周りが騒がしいと、話を耳で聞くと同時に話している相手の口元の動きも見ているものです。つまり聴覚と視覚で話を聞こうとし、そうすると、より会話が聞こえやすくなります。私たちは特に意識することなくこれを行っていて、脳も自然にその要求に応えてくれます。

 新しいデバイスは、不要なノイズを取り除き、口元の動きをカメラで捉えることで必要な声や音だけを認識できます。製品開発は終了しており、もうすぐ日本の皆さんの手元に届けられると思います。

阿部川 デバイスがノイズを識別できるのですね。

ウェクスラー氏 はい、実はこれがプロトタイプですが(と言いながら、製品を見せてくれる)ここにマイク、そしてカメラがここに付いていて、これを首にかけイヤフォン付けて使います。カメラは話者の口元を写し、その映像で判別した音のみが耳に入ってきます。それはまるで話者同士が二人きりで話しているような感覚です。このデバイスが、会話者同士が必要とする音のみを拡声し、的確に聞こえるようにサポートします。

画像 「これがプロトタイプです。見えます?」

 聴覚障害の方の中には、音として聞こえても意味が分からないという方もいらっしゃいます。外国語の学習と同じで、単語の音や意味が分かると、よりセンテンス(文章)が聞こえるようになります。そのため最初は、まずしっかり音を認識することに主眼を置きました。しっかり音が聞き取れれば、脳はそれを理解しようとしますから。

阿部川 先ほどのお話にもありましたが、加齢に伴う聴覚の衰えなどにも対応できますね。

ウェクスラー氏 そうですね、私たちはとても恵まれた時代に生きていて、寿命はどんどん長くなっています。ただ年齢が上がるにつれて、聴覚機能は衰え、疾患の可能性も高くなります。別の捉え方をすれば聞こえが悪くなることで脳の影響が出ることがあります。寿命が延びて聴覚が衰えたとしても、脳は比較的健常ということは少なくありません。ですが音が聞こえなかったり、ものが見えなかったりして外部からの情報が減ると脳が活動を止めてしまうことがあるのです。聴覚を支援する私たちの製品のようなテクノロジーは、人間の長寿による問題にも何かお役に立てると思っています。

阿部川 素晴らしいですね。それで、いつそのような素晴らしい製品が市場に登場するのでしょうか。まだコンフィデンシャル(企業秘密)ですか。

ウェクスラー氏 それほど時間はかからないと思いますよ。いわゆる聴覚支援の製品を手掛ける企業は世界で250社を超えており、そういった企業から、一緒にやらないかというお話をたくさんいただいています。もちろんその中には日本の企業も含まれています。

自分の孫にプライドを持って語れるような仕事をしよう

阿部川 本当だったら4月に来日の予定だったと伺っています。このコロナ禍の状況は、貴社のビジネスに何か大きな変化をもたらしましたか。

ウェクスラー氏 全従業員がリモートワークになりましたが、これまでと同じように皆とてもよく仕事をしてくれています。OrCam MyEyeは、以前よりも活躍の場が増えているようです。外出先では必ず誰か他の人がいるので、その人としっかりコミュニケーションが取れれば大丈夫ですが、自宅に一人でいる状況では誰も手助けはしてくれませんから。こんな状況だからこそ、周囲の状況を把握することが重要になります。

 新型コロナウイルスの影響はさまざまで、一過性のものからずっと続くものがあると思います。ですが、人類は必ず対処する方法を見つけられると信じています。

阿部川 ありがとうございます。最後になりますが、エンジニアに向けてメッセージをお願いできますか。

ウェクスラー氏 私はいつも「自分の孫にプライドを持って語れるような仕事をしよう」と思っています。そのためには得意なことを仕事にして、そこで得られることをエネルギーに、より大きな目的に向かって仕事をすることが大切だと思います。まずは得意なものを見つけること、そしてそれを好きになること、この2つが成功のためには必要だと思います。これは別にエンジニアに限ったことではなく、人生も同じだと思います。

 現在、私たちはテクノロジーに関して、とても恵まれた時代にいます。やろうと思えばさまざまなことができるのでエンジニアとして活躍するのに、こんなに素晴らしい時代はないでしょう。OrCam Technologiesのエンジニアは、自分の開発した製品を自宅に持ち帰って、家族や近所の人に誇らしげに説明していると言っています。管理者として、エンジニアからそのような話を聞けることは大変うれしいことです。

インタビューを終えて − Go’s thinking aloud −

 伝えたいことがしっかりと表現されているかどうかを確認しながら、かんで含むようにして自身の思考を表現する。正確に表現したいというエンジニアらしい姿勢が伝わる。

25カ国から集められた、膨大な視覚や聴覚に関するデータは全て蓄積され、AIの助けにより解析され、それが基になり次期製品のロードマップが作られる。これこそビッグデータの正しい使い方、人類の進歩に真っすぐに貢献する利用法だ。もちろん認識機能などの分野は、まだまだバラ色には遠いが、テクノロジーの社会的な意義は、このような企業の毎日の飽くなき挑戦が支えている。

世界中のこのような企業を、上手に、そして正しくつなぐことで、次世代への全く新しい医療プラットフォームが構築できないだろうか。こんな状況だからこそ、それを夢物語で終わらせてはいけない。

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