用語「中国語の部屋」について説明。チューリングテストへの反論として提起された思考実験。中国語による質疑応答テストで、英語しか分からない人が中国語の質問に適切に回答できる方法を提示することで、この種のテストに合格しても「中国を理解していることは意味しない」という点を反論の根拠とする。
中国語の部屋(Chinese room)とは、チューリングテストへの反論として提起された思考実験である。
中国語の部屋では、思考実験として、質問者とは別の部屋にいる回答者が「中国語を理解するか否か」を判定するテストを想定する。そこでもし完璧な「中国語質問への回答マニュアル」を使うなどして回答者が中国語の質問にうまく答えられれば、質問した人から見ると回答者はあたかも中国語を理解しているように見えるはずだ(つまりテストに合格するということ)。しかしこれは「中国語を理解している」という意味にはならない。
それと同様に、チューリングテストに合格したからといって、それは「その機械が考えることができる」つまり「知能を持った機械(=人工知能)である」という意味にはならない、とする反論である。
「中国語の部屋」の基本的なテスト手順は次の通り(※論文に厳密ではなく分かりやすく短くしている)。
登場人物は、図1にも示すように以下の2人である。
- 中国語で質問する質問者であり、回答者が中国語を理解するかを判定する審査員
- 英語しか分からない回答者
「質問者」と「回答者」は別々の部屋にいる状態で、紙に中国語の漢字で書かれた質問が、回答者に渡される。
回答者は、部屋に置いてあった(想像しづらいが)完璧な「中国語質問への回答マニュアル」を使って、中国語として適切な回答を漢字で書き、質問者に戻す。
これを繰り返した後、最終的に審査員(=質問者)は、会話相手が「中国語を理解するか否か」を判定する。当然ながら「回答者は中国語を理解している」と判定されることになる。しかしこの判定は「誤り」である。
この思考実験は、1980年に哲学者のジョン・サール(John Rogers Searle)氏の論文『Minds, Brains, and Programs』の中で提案された。それ以来、その反論、その反論の反論と、広く議論されてきており、一連の議論は「中国語の部屋の議論(CRA:Chinese Room Argument)」と呼ばれている(※この議論内容は「人工知能研究」というよりも「心の哲学」という学術分野の範ちゅうになるだろう)。
ジョン・サール氏に言わせると、「チューリングテストは心/意識の存在を検出するには不十分」ということになる(そういう意味では、誰もが納得するのではないだろうか)。この関連としてジョン・サール氏は、「チューリングテストに合格できる」ような特定のタスク(処理)のみを実現する人工知能を弱いAI、「心/意識が存在する」と言えるような人間が行う知的活動を完全に模倣できる人工知能を強いAIと名付けている。
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