何で仕様も教えてくれないんですか!「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(84)(1/4 ページ)

言った言わないではなく、言わない言わないの揚げ句、プロジェクトが頓挫。こんなシステムにお金は払えません!

» 2021年01月06日 05時00分 公開
「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

 あけましておめでとうございます。2020年はコロナ禍の中、予期せぬデジタル化の波が周囲に押し寄せて戸惑われた方も多いかもしれません。しかし、こうした潮流自体は今後もやむことなく、ITの開発や導入もさらに身近になっていくことでしょう。

 2021年は、本連載の事例を反面教師に、ITを味方にしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、希望ある未来に向けた第一歩を踏み出していただけたらと思います。

ITプロジェクトの成否のカギは誠実な情報共有

 私がITに関する紛争を勉強するようになってからかれこれ15年くらいになる。さまざまな事件を見ていて感じるのは、システム開発プロジェクトの成否は、ユーザー企業とベンダーの誠実さにかかっているということだ。

 プロジェクトのQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)に関わることは、都合の悪いことも含めて積極的に開示し、相談し、リカバリー策を講じ、お互いに多少の無理を言い合いながら次善の策を求めることが、双方の満足につながる。

 「申し訳ないが、約束した期日までに社内で要件を取りまとめきれない」「実は使えると思っていた技術に思わぬ制限があり、やり方を変えなければなりません」「契約条件に法務部が合意してくれない。何とか契約書の再検討を願えないか」「エンジニアが病気になり、代替メンバーの投入も確約できないのですが、一部スケジュールを見直させていただけないでしょうか」――。

 このようにお互いに言いにくいことを早い段階から相談し合えるプロジェクトの方が、「お客さまにお話しするような問題は発生していません、ご安心ください」「来週までには社内をFIXさせるから」といった会話がなされるプロジェクトよりも成功率が高いと感じる。

 最も成功率が低いのは、ユーザー企業とベンダーの間でコミュニケーションが取れておらず、要件を受け取ったベンダーが粛々とモノづくりを進め、ユーザー企業は他の業務に心がいってしまっているプロジェクトである。

 今回紹介する事件も、結局はコミュニケーションの欠如が招いたものではないかと思う。

仕様確定なしに進めるベンダーと費用を払わないユーザー企業

 事件の概要を見ていこう。

東京地方裁判所 平成31年2月4日判決から

ある医療系ユーザーがレセプト点検システムの開発をベンダー委託した。開発はベンダーの持ち込んだエンジンをカスタマイズする形で行われ、費用の総額は約1億2000万円だった。

契約はユーザーが契約直後に3000万円を支払い、以降は毎月570万円ずつを支払うというものだったが、ユーザーは最初の3000万円と月額の570万円を数カ月分支払ったところで、その後の支払いを停止した。

しかしそれでも開発自体は続けられ、納期まであと2カ月に迫った時期、ユーザーはベンダーに新システムの性能評価を行いたい旨申し入れた。この評価は本来、予定にないものではあったが、ベンダーはその準備を行った。ところがユーザーは、ベンダーの準備状況を見てベンダーが性能評価の趣旨を正しく理解していないとしてこれを実施せず、結局、そのまま当初予定の納期を迎えたことで、プロジェクトは頓挫した。

その後、ユーザーは契約解除の申し入れを行ったが交渉はまとまらず、解除を求めて本訴を提起した。一方、ベンダーは不払いの費用を求めて反訴を提起した。

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