何で仕様も教えてくれないんですか!「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(84)(3/4 ページ)

» 2021年01月06日 05時00分 公開

勝手に進めるなら勝手に支払いを止めるという理屈

 この裁判では、ユーザー企業の不安や不満の原因となった仕様の未提示やベンダーの情報共有不足には焦点が当てられず、ユーザー企業の不誠実な支払い停止や契約の解除についてのみが糾弾される結果となった。

東京地方裁判所 平成31年2月4日判決から(つづき)

そして(中略)ベンダーはユーザーから本件システム開発の一時停止を要請された。またエンジンの性能評価の実施も、その(中略)準備を完了させ、説明会の準備もあることなどを伝えていたにもかかわらず、(ユーザーは)ベンダーがエンジンの性能評価の趣旨を正しく理解していないなどと述べた上、本件システム開発を完成させて納入することを待つとのみ回答し、(中略)何の対応もしなかったものである。(中略)本件システムが完成しなかった主な原因は、(中略)ユーザーにあり、ベンダーには帰責性はないというべきである。

 ユーザー企業がまずかったのは、一方的に分割費用の支払いを止めてしまったことだ。通常なら、「こんなことでは費用は払えない」とベンダーに申し出て、ベンダーの情報共有やリスク提起、あるいは進捗などの改善策を引き出すべきところを、このユーザー企業は、そうした行動を十分に行わず、勝手に費用の支払いを止めてしまった。これを裁判所はユーザー企業の債務不履行とした。

 もちろん、自ら要望したにもかかわらず、ベンダーが準備した性能評価の方法に何の回答もせずプロジェクトを中止するあたりは、正直、あるまじき態度とも言える。

 ベンダーからの情報共有が不十分で不安になったこともあるだろうし、それが高じて不信感にまで至ったであろうことは、判決文を読んで想像がつく。だからといって、こうした態度は許されないだろう。

 不満があるならそれをはっきりと示し、プロジェクトの進捗や仕様に関する情報を引き出す。そうした後でなら、プロジェクトの中止も分からないでもないが、手順を踏まずに一方的にプロジェクトを中止するなど、常識的に考えて許されるべきことではない。

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