これだけを見ると、突然支払いを止め、ベンダーと協力する意思も見せずに一方的な契約解除を求めるユーザー企業は、ずいぶん身勝手に見える。ただ一方で、開発の比較的早い段階から、ユーザー企業がベンダーに対して不満を募らせていた節もうかがえる。
例えば開発中、ユーザー企業はこんな不満を持っていたようだ。
仕様書も提出されない
システム開発のみが進んでいる状況下において、納期に間に合うのか疑問に思い始めている
実際の現場を見ていないので詳細は分からないが、こうした発言を見ると、ベンダーはユーザー企業とシステム要件に関する正式合意もなく開発を進めていたようだ。しかも状況から見ると、進捗(しんちょく)に関する情報提供が行われず、プロジェクトの課題やリスクについてもユーザー企業への共有が著しく不足していたことがうかがえる。
これではさすがにユーザー企業も不安だろう。この状態では自分たちが望むモノが本当にできるのか確信できない。むしろ、そうならない確率の方が高いのではないか――そう考えても無理はない気がする。ユーザー企業が性能評価を実施しなかった理由として挙げたベンダーの理解不足というのも、こうした仕様などの情報共有の結果かもしれない。
もっとも、ユーザー企業がその不安や不満をベンダーにハッキリとぶつけた様子はない。ただ支払いを止め、やがてプロジェクトの中止を申し入れたのみだ(もしかしたら非公式に不満の声が上がったのかもしれないが、それをベンダーが受け止めていた様子はない)。
さて、十分な情報共有を行わず、勝手に開発を進めたベンダーと、勝手に支払いを止め契約解除の意思を示したユーザー企業。裁判の行方はどのようなものだったのだろうか。
本件システム開発は、ベンダーの持つレセプト診断ソフトウェアのエンジンをカスタマイズすることが予定されていたものであるが、契約締結後にエンジンとユーザー業務との適合性の審査を実施し、その結果によっては、他のシステムを選択する可能性や新システムを構築する可能性があることを予定した規定はない。
いったん、ここで区切る。
この部分から読み取れるのは、ベンダーのエンジンがユーザー企業の業務に十分フィットする機能を有していることは、双方承知だったということだ。そうであるなら、ベンダーが仕様を提出しなくても、ある程度業務に使用できるモノが納品される見込みが高かったとも考えられる。
続きを見ていこう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.