2つのプロトタイピングで「正しく」「早く」失敗する新規事業の不確実性との向き合い方(1)

変化が激しい市場において、価値のあるプロダクトを提供するために必要な「新規事業の不確実性との向き合い方」について解説する本連載。第1回となる今回は「新規事業が抱える不確実性とその対処法」について解説する。

» 2021年10月04日 05時00分 公開
[大庭 亮株式会社Relic]

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 企業の経営を取り巻く環境は急速に変化しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、会社の仕組みや事業、働き方を根本的に見直す必要が出てきています。競争優位性を得るために、イノベーションの創出やDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けた新しい取り組みを始める企業もあります。

 ですが、新しい取り組みには「不確実性」が伴います。それを認識せずに開発の初期段階から多大な投資をしてしまうと「(作ってみたら)想定していた顧客課題が違っていた」「不要な機能を実装していた」「ユーザーインタフェースがユーザーに受け入れられなかった」といった問題が起こりがちです。その結果、プロジェクトの遅延や開発の手戻り、仕様変更などが頻発し、プロジェクトが頓挫してしまうことも珍しくありません。

 そこで本連載では、企業の新規事業開発を支援するRelicの知見を基に「新規事業における不確実性との向き合い方」について解説します。第1回は「新規事業が抱える不確実性とその対処法」についてです。

新規事業が抱える不確実性とは何か

 新規事業開発に携わる上でまず認識すべきは「新規事業における開発は既存事業での開発とは違うアプローチが必要だ」ということです。さまざまなケースがありますが、新規事業は文字通り「これまでやったことのない新しい事業」ですので、市場や顧客に関する情報がほとんどない状態(不確実性が高い状態)でのスタートとなるからです。

画像 新規事業と既存事業の主な相違点

 不確実性が高いため、どのくらい予算やリソースを確保すればいいか分からないという問題があります。情報が不足する中で調査や開発を進めることになるため、既存事業開発と比べて成果が出るまでに時間がかかることにも注意が必要です。そのため新規事業開発は「仮説を立て、実際に試してみること」が重要になります。実際に試すことで「分からないこと(不確実性)」を減らしていこうというわけです。

 では、新規事業が抱える不確実性とは何でしょうか。

「見積もり」の不確実性

 不確実性を表すものとして、ソフトウェア開発における見積もりの難しさを表すときによく取り上げられる「不確実性コーン」という図があります。横軸は時間、縦軸は見積もりスケジュールのブレ(最小と最大の見積もりスケジュール)を示しています。

画像 不確実性コーン

 「初期コンセプト」の時期は不確実性が最も高く、見積もりのブレが大きくなっています。その後、プロセスが進むのに連れて不確実性は減っていき、見積もりのブレは少なくなります(見積もりの精度が上がっていく)。「詳細設計の完了」のプロセスまで行くと、見積もりのブレはほとんどなくなっていることが見て取れます。この図で分かるのは「開発の初期段階における不確実性を下げる取り組みが特に重要である」ということです。

 これはソフトウェア開発における不確実性の話ですが、コロナ禍によって「非対面を前提とした新しいサービス」の構築が必要となった現在、大抵の新規事業はソフトウェア開発を兼ねています。新規事業はソフトウェア開発と同じような不確実性を持っていると考えた方がいいでしょう。

「ニーズ」の不確実性

 新規事業に携わった経験のあるエンジニアであれば「このサービスは本当にニーズがあるのだろうか」「この機能は本当に必要なのか」などと考えたことがあるのではないでしょうか。

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