連載
» 2021年09月29日 05時00分 公開

カインズのCTOに、俺はなる!Go AbekawaのGo Global!〜崔 国編(後)(1/2 ページ)

グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回もカインズの崔国(サイ・コク)氏にお話を伺う。英語も覚えたいし、MBAも取りたい。やりたいことが止まらない崔氏は次に何を望むのか。

[取材・文:阿部川久広(Go Abekawa), 構成:中村篤志,@IT]

 世界で活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。今回もカインズの崔国(サイ・コク)氏に登場していただく。カインズでさまざまな業務改善に取り組む崔氏が進める「100%を目指さない仕事の進め方」とは。聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。

結婚を機にカインズへ

阿部川“Go”久広(以降、阿部川) 2018年に、カインズに入社されます。カインズに転職を考えたのはなぜでしょうか。

崔氏 転機になったのは結婚です。当時、彼女が東京で働いていて、毎週1回会うと交通費がすごいことになりました。メッセージアプリやチャットなどで連絡はできましたが、やっぱり「直接会いたい。この人がいないと喜びもない。早く結婚しなくちゃ」と思い、東京で仕事をしたいと転職を決めました。

画像 すてきな結婚式の写真。王子様とお姫様みたい

阿部川 大都にいるときからカインズのことは知っていたのですか。

崔氏 はい。カインズは大都に資本提携をしていますので。ただ、「関係性で入ったら駄目だよ(縁故採用は駄目だよ)」と言われていましたので、ちゃんと正規のルートで試験や面談を受け、入社しました。

 最終面接で「最初は必ず店舗研修を受ける必要があり、期間は1カ月以上になるかもしれないが問題ないか。IT関連の部署ができるまで待てるか」と聞かれて「待ちます」と答えました。「店舗で業務のことをちゃんと勉強して、理解した上でプログラムを作っていきます」と宣言したんです。また宣言しちゃった(笑)。

阿部川 宣言好きですね(笑)。でも、ちゃんと宣言して、その通りに実行するのは素晴らしいと思います。

崔氏 ただ、最初は苦労しました。資材を扱う店舗(資材館)に配属されたのですが、資材にどんな種類があるのか、工具はどんな風に使うのか全く分かりませんでした。独特の呼び方にも苦労しました。お客さんに「ネコはどこですか」と聞かれて、しばらく混乱したことを覚えています(ちなみにここでいう「ネコ」は一輪台車のこと)。

 接客も大変でした。日本の建物のことを知らないので「○○で使うもの」と聞かれても分かりません。しかも当時は、分からないことがあっても「お客さまの前でスマホを扱ってはいけない」というルールがあったのでスマホで調べることができませんでした。

画像 商品名が分からなくて苦労した店舗研修時代

 とにかく商品の名前や配置を覚えなくてはならなかったので、「昼間は働いて、夜はひたすら商品と店舗のオペレーションを覚える」の繰り返しでした。短ければ1カ月という話だった店舗研修は半年続きました。さすがにそれ以上になるとITスキルで同期に差がついてしまうのではないかと心配していたころ、イノベーション室に異動になりました。

阿部川 大変でしたね。苦労した分、お店の状況とITの両方が分かるエンジニアになれたのではないでしょうか。イノベーション室は何をするところなのですか。

崔氏 4人のメンバーがいて、それぞれミッションが違いました。私のミッションは2つありました。1つ目はECサイト「カインズダッシュ」(当時の名称は「b-dash」)を立ち上げること。2つ目は店舗に詳しい人にITを教えることです。「テーブルとは何か」「SQLとは何か」といった感じです。単純に単語の意味を伝えるのではなく、分かりやすい言葉に翻訳をする必要がありました。

「100%を目指すな」と言われて覚えた、仕事の進め方

阿部川 店舗のスタッフとITをつなぐ橋渡しの役割だったのですね。その後、現在所属されているデジタル戦略本部ソリューション室に異動されます。

画像 阿部川“Go”久広

崔氏 最初は3人しかいなくて「たった3人で何ができるんだろう」と思っていました(笑)。ソリューション室の目的は文字通り、店舗の課題にソリューション(解決策)を提供することです。

阿部川 崔さんはソリューション室でどんなプロジェクトに携わったのですか。

崔氏 「カインズピックアップ」というサービスの改善です。このサービスは顧客が事前にPCやスマホから注文すると、翌日には商品が店舗に届き、スムーズに商品を受け取れます。カインズピックアップはぱっと出てきたものではなくて、カインズの「デジタル戦略の柱」の一つとして取り組んできたものです。事業部の人が海外に研修に行って、そこで得たノウハウを事業化し、仮説構築と検証を繰り返してようやく実現したサービスなんです。

 ただ当時、このサービスはメールだけでやりとりされていて、管理が十分ではありませんでした。そこで私は管理画面を新たに作成して管理しやすくしました。他にも商品を入れる「ピックアップロッカー」についての改善をしました。ピックアップロッカーの開閉にQRコードを使っていたので、それをメールで表示させる機能を開発しました。この機能は、店舗に行ったときにサービスの担当者に「QRコードでピックアップロッカーを開閉できるよ」という話を聞いたときに思い付いたものです。その話を聞いた翌日に作ったら事業部の人がびっくりしていました。

阿部川 現場の課題を解決する素晴らしいソリューションですね。

崔氏 はい、そうだと思います。今でもよく覚えていますが、当時の部長に「100%を目指すな」と言われたんです。「80%までできたら、その後徐々に進めていけばいい」と。

 注文してから55分で商品を受け取れる「55-DASH」というサービス(注)があるのですが、それを全店舗に広げようという話がありました。でも、いきなり全店舗に広げるのは反対もあるだろうし、現実的ではないですよね。ですので「1日を3つに区切ってみたらどうだろう」「文字列ばかりの管理画面を改善してみよう」といった感じで徐々に実現に向けて進めていったのです。

編集注:カインズピックアップとは別のサービスで、資材館でのみ利用可能。閉店1時間前までに申し込むと最短55分で商品を受け取れる。

画像 データ連携ツール「ASTERIA Warp」のイベントで表彰される崔さん

阿部川 いきなり完全を目指すのではなく、できるところから徐々に作り上げていくということですね。中期の経営戦略でのデジタルの推進であるとか、ITの内製化であるとか、カインズが目指す大きな戦略があるから、そういうことが実現できているんですね。

崔氏 そうですね。デジタル戦略会議などは普通の社員なら入りにくいと感じるでしょうが、私は積極的に参加させてもらっています。そこで感じたのは「今カインズが抱えているのは、技術の問題ではない、技術だけでは全ては解決できない」ということです。でも私はそのとき、事業部が何を話しているのかが全然分からない状態でした。ROI(投資利益率)とかROA(総資産利益率)とかカスタマージャーニーって何だろう、と。そういうことをちゃんと学ばないと、経営のことを学ばないといけないと思ったのです。そこで事業部長に「私、MBAを受けます。どんなに忙しくてもやります」って宣言したんです。

阿部川 また宣言ですね。「宣言の崔」と言われているんじゃないですか。

崔氏 そうかもしれません(笑)。いろいろな大学に挑戦して今は中央大学でMBAを勉強しています。毎日夜遅くまで、土日も全部使って勉強しているんですよ。エンジニアは残業が多かったり、マネジメントが大変だったりするのでなかなか普通はMBAを取りにくいと思うんですが、最近は他にもMBAに興味がある人が社内でも増えてきたみたいです。

阿部川 それは崔さんが声を上げたからですよ。企業側でもそういう人材を必要だと考えたということだと思います。カインズは自らをホームセンターと捉えない。どちらかと言うとIT小売企業という大きな戦略があるので、それを実行するにはITだけではもちろん駄目で、最近のはやりではDX(デジタルトランスフォーメーション)などと言いますが、現実的にはビジネスもITも一緒に分かっていかないと変わっていけないということをカインズはよく理解されているんだと思います。

崔氏 DXというと技術の話が最初に出がちですが、エンドユーザー側の視点ではそうでもないんですよね。技術だけでは何も救えないし、DXは結果論なので。本当のイノベーションは何なのかと言うと、ITを信頼して関係者全員の目線がちゃんと理解できて「これはやっていかないといけない」と全員の意識が変わったときに生まれると思います。

阿部川 事業で考えれば、自分の会社だけDXが実現しても駄目ですよね。顧客もいるし、お取引先もいるし、メーカーもいるし、使う人たちのマインドセットも変わらないといけない。

崔氏 はい。カインズの中の意識も変わりつつあります。「DXは自分だけでは起こせない、みんなと一緒にやっていくものなのだ」と。そういった状況なのでデジタル戦略本部の信頼がすごく高まっています。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。