データとアナリティクスの効果最大化に向けた市民データサイエンティストの活用法Gartner Insights Pickup(223)

市民データサイエンティストは、企業のビジネス価値やアナリティクスの成熟度を高められる。だが、大抵の場合、市民データサイエンティストの能力は十分に活用されていない。

» 2021年09月10日 05時00分 公開
[Manasi Sakpal, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 データサイエンスの力を活用することで、企業は差別化による競争優位性を実現できる。そのため、データサイエンス人材の需要が増加している。だが、供給は依然として乏しく、需要に追いついていない。その結果、データサイエンスや機械学習(ML)を担う、これまでにない役割が生まれている。その一つが「市民データサイエンティスト」だ。

 Gartnerによると、市民データサイエンティストは、予測的アナリティクスや処方的アナリティクスを利用したモデルを作成または生成するが、主に、統計や分析以外の分野の職務を担っている。

 市民データサイエンティストの役割は、企業における人工知能(AI)やMLの活用を、簡単に、費用対効果よく加速させる特効薬として推進されることが多い。だが、市民データサイエンティストの能力を引き出している企業はほとんどない。

 「企業がこの分野で直面している最大の問題は、市民データサイエンティストの責任が明確ではないことだ。このあいまいさのせいで、専門のデータサイエンティストと市民データサイエンティストの間で対立が生じ、健全なコラボレーションやコミュニケーションを妨げている」と、Gartnerのアナリストでアソシエイトプリンシパルのアニルド・ガネシャン(Anirudh Ganeshan)氏は説明する。

 市民データサイエンティストが成功するには、データとアナリティクス(D&A)のリーダーが、その役割をアナリティクスの正当なアプローチの担い手として実効性のあるものにし、奨励し、推進しなければならない。そのためには、D&Aリーダーは次の4つの取り組みを行う必要がある。

1.市民データサイエンス(CDS)エコシステムを構築する

 D&Aリーダーは、市民データサイエンス(CDS)を推進するために、人、ツール、データ、プロセスを含む包括的なエコシステムを構築する必要がある。「市民データサイエンティストは、堅実で高度な分析をするためのデータへのアクセスやデータの変換、調査に必要な知識とスキルを持っている」という、表面的な仮説は役に立たない。市民データサイエンティストが提供されるデータにアクセスして利用し、その意味を理解するには、データリテラシープログラムを実施する必要がある。

 「市民データサイエンティストに、孤立無援で仕事をさせてはならない」と、ガネシャン氏は語る。

 市民データサイエンティストには不足しているスキルがあり、ビジネストランスレーターや開発者、データエンジニア、MLアーキテクトといった補完的な役割の担当者が、そうしたスキルギャップを埋めることで市民データサイエンティストをサポートできる。

 さまざまな補完的な役割の担当者で構成される、活気のあるアナリティクスコミュニティーを構築するだけでなく、アナリティクスコンテンツの作成や公開のスムーズなフローを実現する効率的なプロセスを設定する必要がある。

2.拡張アナリティクスを実現する機能を追加する

 企業は“ビッグバン”アプローチを取る代わりに、既に使われているアナリティクスツールを拡張する機能を徐々に追加することも考えなければならない。これは、D&Aリーダーが市民データサイエンティストの手に負えない全く新しいツールを用意するのではなく、市民データサイエンティストが使っている既存ツールを拡張していく必要があるということを意味する。

 そのための第一歩は、市民データサイエンティストが使っている既存のツールや機能を総合的に分析し、足りない点を見つけることだ。CDSの機能を補完するのに必要なツールには、データストーリーテリング、データ準備、自然言語クエリによるダイレクトクエリ、アナリティクスモデルの運用化などがある。

 拡張アナリティクスは、拡張データ前処理や拡張データディスカバリ、拡張データサイエンスといった幾つかのステップを実行するためのガイド付きの優れたアプローチを提供する。D&Aリーダーは、CDS向けの既存ツールキットにこれらを追加できる。

(出所:Gartner 拡張アナリティクスのワークフロー)

3.CDSを含むビジネス拡張プロジェクトを開始する

 ビジネス拡張プロジェクトは、市民データサイエンティストが、自社のD&A戦略にすぐに不可価値を提供できることを示す格好の機会になる。例えば、D&Aリーダーはまず、意思決定を繰り返し行う必要がある社内の既存プロセスを特定する。さらに、アナリティクスワークフローにおける反復的で冗長なタスクの処理に市民データサイエンティストを活用することで、自社に価値をもたらすことができる。それと同時に、専門のデータサイエンティストを、より複雑なタスクに注力させることも可能だ。

 D&Aリーダーは、市民データサイエンティストを活用するビジネス拡張プロジェクトを選択する際、以下の4つの点に留意する必要がある。

  • 既存のビジネスプロセスやプロダクトに関連する、範囲が限定された既知の機会を優先する
  • 開発されたモデルやアナリティクスの結果を周知し、共有する
  • 作ることを自己目的化せず、作ったものを活用する
  • 変革をもたらすプロジェクトも実施し、専門のデータサイエンティストと密接に協力する

4.市民データサイエンティストと専門のデータサイエンティストのコラボレーションチャネルを構築する

 市民データサイエンティストは、専門のデータサイエンティストに取って代わるものではなく、既存のアナリティクスの業務を補完する役割を果たす。「市民データサイエンティストは、セルフサービスのデータサイエンスプラットフォームをばらばらに利用してはならない。本番環境への移行に先立つモデル検証に最終責任を負う専門のデータサイエンティストと共に、開発プロセスに参加すべきだ」と、ガネシャン氏は説明する。

 D&Aリーダーは、アナリティクスプロセス全体にわたるコミュニケーションおよびコラボレーションチャネルの構築と実現に注力するとともに、専門のデータサイエンティストと市民データサイエンティストの両方を巻き込んで、コラボレーションプロセスおよびアプローチを定義する必要がある。

出典:How to Use Citizen Data Scientists to Maximize Your D&A Strategy(Smarter with Gartner)

筆者 Manasi Sakpal

Public Relations Manager


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