TSMCが熊本に半導体工場を建設すると発表した。足元では半導体不足が続いており、これで半導体不足も解消される、という報道も見かける。でも、待ってほしい。本当に半導体は不足しているのだろうか? 半導体不足の原因を筆者なりに推測してみた。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
TSMCの熊本進出が話題になっていた(TSMCの日本国内の半導体製造工場設立については、「財務報告 -2021Q3」で発表されている。詳細は、EDITED TRANSCRIPT「2330.TW - Q3 2021 Taiwan Semiconductor Manufacturing Co Ltd Earnings Call」参照のこと)。TSMCの工場は、日本での半導体製造の復活に資すると思うが、まだ先の長い話である。
足元では半導体不足が続いている。半導体の需給のバランス回復には、「2022年後半までかかる」とか、「いや2023年までかかる」といった報道が続いている。コロナウイルスからの脱却が「見えて」きて、需要の回復が著しく、「不足」「不足」の声が響き渡っているように感じられる。
しかし、個人的にはそういうニュースにかなり違和感があるのだ。半導体不足のせいで完成品の製造を減産せざるを得ない。だから「半導体をもっと作れ!」といのは、少々短絡的過ぎるのではないか、と思ってしまうのだ。
現実に自動車やスマートフォン(スマホ)、そして家電に至るまで、いろいろな製品が半導体不足の影響で減産しているというニュースが流れてくる。確かに特定の半導体製品が手に入らなくて減産をせざるを得ないという状況はあるのだろう。
しかしだ、1つの完成品を作るために必要な半導体製品は、1種類ではない。SoCプロセッサやメモリ、電源、アナログ、センサーなど多種多様な半導体製品が多数必要だ。当然、半導体だけでなく受動部品だって必要だ。
SoCといわれるようなメイン部品は、最先端微細なロジックプロセスで、限られたメーカーでしか作れない。メモリも微細プロセスが必要だが、ロジックとは工場が異なる。電源やアナログなどは、線幅は太いが、それぞれの製品に特化したプロセスを使っているだろうし、センサーなどにはMEMSプロセスも使われている可能性もある。
工場もいろいろ、メーカーもバラバラである。それがみんな同じペースで不足しているのであれば、ある意味バランスが取れて余るものはないはずだ。
しかし、報道によると不足しているのは、先端のSoC製品であったり、車載MCUであったりと、特定の半導体製品である。完成品の生産量そのものが減っているのであれば、供給に問題のなかったデバイスにとばっちりを受け、行き先がなくなったデバイスが在庫になって積み上がる、といった事象が起きてもおかしくない。
普通、在庫が積み上がるのは、不況で需要が落ちたときだ。今回のように需要が急回復している局面で在庫が積み上がる心配など不要、といわれる。でもそんな単純な問題でもないように思われるのだ。
背景には世界的なサプライチェーンの混乱がある。
コロナウイルスの「出だし」の頃、航空ネットワークがパッタリと止まった時期は、航空機に依存する半導体の物流は大混乱だったと思う。混乱がもたらしたのは納期の大幅遅延である。
納期の遅延は、途中の仕掛り在庫の増大と見てもよいだろう。しかし、航空貨物の混乱は、一時に比べると収まってきていると想像する。半面、海運はかなり滞っている状態のようだ。重量の重い完成品は海運を使うことが多い。現在は、どちらかというとサプライチェーンの入り口の半導体よりも、出口の完成品の物流側が目詰まりしている状況と考えられる。
また、中国の電力危機および物価上昇の問題もある。中国は世界の半導体の需要の半分ほどを飲み込む巨大な製造拠点だ。人から聞いた話なので数量の裏付けなどは不明なのだが、結構、電子機器の組み立て工場も停電で止まることがあるらしい。
組み立てが止まったら完成品の数量が減るだけでなく、半導体は在庫になって積まれてしまうはずなのだ。まぁ、中国の地場の半導体工場も同じようなペースで止まっていれば、どっちもどっちでバランスするが……。
また、エネルギー価格を中心とした物価上昇で局所的な市況減速の話も聞く。先端半導体不足はともかく、コモディティ製品がダブついてもおかしくない状況だと思う。
そう思って「不足だ」という大声の中で「ちょっと違う」ニュースを探してみた。まずは韓国の状況が気になった。Samsung(サムスン電子)は、先端のSoCでも大手だが、ご存じの通りメモリデバイスは韓国勢のシェアが圧倒的だ。
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.