第258回 Intel「Alder Lake」とAMD「EPYC」に見る次の戦いの行方頭脳放談

Intelからコンシューマー向けプロセッサ「Alder Lake」が、AMDから第3世代のサーバ向けプロセッサ「EPYC」がそれぞれ発表された。用途は異なるものの、この2つのプロセッサから、Intel VS. AMDの次の戦いが見えるような気がする。

» 2021年11月19日 05時00分 公開

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AMD EPYCのプロセッサ構成 AMD EPYCのプロセッサ構成
AMD EPYCは、8個のx86コアで構成されている。サーバ向けとして高い性能を実現するという(AMDのWebページ「AMD EPYC Processors」より)。

 朧気(おぼろげ)な記憶によれば、「AMDがデータセンター向けプロセッサEPYCの第2世代を発表した」と書いたのは2021年に入ったばかりのころだと思う(頭脳放談「第248回 AMDのデータセンター向けプロセッサ『AMD EPYC』は『お、ねだん以上』?」参照のこと)。

 まだ2021年末というには早いというのに、また書かなければならないようだ。「AMDがデータセンター向けプロセッサ『EPYC』の第3世代を発表した」と(第3世代のEPYCについては、AMDのWebページ「AMD EPYC 7003 Series Processors」参照のこと)。この発表の頻度に実感する。AMDの企業や大規模組織向けの市場(エンタープライズ市場)への傾倒ぶりがよく分かるというものだ。

 一方、Intelの新世代「Alder Lake(アルダーレイク)」が市場に出回ってきている(Intelのプレスリリース「インテル、第12世代インテルCoreプロセッサー・ファミリーを発表」参照のこと)。「ようやくAMD(TSMC製造)と同等に戦えるようになった」はずの製造技術によるデバイスだ。

 このチップは、Armの「bigLITTLE(高速だけど消費電力が多いコアと、そこそこの性能だけど消費電力が少ないコアとの組み合わせ)」のマネといってはなんだが、高速コア(大)と高効率コア(小)のHigh-Lowミックスなヘテロ(ヘテロジニアス)な構成を特徴としている。Intelでは高速コアを「Performance-core(P-core)」、高効率コアを「Efficient-core(E-core)」と呼んでいる。

Alder Lakeのブロック図 Alder Lakeのブロック図
Alder Lakeでは、高速のP-coreと高効率のE-coreの組み合わせで構成される。ワークロードによってこの2つのコアを切り替えることで、低消費電力と高性能の両立を実現するという(IntelのWebページ「概要: デスクトップ PC 向け第 12 世代インテルCoreプロセッサー」を基に作図)。

 実際、ArmのbigLITTLEはスマートフォン(スマホ)分野で、とてつもない実績を積み上げてきているアーキテクチャだ。Intelのそれは、Armとは異なるが、その指向性としては一般消費者向けの市場(コンシューマー市場)に適合することはほぼ間違いないだろう。

AMDはサーバ市場に殴り込み?

 こうして書いてみると、両社、相手の得意とする市場に「殴り込んでいる」ことが分かる。AMDとしては、長年指をくわえて眺めているしかなかったエンタープライズ市場の門戸が、ここに来てAMDに大きく開かれたので、ここで一気にシェアを伸ばしたいのだろう。何といってもエンタープライズ市場は、利益の大きさが違う。AMDの目の色が変わるのも無理はない。

 一方、Intelには長期にわたる自社プロセスの停滞と、十分な数を出せなかった製造上のオウンゴール的問題があった。

 しかし、そこをAMDに突かれて、AMDに急速なシェア拡大を許してしまったのには、AMD側の努力もある。長年ギリギリの経営を続けながらも、ゲーム向けに代表されるコンシューマー市場向けに「お値段の割に性能がよい」とか「消費電力の割に性能がよい」とか、「コスパ」とか「パワパ(そういう言い方しないか?)」のよさを指向してきて、実績を積み上げてきた。それがZenアーキテクチャの登場とともに市場に広く認知されたという背景がある。

 現段階では、AMDの「コスパのいい」イメージが、市場を覆っている感じがする。以前ほどデリバリーがよくなく、また安くないかもしれなくてもだ。端的にいえば、Intelにしたら、その市場認知を切り崩さないことにはそのうち立つ瀬がなくなる可能性もあり、危機感があるように思える。AMDよりもお求めやすい価格で性能が上回る、という状況をローエンド、つまりはコンシューマー市場から打ち立て、AMDの立場をそぎ落としていきたいのだと思う。

 ビジネス的にはIntelとAMDのノーガードの打ち合いにも見える状況だが、前述の通りそのポイントは絶対的な価格とか絶対的な性能、消費電力ではなく比率(レシオ)なのである。

 そして、技術的にも絶対的な性能ではなく、相対的なものがより重要になってきているように思われるのだ。その昔は技術を足し算的に積み重ねて高性能を目指したが、今は引き算で削っていって何処(どこ)まで性能を残せるか、という時代になっている。

消費電力との戦いは、時間的なオン/オフか、空間的なオン/オフか

 ダークシリコン(シリコンチップ上で消費電力の制限により、電力の供給が行えない領域)が問題になったのは一昔以上前かもしれない。そのころから、プロセッサ的には、全性能を同時にフルに発揮させてしまったら過大な発熱でトランジスタが溶けかねない状況になってきた。

 いかにして、どこを止めるか、リミットをかけるか、が最重要課題となっている。温度をチェックしながら、コアごとに仕事のオン/オフと周波数を調整してきたわけだ。

 IntelのAlder Lakeがよい例だと思うが、性能だけなら大きいコアだけを並べる方がいい。しかし、それでは無理が生じるので、小さいコアと組み合わせて散らせるわけだ。この散らせ方、が現段階ではIntelとAMDで差がありそうだ。

 抽象的にいえば、空間的に「オンの部分」と「オフの部分」を切り分けるという方法と、時間的に「オンの時間」と「オフの時間」を分割する方法があり得る。実際にはその両方が組み合わさっている。

 それは、IntelもAMDも例外はない。しかし、アプリによって、オン/オフの最適解は明らかに異なるのだ。例えば、エンタープライズ市場では、負荷のなだらかな変動はあるものの、比較的均質なスレッドが24時間365日、大量に実行され続ける。

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