2021年9月初めのWindows Server 2022、2021年10月初めのWindows 11に続いて、2021年11月中旬にWindows 10 November 2021 Updateがリリースされました。これらのOSは全て「21H2」という共通のバージョン番号を持ちます。しかし、OSの世代としては3つとも異なり、リリース順とも違います。なぜでしょう。
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Microsoftはこれまで、同じOSビルドで構築されたサーバ版のOSと、クライアント版のOSを提供してきました。「Windows 10」と「Windows Server 2016」以降は少し複雑になりましたが、それより前は、名前からは判断できなかったり、リリース時期も若干ずれたりしましたが、必ず、あるバージョンのWindows Server OSには、対応する同じOSビルドベースのWindowsクライアントOSが用意されてきました(表1)。
WindowsクライアントOS (SAC/LTSC) |
OSビルド | Windows Server OS LTSC(SAC) |
---|---|---|
Windows Vista | 6.0.6000(RTM) 6.0.6001(SP1) 6.0.6002(SP2) |
Windows Server 2008 |
Windows 7 | 6.1.7600(RTM) 6.1.7601(SP1) |
Windows Server 2008 R2 |
Windows 8 | 6.2.9200 | Windows Server 2012 |
Windows 8.1 | 6.3.9600 | Windows Server 2012 R2 |
Windows 10 Windows 10 Enterprise LTSB 2015 |
10.0.10240 | なし |
…… | ……(v1511) | なし |
Windows 10 Anniversary Update Windows 10 Enterprise LTSB 2016 |
10.0.14393(v1607) | Windows Server 2016 |
…… | ……(v1703〜v1803) | なし (Windows Server SAC v1709〜v1803 ) |
Windows 10 October 2018 Update Windows 10 Enterprise LTSC 2019 |
10.0.17763(v1809) | Windows Server 2019 (Windows Server SAC v1809) |
…… | ……(v1903〜v21H1) | なし (Windows Server SAC v1903〜v21H1) |
Windows 10 November 2021 Update Windows 10 Enterprise LTSC 2021 |
10.0.19044(v21H2) | なし |
表1 Windowsクライアント(SAC/LTSC)とWindows Server LTSCのこれまでの歩み |
例えば、「Windows Server 2003」に対する「Windows XP」、「Windows Server 2008 R2」に対する「Windows 7」、「Windows Server 2012 R2」に対する「Windows 8.1」の存在です。Microsoftは新しいサーバOSやクライアントOSが登場するたびに、それらの組み合わせを“Better Together”(併せて使うとより便利に)として導入キャンペーンを行ってきました。
Windows 10が登場し、そしてWindows Server 2016がリリースされてから、状況が少し変わりました。Windows 10の最初のバージョンに対応するサーバOSは提供されず、Windows 10 Anniversary Update(バージョン1607)で同じOSビルドのWindows Server 2016がリリースされ、その後、数年間隔でWindows 10のそのときのOSビルドと同じビルドベースのWindows Server LTSC(長期サービスチャネル)がリリースされるようになりました。
そして、Windows Server LTSCと同じタイミングで、Windows 10のLTSC版も提供されました(Windows 10 LTSCは、機能の固定化が必要な場合や、インターネットに接続できない特定の環境、用途向けの製品)。途中、Windows Serverにも「Server Core」環境のみのSAC(半期チャネル)が登場し、Windows 10 バージョン1709〜20H2まで同じOSビルドベースのWindows Server SACが提供されました。なお、Windows Server SACはバージョン20H2のサポート終了(2022年8月11日)を最後に廃止されます。
Windows 10 バージョン21H2のリリースと同時に、Windows 10 Enterprise LTSC 2021もリリースされました。Windows 10の次期LTSC版は2021年の初めにリリースが予告されていましたが、多くの人が「LTSC 2022」であり、「Windows Server 2022」と同じOSビルドになると考えていたのではないでしょうか。当時、「Windows 11」については、まだ何も決まっておらず、Windows 10がずっとこの先も続くと考えられていたからです。しかし、実際には「LTSC 2021」として登場し、数カ月前にリリースされた「Microsoft Office」の永続ライセンス製品「Office LTSC 2021」にそろえられる形になりました。
Windows Server 2022、Windows 11、Windows 10 November 2021 UpdateのOSバージョンは全て「21H2」ですが、OSビルド番号はWindows Server 2022が「20348」(後出の画面4)、Windows 11が「22000」(画面1)、最新のWindows 10が「19044」(画面2)です。
OSビルド番号を見ると分かるように、Windows 10の最新バージョンは、Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004、ビルド19041)とOSコアが共通(品質更新プログラムも共通)のマイナーアップデートであり、2年近く大型アップデートが行われてきませんでした。Windows 10 Enterprise LTSC 2021は、Windows 10の最新バージョンと同じ「19044」です(画面3)。
OSビルド番号で識別すれば、Windows 11が最も新しい世代であり、Windows 10は旧世代、その中間にWindows Server 2022が存在するという感じです。これらはそれぞれ、Windows 10 Insiderの異なる開発コード、異なる開発ブランチで開発されてきたものです(表2)。
OS名 | OSビルド (バージョン) |
開発コード名 (リリースブランチ) |
サポート期間 |
---|---|---|---|
Windows 10 November 2021 Update Windows 10 Enterprise LTSC 2021 |
10.0.19044 (v21H2) |
Vibranium (VB_RELEASE) |
18カ月(SAC Home/Pro) 30カ月(SAC Enterprise/Education) 5年(LTSC) |
Windows Server 2022 | 10.0.20348 (v21H2) |
Iron (FE_RELEASE) |
10年(LTSC) |
Windows 11 | 10.0.22000 (v21H2) |
Cobalt (CO_RELEASE) |
24カ月(Home/Pro) 36カ月(Enterprise/Education) |
表2 3つのWindows製品の最新バージョンの違い |
では、サーバOSであるWindows Server 2022と“Better Together”になるのは、Windows 11と最新のWindows 10のどちらでしょうか。それは、利用シナリオによって変わってくると思います。
Windows Server 2022とWindows 11が共に備える最新機能を利用したければ、Windows 11ということになります。例えば、SMB(Server Message Block)の新機能である「SMB over QUIC」(サーバ側はWindows Server 2022 Datacenter:Azure Editionのみサポート)や「SMB 3.1.1の256bit暗号化」「SMB圧縮」といった機能、ネットワークトランスポートの最新プロトコル「TLS 1.3」(SMB over QUICやHTTP/3で使用)をクライアントとして利用できるのは、Windows 11以降になります。
デスクトップ環境やアプリケーションプラットフォームとしての互換性や操作性を重視するなら、最新のWindows 10ということになるでしょう。Windows Serverはリモートデスクトップサービス(RDS)を使用して、セッションベースの仮想デスクトップ(1台のサーバのデスクトップ環境を複数ユーザーで同時利用)を提供できますが、これまでは同じOSビルドベースのWindowsクライアントとほぼ同等の環境を提供できました。
しかし、Windows Server 2022には同じOSビルドのクライアントはありません。ですが、そのデスクトップ環境はWindows 11よりも、Windows 10に限りなく近いものですし、アプリケーションの互換性機能も同等です(画面4)。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2022(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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