モダンなインフラのよくある5つの誤解を認識し、解消するGartner Insights Pickup(250)

インフラの優れた選択肢が出てきているが、CIO(最高情報責任者)はより大きな不確実性とさらなるリスクおよび大げさな主張に悩まされている。

» 2022年03月25日 05時00分 公開
[Manasi Sakpal, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 モダンなインフラストラクチャは、アジリティ、柔軟性、スケーラビリティが高い。全てのCIO(最高情報責任者)のデジタル戦略の最前線に位置し、あらゆる場所に展開されている。だが、選択肢が多いため複雑でもある。

 世界のインフラ市場がディスラプション(創造的破壊)と変革が進む過渡期には、誤解を招くようなベンダーのマーケティングが行われ、CIOやITリーダーは、モダンなインフラの効果について誤った期待を抱きやすくなっている。

 「多くの誤解やハイプ(誇大広告)が、まん延している。それらは大抵、何かを売り込もうとする人々が引き起こし、拍車を掛けている」。Gartnerのアナリストでシニアディレクターのポール・デロリー(Paul Delory)氏は、インドのケララ州のコチで開催されたGartner IT Symposium/Xpo 2021でのプレゼンテーションでそう語った。

 こうした誤解に陥ると、企業は損失を被る恐れがある。そのため、変化の激しい現在の環境下でインフラの構築や変更をする際は、まず、モダンなインフラにまつわるよくある誤解を認識し、解消する必要がある。

(出所:Gartner モダンなインフラのよくある5つの誤解)

誤解その5:クラウドは場所である

 クラウドは、インターネット技術を利用して、IT関連の機能をスケーラブルで弾力的なサービスとして、顧客に提供するコンピューティングスタイルを指す。場所として考えるのではなく、疎結合のサービスが組み合わされてアプリケーションを形成する、新しいコンピューティングパラダイムとして考える必要がある。従来のITインフラとは、根本的に異なっている。

 アプリケーションやデータをパブリッククラウドインフラに移行できない場合もあり、その理由は多岐にわたる。例えば、規制順守やレイテンシ、オフラインアクセスの必要性などだ。それでも、多くの企業がデータセンターやエッジでクラウドモデルを求めている。その場合、プロバイダーからターンキーサービスを購入するか、自社で構築するかの選択が必要になる。

 クラウドファーストのアプローチが求められるようになってきているため、CIOは次の点を考えるべきだ。

  • パブリッククラウドを使用することでコストが下がるか? パブリッククラウドから得られるメリットは何か?
  • コストが下がらなくても、より良いものを求めて移行すべきか?
  • クラウドに移行できない規制、コンプライアンス、保険上の理由があるか?
  • 分散アプリケーションは、利用サイトとパブリッククラウド間のレイテンシを許容するか?
  • 信頼できる接続性があるか。全てのインフラを一元管理できるか?

誤解その4:独自のインフラを構築しなければならない

 IT部門は、かつては独自のインフラを構築していた。多くの場合、3つの異なるベンダーから、サーバやストレージ、ネットワークスイッチを購入し、自分たちで全てを接続して構成していた。だが、現在では通常、これらをする必要はない。既製のターンキーインフラスタックを購入すれば、接続と構成はほとんど、あるいはまったく必要ない。

 その方法の1つがパブリッククラウドへの移行だが、それだけではない。コンバージドインフラ、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)、専用インフラ、コンポーザブルインフラなどの統合システムは、データセンターとエッジに構築済みインフラのメリットをもたらす。

 「分散クラウド」も同様だ。分散クラウドは、ハイパースケールなパブリッククラウドプロバイダーが、自社インフラのサブステーションを顧客サイトに配置し、ネイティブサービスを提供して、顧客のデータセンターでホストされるアプリケーションやデータに適用できるようにするものだ。これにより、パブリッククラウドプロバイダーが運用するIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)が、オンプレミスで利用できるようになっている。

 インフラを構築する場合とベンダーから購入する場合とで、原価価値を比較する。新しいシステムは既存IT環境と統合できるのか、増えるコスト以上の価値を新しいシステムが生み出せるのか、確認する。

誤解その3:インフラの自動化によってコストを削減できる

 自動化は、インフラとオペレーション(I&O)で起きている変化の中心にある。自動化はもはやオプションではない。現代の分散インフラの大規模化や複雑化への対応であり、自動化せずにこれらのインフラを管理することはできない。

 だが、多くのIT部門は「自動化によってコストを減らせる」と誤解して、自動化を追求する。多くの企業はインフラ支出の削減を目指しており、しばしばそのために人員削減を図る。すなわち、手作業とその担当者を自動化によって代替しようとする。

 自動化がコスト削減につながる可能性は低い。インフラ自動化の取り組みは、コストを減らすのではなくコストをシフトする傾向がある。これは非常に有益だ。時間と資金をより価値の高いプロジェクトに有効活用できるからだ。だが、インフラを自動化しても、通常、実際に現金を節約できるわけではない。

 インフラ自動化の短期的な目標は、効率アップとそれによる生産性向上だ。実現するとしても、コスト削減はプロジェクトの後半になってからだ。

 「インフラの自動化は、インフラをより良くするがコストを下げるわけではない」と、デロリー氏は強調する。「インフラ自動化のビジネスケース(投資対効果検討書)を作成する場合は、そこがポイントになる。いかにコストを削減するかではなく、いかに付加価値を提供するかに焦点を当てるとよい」

 自動化のメリットを定量化するには、例えば、自動化によってデプロイの回数が増えたかどうかを計算する。回数が増え、エラー率が低くなれば理想的だ。そうなれば、イノベーションにより集中できる。これもインフラ自動化のメリットだ。

誤解その2:インフラは自律化できる

 一部のベンダーは「人工知能(AI)」を搭載し、手動の操作(と、もしかすると人間のオペレーター)を代替する「自律型」インフラを提供すると主張する。だが、こうした主張は全く精査に耐えない。「理論上、現在の技術では、自律性は実現できない。われわれのシステムは、考えることも判断することもできないからだ」と、デロリー氏は語る。

 実際には、AIOps(Artificial Intelligence for Operations)は、人間のオペレーターの意思決定を支援する役割を果たす。この役割では、AIOpsは極めて価値が高い。例えば、機械学習アルゴリズムは膨大な量のデータを学習し、人間には決して見つけられない相関関係を発見できる。そのため、AIOpsは予測分析に優れており、リソースがいつ枯渇するかを予測したり、障害の根本原因の解明に役立ったりする。

 AIOpsツールは、特定の条件の下で、事前に定義されたルーティンを実行することもできる。その前提は、人間が問題の解決策を考案し、その解決策を実行するコードを作成し、AIOpsツールがいつどのようにそのコードを実行できるようにするかを厳密に定義することだ。AIOpsは、独自に解決策を考案することも、発見した問題を人間の介入なしに修正することもできない。

 以上のように、AIOpsは非常に役に立つ場合があるが、自律的なものではない。

誤解その1:企業は変化への準備ができている

 実のところ、ほとんどの企業のIT部門は、モダンなインフラとオペレーティング(I&O)モデルに移行する準備が整っていない。ベテランのI&Oスタッフの多くは、新しい技術に関する専門知識や経験がまだ不足している。

 IT担当者は新しいスキルを身につけ、新しい役割を果たし、新しい責任を担う必要がある。多くのIT部門では、スキル不足が危機的なレベルに達している。一部のモダナイゼーションの取り組みは、熟練したエンジニアやアーキテクトの不足から難航している。

 Gartnerのデータは、一貫して労働市場の上位での人手不足を示している。最新のスキルを持つ人材が不足しているからだ。Infrastructure as Code(IaC)やKubernetes、DevOps、AI、クラウドインフラは、I&Oの技術専門家に求められるスキルの中で最も需要が高い。だが、これらのスキルを求めて外部の専門家を雇おうとするのは、現実的ではないのかもしれない。これらのスキルを持つ人材はめったに存在しないため、給与も高いからだ。

 こうした人材の給与の高騰も相まって、高スキル人材の採用がますます難しくなる中、IT部門は既存スタッフのスキルを高めることが必要になる。こうしたスキル開発は、体系的な人材育成プログラムの一環として行うのが最適だ。このプログラムでは、IT部門にとって最も価値の高いスキルが特定され、優先されることになる。

 この体系的な人材育成プログラムは、教室でのトレーニングや独学では得られない、直接指導を受ける機会や実地体験の機会を提供する。また、理論的な知識と実践的な経験をつなぐ現実的な接点も提供する。こうしたプログラムに投資すれば、IT部門と個々の従業員の両方が恩恵を受ける。

 以上をまとめると、ハイプをうのみにしてはならないということだ。目指すビジネス成果を念頭に置き、モダンなITインフラ戦略を立案する。そして、選択を裏付けるデータと業界のベストプラクティスを評価した上で、モダンなITインフラ戦略を決定することが重要だ。

出典:How to Dispel the Top 5 Myths of Modern Infrastructure(Gartner)

筆者 Manasi Sakpal

Public Relations Manager


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