NFT市場は“うさんくさい”のか“夢がある”のか――NFTマーケットプレース Adam byGMOにクリエイター目線で聞いてみたものになるモノ、ならないモノ(92)

昨今にわかに注目を集めているNFTだが、市場が拡大してゆくのか、単なる一過性の盛り上がりに終わるのだろうか。NFTマーケットプレースのAdam byGMOに、NFTの現状とその魅力を聞いた。

» 2022年07月22日 05時00分 公開
[山崎潤一郎@IT]

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 NFT(非代替性トークン)は今、ハイプサイクル時間軸において、どのあたりに位置するのだろうか。おそらく、黎明(れいめい)期なのだろうが、このままピーク期に向かって上昇するか、あるいは、黎明期のままいつの間にか忘れ去られてしまうのか。

 インターネットの歴史を振り返ると、新しいテクノロジーの登場時、いつも似たような風景がくり返される。まず、ギーク層が飛びつき「すごいすごい」と盛り上がる。そこから成功者が登場し、「○○億円もうけました!」と話題になり、一般にも広がる。

 「新しいテクノロジー」をバズワードと言い換えてもいい。記憶に新しいところでは、スマホアプリやビットコインといったあたりがこれに該当する。最近では、メタバースに同じニオイを感じてしまう。

 そして、NFTだ。筆者自身、音楽制作業を営むクリエイターでもあるので、「NFTでデジタルコンテンツが高値で売れた」という話に接すると、当然わくわくもするし、自分にもチャンスがあるかも、とも思う。

 その一方で「『OpenSea』の無料機能で作成、販売されているNFTの80%が違法」、あるいは、漫画「キャプテン翼」の違法なNFTアートが販売されている、というニュースを聞くと、うさんくさい世界に思えて、「下手に手を出すとやけどするかも」とも思う。

 今回の取材は、そんな、揺れ動く不安定な心情に一筋の光を照らしてくれた。NFTマーケットプレースの「Adam byGMO」が強く訴求するのは、「安心感」と「使いやすさ」だ。

日本円で決済できるNFT

 まず、安心感について見ていこう。「出品するクリエイターの本人確認も含め権利侵害の有無、公序良俗など、全ての出品アイテムをガイドラインに照らして審査します」(GMOアダム 事業部 林智美氏)と万全の体制を整えていることを誇る。

 Adam byGMOではNFTの取引において、前述のような、うさんくささを助長しかねない事象は起きない、起こさないという姿勢を貫いているわけだ。違法な出品物を極力排除するというプラットフォームとしての考え方は、筆者のようなクリエイターとしても心強く感じるし、購入する側も安心できる。

 ただ、注意すべきは、「NFTという技術は、偽物の作成や流通を防止する技術ではありません。コピーされてしまった場合、それらのデジタルアイテムの中からどれが本物であるかを見分け、保有していることを証明するための技術です」(林氏)と、説明する。

 実際、Adam byGMOに関係するNFTで憂慮すべき事案も発生している。音楽家の坂本龍一氏の非正規NFTが、Adam byGMO以外のマーケットプレースで出回るという行為が報告されている(偽物NFTに関する注意喚起)。

 先のOpenSeaやキャプテン翼にしても、この坂本龍一氏の件にしても、黎明期に通らなければならない道として、リスクを受容しながらも前に進むべきなのであろうと、インターネットの歴史を振り返って思う。日本のインターネットの歴史を振り返ると、不正の温床になるのであれば、規制してしまえという思考になりがちだ。同じ過ちは繰り返してほしくはない。

 次に、「使いやすさ」について見てみよう。Adam byGMOでは、日本円で決済可能という点が大きな特徴だ。「なるべく多くの方にNFTに親しんでもらいたいので、通常のECサイトのようなUI/UXで、かつ日本円で購入可能にしました。もちろん、イーサリアムでの決済も可能です」(林氏)と胸を張る。

 またアート、イラスト、音楽、トレーディングカードなど扱うジャンルが多いのも、Adam byGMOの特徴だ。デジタルアートやゲームアセットなど特化型のマーケットが多い中でこのバラエティー感は、冷やかしで巡回しているだけでも楽しい。

595の音を1音につき1万円で販売

 NFTがクリエイターにもたらす可能性は無限大なのでは、と思わせてくれる出品がある。2021年の12月にAdam byGMOで出品された前述の坂本龍一氏のNFTだ。彼の代表作である「Merry Christmas Mr. Lawrence」音源の右手のメロディー595音を1音ずつデジタルで分割し、NFT化することで、1音につき1万円で販売した。音楽制作者としてこの手があったかというのが正直な気持ちだ。

ピアノの右手の音階を1音ずつ切り出してNFTとして販売。二分音符のところは、音が伸びてお得感が高い?

 売り出し時はアクセス過多で、一時サーバに接続できない状況も起きたという。坂本氏が世界的な作曲家であり、楽曲も有名曲だからという理由もあるのだろう。だが、彼のような有名人が新しいテクノロジーを積極的に取り入れ、新しい方法論を開拓してくれることにこそ、大いなる意味があり、後に続く者に勇気と希望を与えてくれる。

 坂本氏といえば、インターネット黎明期の1995年、ネットによるライブ中継を実施したことが懐かしい。当時は、アナログ回線でダイヤルアップ接続が主流だった。9600bps(!)のモデムからISDN回線に入れ替えて、「さすが64Kbps! テキストが高速に表示されて快適だ〜」などと喜んでいた時代だ。坂本氏の開拓者魂は健在なりということか。

 フランク ミュラーの輸入代理店であるワールド通商がNFT化した12の数字アートも興味深い。時計のブランドらしく、文字盤に並ぶ1から12の数字をデジタルアートとして1点33万円で出品した。「売り出してから3分以内に完売しました」(林氏)というから驚きだ。また、購入者には、別途そのデジタルアートをフィジカルにプリントアウトした特典も付加したそうだ。

ワールド通商は、時計の文字盤にある1〜12の数字のデジタルアートをNFTとして販売した。3分で完売したというが、2件が二次販売されている

再販ロイヤルティーがクリエイター側に支払われる

 NFTの可能性という意味では、二次流通にも着目したい。二次流通とはその名の通り、NFTの購入者が再度、同じNFTをマーケットに出品することをいう。

 Twitter創業者ジャック・ドーシー氏の初投稿のNFTを約291万ドルで落札した購入者が、同NFTを二次出品したところ、入札は7件で最高額は約280ドルだったことが話題になった。

 Adam byGMOでは、Adam byGMOで購入したNFTのみ、二次出品することを許している。例えば、前述の坂本龍一氏の595音も早速100点近くが二次出品されて7万円から12万円のプレミア金額が付けられている(2022年6月原稿執筆時)。ちなみに、全てをチェックしたわけではないが、一部の「音」は再販が成立している。Adam byGMOでは、繰り返し出品が可能だ。

 このように履歴が全て公開され第三者が流通の様子をトレーシングできる。また、二次流通以降再販が成立した場合、0〜20%の間でクリエイターが設定した、再販ロイヤルティーがクリエイター側に支払われる仕組みだ。

第三者も取引履歴をトレーシングできる

 前述のように他のマーケットで購入したNFTをAdam byGMOに出品することはできないが、Adam byGMOで購入したNFTを他のマーケットで二次流通させることは可能だ。

 この他にも、「Airdrop」と呼ばれるNFTを無料で配布する機能も持ち合わせている。例えば、ファンベースマーケティングなどという方法論もあるように、企業が限定的なデジタルグッズをノベルティー的に無料で頒布し、商品やブランドのファンを獲得するといった利用方法があるという。

コンプライアンスが過ぎてダイナミズムが失われる?

 Adam byGMOでは、クリエイターは認定代理店を通じて出品する形になる。代理店制度を入れている理由の一つに、作品の全数審査がある。「全てのコンテンツを審査するので、各ジャンルに対する知見を持っている代理店が一次審査を実施します。そうすることで権利侵害などを可能な限り防止するよう努めています。また、(サービスローンチから約10カ月がたった)2022年7月現在、扱うアイテムの数が6万2000を超えておりますが、さらに多くの方々にお楽しみいただけるよう取り扱いコンテンツの拡充を目指すべく、代理店制度にしています」(林氏)と説明する。

 東証プライムに上場するGMOインターネット傘下の企業が運営するサービスだけに、違法物件を流通させるといった、コンプライアンス的に問題となる事案は極力事前に防ぐ必要があるのだろう。

 ただ、NFT自体、法的な整備が追い付いていないという現実もある。日本暗号資産ビジネス協会が2021年に発表した「NFTビジネスに関するガイドライン」では、「有価証券」や「暗号資産」に該当する可能性について言及しているが、制度が不透明な現状では、厳し過ぎる対応をしてちょうどいいのかもしれない。

 ただ、新しいテクノロジーの黎明期には、グレーゾーンをものともせず突き進むたくましさも必要ではないか。Google検索にしても、YouTubeにしてもそのようにして成功への階段を駆け上がってきた。コンプライアンスが過ぎるとサービスのダイナミズムが失われ、魅力が半減する可能性もある。

 とはいえ、日本でサービスを提供する限り、黎明期のGoogleやYouTubeのような、グレーな振る舞いは許されないのだろうなあ……。

著者紹介

山崎潤一郎

音楽制作業の傍らIT分野のライターとしても活動。クラシックやワールドミュージックといったジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレーベル主宰。ITライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブといった大手出版社から多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」などの開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。

TwitterID: yamasaki9999


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