Windows Vistaで登場した「トランザクションNTFS(TxF)」は、Windows 8で非推奨になった、少し哀れなNTFSの機能の一つです。非推奨になったので利用すべきではないですし、TxFの一部は実際に利用できなくなっています。しかし、まだ完全に消えたわけではありません。
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「NTFS(NTファイルシステム)」は、ブートボリューム(通常、C:ドライブ)のファイルシステムとしても採用されている「Windows NT」以降のネイティブなファイルシステム形式の一つです。
NTFSは多くの高度な機能をサポートしていることに加えて、メタデータへの変更をトランザクションログに記録することで、ファイルやディレクトリ構造を失うことなく、一貫性のある状態に修復できることが特長です。また、自己復旧機能を備えており、軽度な破損をオンラインのまま(再起動することなく)自動的に修復できます。これらは「トランザクションNTFS(Transactional NTFS、TxF)」の機能ではなく、NTFSがもともと備えている機能です。アプリケーションデータやユーザーデータが失われる可能性から保護する機能ではありません。
TxFは「Windows Vista」で初めて利用可能になった技術です。10年以上前に非推奨になったため詳細は省きますが、簡単に言うと、ファイルやディレクトリ、レジストリに対する変更操作をトランザクションとして実行し、その操作を完全に実行するか、あるいはトランザクションを失敗させて、元の状態にロールバックするかを保証するものです(レジストリについては「Transactional Registry《TxR》」と呼ばれます)。TxFはアプリケーション開発者がトランザクション操作に利用可能な一連のAPIを提供します。
TxFは登場からわずか4年後の「Windows 8」のリリースで非推奨扱いとなりました。TxFが提供する一連のAPIは複雑過ぎて、開発者がさまざまな点を考慮して慎重に利用する必要があったことが理由のようです。MicrosoftはWindowsでTxFのAPIを利用できなくすることを検討しており、以下のドキュメントに説明されているようにTxFの代替手段の検討を強く進めています。
インターネットで“トランザクションNTFS”を検索すると、「Windows 8で非推奨の機能となり、グループポリシーで無効にできるようになった」という情報が見つかると思います。しかし、これは正確ではありません。現在のWindows(「Windows 10」や「Windows 11」)でもTxFは利用可能です。ただし、Windowsのシステムコンポーネントを含め、この機能はあまり積極的に利用されていないようです。
TxFを可視化するのは難しいのですが、「fsutil」コマンドや「Windows Sysinternals」のユーティリティー(Procexp.exeやProcmon.exe)を使用することで、TxFのサポートがアクティブになっていることや、「トランザクションリソースマネージャー(RM)」のログの場所などを確認できます(画面1)。これを「グループポリシー」で無効にできるわけではありません。
実は、TxFの機能の一部がWindows 8以降、標準で無効化されていたのです。その一つが、「セカンダリRM」です。非推奨かつ既定で無効化されたセカンダリRMの説明は省きますが、セカンダリRMを有効化したディレクトリを作成しようとしても、Windows 8以降では「エラー:この要求はサポートされていません」と表示され、失敗します。Windows 8以降では、TxFのセカンダリRMを含む幾つかのAPIが既定で利用できなくなったのです。
Windows 8で新たに追加された「コンピューターの構成\管理用テンプレート\システム\ファイル システム\NTFS」で「TXFの推奨されなくなった機能を有効または無効にする」ポリシーを「有効」にすることで、Windows Vistaや「Windows 7」と同じように、無効化されたAPIを有効化することができます。Windows 8以降におけるTxFの無効化の影響をアプリケーションが受ける場合は、この方法で回避できるというわけです(画面2、画面3)。
ほとんどの一般ユーザーにとって、TxFは聞いたこともない機能でしょう。聞いたことがない機能が、10年前から非推奨といわれても、何の影響もないはずです。10年もたっているのですから、TxF APIに依存するアプリケーションに遭遇する確率は限りなくゼロに近いはずです。現時点ではそのような状況に遭遇した場合でも、ポリシー設定で回避できるわけですが、TxF APIの非推奨化とは、Windowsの将来のバージョンでそれが突然できなくなる可能性があるということです。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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