元任天堂開発者が特訓 連想と反対を使って「きのこたけのこ」から新しいお菓子のアイデアを考える「きのこ」と「たけのこ」の争いをなくすには?

連想で要素を分解して反対で再構築して新しいアイデアを生みだす――。WiiやSwitchの開発者が伝授する「アイデアの考え方」、今回は連想と反対のテクニックを使って、「きのこの山/たけのこの里」の対抗勢力のアイデアを考えてみましょう。

» 2022年10月17日 05時00分 公開

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 アイデアをいつもと異なる視点で捉える本連載、前々回は、箱法というツールを使って、「連想」からアイデアの量を増やす方法を、前回は「反対」を使ってアイデアの質を高めるテクニックを紹介しました。

 今回は実践編です。連想と反対のテクニックを使って、新しいアイデアを考えていきましょう。

連想と反対で、きのこたけのこを考える

 存在しない対義語を考える、というネットミームがあります。製品名や作品名の「反対」を考えるネットの慣習、ロッテのお菓子「コアラのマーチ」の反対は「ゴリラのレクイエム」などです。コアラとゴリラの関係は、「かわいい⇔パワフル」などの特徴から反対といえますし、語感も似ています。マーチは元気な行進曲で、レクイエムは別れを悼む鎮魂歌であり、音楽の特徴からこれらも反対といえます。

 同じネットミームとして明治のお菓子「きのこの山」と「たけのこの里」の敵対論争があります。2つの勢力は敵対しており、きのこの山の反対はたけのこの里という構図です。

 例題として、きのこの山とたけのこの里に同盟関係を結ばせるために、対抗勢力として、敵対する第三、第四勢力のアイデアを出してみましょう。

AIお絵描きツール「Stable Diffusion」で描画したきのこの山(上左)とたけのこの里(上右)

 方針としては、きのこの山とたけのこの里と同様、「〇〇〇の××」のように物を示す平仮名と場所を示す漢字の間を「の」でつなげた製品名を考えます。

 まず、「きのこ」と「たけのこ」それぞれの連想をしていきます。 箱法を使って分解連想して、特徴的な要素を挙げてみます。

「きのこ」から連想

  菌類、山の食べ物、カラフル、毒/栄養、ひだ、石突き、にょきにょき……

「たけのこ」から連想

 竹、山の食べ物、地下茎、緑、土から生えてくる、竹の皮、にょきにょき…

 「山」と「里」はそれら自体が抽象的な単語であり、製品名の特徴はきのことたけのこ側にあるので省略します。

 次に、両方との反対を考えるため共通要素や関係性を見つけていきます。

 きのことたけのこの共通要素は、「山の食べ物」や「にょきにょきと生えてくること」などがありそうです。形状的に「男性的」なイメージもあります。また、両方とも「のこ」で終わる語感的な共通点もあります。関係性としては、きのこは多数種類があるのに対し、たけのこは数種類のみという違いがある、つまり抽象度が異なる、ということがあります。

 山と里の共通要素は、「山に関わる言葉」「場所に関わる言葉」「2音で1文字の漢字」などがありそうです。関係性としては、山は里より抽象度が高く、里は山の一部であることから、山は里を内包している、ということが言えます。

 これらから反対を考えていきます。

 きのことたけのこの共通要素の反対として、「山の食べ物⇔海の食べ物」「にょきにょき⇔びちゃびちゃ」「男性的⇔女性的」が挙げられます。

 語感的な共通点は考案する難易度を高くするので、今回は除外します。また、反対の説明では手順として隣接語を考えましたが、反対を考える際にそれぞれ「食べ物」「オノマトペ」「性別」という抽象要素を軸にしたので、上で挙げた要素は反対かつ隣接となっています。

 さて、「海の食べ物」を具体的に考えます。「魚類(マグロ、ブリなど)」「甲殻類(カニ、エビなど)」「貝類(サザエ、アワビなど)」「海藻(ワカメ、モズクなど)」「その他(イカ、ウニ、クラゲなど)」が挙げられそうです。その中で、「びちゃびちゃ」で「女性的」なものを選びます。

 女性の波打つ長い髪のようなワカメやコンブなどの海藻は柔らかくビチャビチャしています。女性のアニメキャラクター名になっているサザエやアサリは貝ですが、殻の中は軟体ですのでビチャビチャともいえます。桃の節句に食べられるハマグリも同様です。海女さんが採取するイメージのあるアワビも女性的要素がありそうです。クラゲも華美な装飾のようなイメージがあり、クラゲをモチーフにした女性用の服飾があったり女性キャラクターがいたりします。

 また、山は抽象的なので海という反対が分かりやすいです。里の反対で容易に思い付くのは「町」ですが、山>里という関係性なので、海>xとなる「x」を考える必要があります。xに該当するのは、「磯」「沖」「灘」「潮」「島」「湾」「漁村」「浜」「湾」「岬」「海岸」あたりでしょうか。里は人が住む場所の言葉であり、海が2音で1文字の漢字であることも考慮すると、浜、磯、島あたりが該当しそうです。

 最後に、これらを組み合わせて考えます。

 結論としてきのこの山とたけのこの里の組の対抗勢力は、「かいそうの海」と「あさりの浜」の組が候補になりそうです。次点として「わかめの海」と「はまぐりの浜」の組、または「くらげの海」と「あわびの磯」の組でどうでしょう。

AIお絵描きツール「Stable Diffusion」で描画した「かいそうの海」(上)と「あさりの浜」(下)

まとめ

 アイデアは要素と要素の組み合わせという話でした。要素は分解する「連想」で得られ、組み合わせは要素と要素を合成する連想から成ります。アイデアの量は連想の量であり、イノベーションになるような質の良いアイデアには、意外性のある組み合わせが必要であり、反対の要素を組み入れることが効果的です。

 分解と反対を含む合成のサイクルを何度も繰り返すことで、アイデアの量や質を格段に上げることができます。連想に次ぐ連想で、組み合わせる要素が爆発的に増え、反対により相性の面白い組み合わせが生まれていくという仕組みです。

 アイデアを考える技術、連想と反対の紹介は以上です。仕事や創作、プライベートでアイデアを考える際には、ぜひとも今回紹介したテクニックをお役立てください。

杉山慎

八楽 新規プロダクトマネジャー

2002年ハードウェア技術者として任天堂に入社。世界累計出荷台数1億台のゲーム機WiiのコントローラーであるWiiリモコンの開発に従事。「Wii U」「Switch」の本体開発に携わった後、2016年に任天堂から独立。スタートアップ・新規事業のプロダクト企画・技術支援をするフリーのエンジニアとなる。

2016年、スタートアップ企業であるAtmophへ技術支援のため参画。初期から開発に携わった「Atmoph window2」は2019年、クラウドファンディングにて8000万円を超える資金を調達。2017年、中西金属工業の新規事業創出のための企業内起業に参画。2019年グッドデザイン賞のBEST100賞を受賞した「Clean Box」に、コンセプト設定、プロトタイピング、開発支援に携わる。

2020年、翻訳ベンチャー企業である八楽に新規プロダクトのプロジェクトマネジャーとして参画。


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