いいアイデアとは人を動かすアイデアであり、人を動かすには物語が必要である。では、人を動かす物語にはどのような要素が含まれているのだろうか。WiiやSwitchの開発者が伝授する「アイデアの測り方と見極め方」、今回は、アイデアの見極め方を解説する。
アイデアを測るモノサシ、前回は「問題と解決」「発想と着想」「抽象と具体」の3つのモノサシを使って、アイデアの「いい/わるい」を測りました。今回は、「アイデアの見極め方」を考えます。
前回、一般的には実現可能性などの基準でアイデアを評価している、と述べました。しかし実際には、直感的にいいアイデアか、わるいアイデアか判断することがあると思います。この場合、「いい」は「好き」という感情に近いでしょう。
このように直感的に「いい」と思ったアイデアは、結果的に成功するとは限りません。それでもやっぱり、いいアイデアといえるのでしょうか? いいアイデアとは何でしょうか?
結論から述べます。いいアイデアとは、「人を巻き込むアイデア」です。人を巻き込むアイデア、つまり「人の心を動かし、人に行動を起こさせるアイデア」がいいアイデアだと定義します。
この定義でも、いいアイデアが成功するか失敗するかは分かりません。しかし、それは人を巻き込むかどうかに関係がありません。成功するかどうかは結果であり、アイデアを聞いた時点の「いい/わるい」の評価要因にはなり得ないからです。アイデアに反応して何かしらの行動を引き起こすこと、その「行動の度合い」が「いい/わるい」の評価基準です。
友人や同僚が考えた面白い企てを聞いた際、勝手に体が反応するように参画した。クラウドファンディングであるプロジェクトに魅了され勢いで支援した。そのような衝動的な経験はないでしょうか? 何か行動が伴ったならば、少なくともあなたにとってそれはいいアイデアだったということです。結果がどうなるか予想をすることが望ましいですが、それでもやはり未来の結果はアイデアの評価に関係ありません。
人を巻き込む要素をチェックリスト形式にして説明していきます。全てのチェック項目を満たしている必要はありませんが、チェック項目が当てはまる数が多いほど、当てはまる度合いが高いほど、いいアイデアであると評価します。
チェック項目を説明する前に、前提を説明します。人を巻き込むアイデアをさまざまな角度で見ていくからには、「人」を理解しなければなりません。エンジニアたるもの「機能」という切り口での考え方をよく理解していると思います。人を機能の塊として抽象的に捉えることで、人の理解をしてみます。
人の体にはさまざまな機能があります。栄養を吸収する機能、血液を循環させる機能などです。臓器の機能だけでなく、色や形を認識する、音を聞き取る、など感覚器官の機能もあります。これらは、突然変異した機能のうち生存と繁殖に有利な機能が遺伝により残った結果、つまり進化の結果です。
体の機能全てが進化の結果です。そのため、心も進化により得られた機能と考えられます。臓器が胃や腸などさまざまな器官による機能の組み合わせであるのと同様に、心もさまざまな機能の組み合わせです。
われわれ現生人類とネアンデルタール人など旧人類の心の機能の違いは、「信じる機能」の違いといわれています。旧人類も他の個体を信じて協力関係を持つことができました。しかし、現生人類だけが唯一「物語を信じる機能」を持っています。ポイントはその物語が、事実かフィクションかに関係なく信じられることです。われわれはこの機能により、旧人類よりも遥に強い協力関係を持ち、生き残ることができたのです。
これまでアイデアについて「いい/わるい」を述べてきましたが、「いい/わるい」も全て物語です。行動規範や判断基準となる、法律や宗教、国家や企業、個人の描く夢に至る全てが、人が滅びたら無に帰すフィクションの物語です。
人は物語がなければ動けません。行動に「いい/わるい」の判断が必要だからです。つまり、「人を動かすアイデアにはいい物語がある」ということです。アイデアの「いい/わるい」は、物語の「いい/わるい」といえます。
この「物語」を前提として、人を動かすアイデアであるかどうかチェックするポイントを説明します。
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