元任天堂開発者が伝授 「連想」のテクニックを使って、アイデアの量を増やすリンゴを8方向から連想する(1/2 ページ)

アイデアの質を高めるためには、母数となる量が必要だ。では、どうやったらアイデアの量を増やせるのだろうか。WiiやSwitchの開発者が伝授する「アイデアの考え方」、今回は箱法というツールを使って、複数方向からアイデアにつながる連想をしてみる。

» 2022年10月03日 05時00分 公開

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 アイデアをいつもと異なる視点で捉える本連載、前回、前々回は、アイデアを測るツールと、アイデアを極限の視点から見るためのチェックリストを紹介し、アイデアの「いい/わるい」を測る方法を説明しました。

 今回から3回にわたり、アイデアを「考える」技術を紹介します。前の2回が「アイデアを測るツールであるモノサシ」の紹介であったのに対し、今回は「アイデアを考えるためのツールであるペン」の使い方の紹介というイメージです。そのアイデアを考えるためのツールとは、「連想」と「反対」というとても基本的な技術です。

 「連想」とは、特定の単語から関連するさまざまな単語を思い浮かべる思考の技術です。何かしらのテーマでアイデアを考えるとき、当たり前のようにテーマについて連想していると思います。しかし、当たり前過ぎて連想についてあまり考えたことがないのではないでしょうか? 連想といえば言葉遊びの「お化けは消える→消えるは電気→……」というイメージもあり、子どもでもできることというのも軽視の要因かもしれません。連想はアイデアを考える上でとても重要です。なぜなら、アイデアの量に直結するからです。今回の記事では、連想とは何かから初め、アイデアと連想の関係、連想のテクニックを紹介していきます。

 ここで自己紹介をします。翻訳プラットフォーム「ヤラクゼン」をはじめとする自然言語処理サービスを手掛ける「八楽」で、新規事業マネジャーをしている杉山慎です。「任天堂」でのWiiやSwitchなどゲーム機の開発や、さまざまな会社の新規事業立ち上げに従事してきたエンジニアでもあります。

 本連載は、エンジニアによるエンジニアのためのノウハウ共有記事ではありますが、アイデアを考えるあらゆる人を対象にしています。

 ビジネスの企画書作成や会議のブレーンストーミングなどでアイデアを出すときに、「アイデアの量が出なくて、袋小路のように行き詰まる」「アイデアの質が低い、または傾向が偏っている」など感じた経験がある人は多いかと思います。

 今回は、このような課題の解決に役立つ、アイデアの量を増やすための「連想」とアイデアの質を高める「反対」という技術を説明します。前回紹介した「抽象」と「具体」を頻繁に使いますので、まだご覧になってない方は、この機会にぜひ読んでいただければと思います。

 今回紹介する連想と反対は両方とも基本的な思考の技術なので、アイデアを考える能力の根本的な向上ができると思います。そのため、ビジネスでアイデアを考えることだけでなく、創作のアイデアや日常でのささいな検討にも役立ちます。筆者の経験的なノウハウではありますが、皆さまのアイデアの量と質を上げることに貢献できれば幸いです。

連想とは何か

 「リンゴ」と聞いて、どんなことを連想するでしょうか?

 赤という「色」でしょうか、果物という「属性」でしょうか。他にもいろいろ思い付くかもしれません。1つの単語から「どのぐらいの量」を「どういう範囲」で連想できるかは、アイデアの発想において重要です。

 まず、連想の定義を説明します。連想とは一般的に、ある単語から別の単語を想起する思考方法です。知識と経験という「記憶を検索」し「関係する物事を思い浮かべる」行為です。では、その連想とアイデアはどのような関係にあるのでしょう?

 アイデアの定義としてよく引用されるのは、以下の定義です。

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。
ジャック・フォスター『アイデアのヒント』(ジャック・フォスター著、CCCメディアハウス)

 言い換えると、「アイデアは、対象のテーマを要素に分解し、その要素や他の要素を組み合わせて合成すること」と定義できます。この場合の「分解」は複数の要素への連想で、「合成」は複数要素からの連想です。つまり、連想にはバラバラにする「分解連想」と、組み合わせから連想する「合成連想」があるということです。

左:分解連想、右:合成連想

 分解連想は、物理的にバラバラにするイメージだけではありません。観察などを通して抽象的な概念などの「要素を抽出」することも含まれます。

 リンゴを例にすると、「皮」「種」「果肉」など物理的要素にバラすだけではなく、赤という「色」、丸いという「形」、ボールサイズという「大きさ」、果物という「種類」などの要素を取り出せます。

 合成連想は、その逆です。赤い、丸い、果物、ボールサイズという複数の要素から既存のリンゴを連想することです。同じ要素から成るが既存のものではない「巨大サクランボ」という「創造」も合成連想の一種といえるでしょう。

 連想とアイデアの関係の話に戻ります。アイデアは要素の組み合わせ、という話でした。要素は分解連想によって抽出され、合成連想によって組み合わせます。

 アイデアの量は、要素の量と組み合わせの量の掛け算と言えます。アイデアの質は、当然アイデアの量に大きく依存します。アイデアの量は、要素への分解と要素の合成を繰り返すことにより、連鎖爆発的に増えます。これにより新しい価値を創造するような質の高いアイデアが生まれる可能性が増えます。

 このように、アイデアの量にも質にも連想が大きく関わっている、というわけです。

 しかし、要素が収束する合成連想はまだしも、分解連想は無数にあるようで手掛かりが見つけにくいかもしれません。リンゴから連想をしようとしても「赤い? 果物? 甘い? ニュートン?」など連想ゲームレベルの分解で終わってしまいそうです。アイデアの良しあしには連想が大きく関与するので、数多くムラなく連想できることが望ましいのです。

 今回は連想の手掛かりとなるテクニックとして、オリジナル連想法の「箱法」を紹介します。

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