お前とは絶交だ! 契約も解除してやる!「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(103)(2/3 ページ)

» 2022年11月14日 05時00分 公開

社長同士のケンカは契約解除の理由になるか

 先に判決の一部を紹介すると、ユーザー企業が訴えたシステムの不具合は、「瑕疵(かし 今でいう契約不適合)」には当たらず、それによる解除はできないと判断された。全体として瑕疵が軽微であり、ベンダーによる修補も見込まれるとの判断だったようだ。

 問題になるのはベンダー代表者の行動である。「金融関係の仕事」を行うことがユーザー企業代表者からの信用を棄損する理由は、正直判決文からは読み取れないが、文脈からすると、ベンダー代表者がユーザー企業代表者との約束を破ったということのようだ。

 また自社の株式を他人に譲渡するという行為も、それが法的な問題になるかどうかはともかく、ベンダー代表者がベンダー企業との関係を絶ち、今回の開発からも逃げ出そうとしていると取られかねない信頼を棄損する行為であるとも考えられる。

 ただ、この信頼の棄損はあくまでユーザー企業代表者とベンダー代表者個人のことであって、会社間の契約に関係するのかという疑問はある。確かに双方の代表者同士の信頼が棄損されれば、契約関係の維持は現実的に難しいかもしれない。社長であれCEOであれ会社の代表者と意思はそれ自体が会社の意思と捉えるべき場合もある。

 しかしこの事件における信用の棄損は、システム開発の中身とは直接には関係しないベンダー代表者の個人的な振る舞いによるものである。そうした場合でも契約は解除されてしまうのだろうか。

 判決の続きを見てみよう。

那覇地方裁判所 平成12年5月10日判決より(つづき)

ユーザー企業は、本件契約が(双方の代表者の)個人的な信頼関係を前提として締結されたところ、両者の信頼関係が破壊されたことにより、解除権が発生するとも主張する。

しかし、(中略)本件ソフトは一応完成し、瑕疵も認められないのであるから、(両代表者の)協力関係を解消したとしても、そのこと自体が本件契約の解除事由に該当するとは認められない。(中略)本件契約は、(両代表者の)個人間の契約ではなく、(中略)本件ソフトの開発に関する交渉は担当者の間で行われてきたことに照らすと、(中略)直ちに本件契約の解除事由に当たるとは認められない。

 判決は、「代表者同士の信頼関係と企業間の信頼関係は別物である」とするものだった。

 いくら社長同士が仲たがいしても、従業員はそれだけで仕事を止める必要はないし、止められない。システム開発も費用の支払いも続けるべきなのだ。

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