社長同士のトップ営業で決まったシステム案件。だが、出来上がったシステムには不具合が多く、社長たちの信頼関係にも不具合が発生。この契約、解除できるのか――!?
およそ契約というものは両者の信頼関係があって成立し、また有効であり続けるものである。途中で相手が信頼できなくなれば、それは立派な契約解除の理由になる。
アパートの賃貸借契約において「借主が家賃の支払いを怠ったり頻繁に遅延したりすれば、貸主は相手を信頼できなくなったとして契約の解除が認められる」という判決は、この信頼関係の棄損(きそん)による解除の例である。
システム開発においても同様で、例えば発注者が前渡し金や分割代金の支払いを遅らせることがあれば、(事情にもよるが)契約の前提となる信頼が棄損されたことを理由に受注者は契約の解除を求められよう。契約はあくまで双方の信頼の上に立つ、いわば建物の2階部分なのだ。
今回はそんな信頼の棄損と契約解除を巡る争いについてお話ししよう。事例は、発注者であるユーザー企業が受注者であるベンダーを信頼できなくなったとして契約解除を申し出たものだ。
概要を読む前に、少し前提として頭に入れていただきたいことがある。この紛争の特徴的な部分は、「ユーザー企業とベンダーには資本関係があり、ベンダーの代表者が実はユーザー企業の取締役でもある」「ベンダーの代表者はベンダー企業の株を一定数保有していた」「この開発契約自体ユーザー企業代表者とベンダー代表者の個人的な信頼関係に基づいて締結された」といったところだ。
では、概要を読んでいただこう。
企業の信用情報の収集、提供を業とするユーザー企業は、業務効率化のためのシステム開発を関連会社であるベンダー企業に依頼したが、開発されたシステムには、調査した情報の入力に時間がかかる、入力の正確性をチェックする手だてがない、出力された報告書が見にくい、決算の入力にも時間がかかるなどの問題があり、ITベンダーが対応しきれずにいた。
それに加え、ベンダー代表者にはユーザー企業代表者の意図に反して金融関係の仕事を行い、また自身が保有するベンダー企業の株式を他人に譲渡するなどして共同事業の協力関係を放棄する行動があったことから、ユーザー企業代表者はプロジェクトを継続するために必要な双方の信頼が棄損されたとして契約を解除した。
※ユーザー企業とベンダー企業には資本関係があり、ベンダー代表者はユーザー企業の取締役でもあった。当該契約はベンダー企業とユーザー企業の代表者間の信頼関係に基づく共同事業的要素を含んでいた。また、ベンダー企業代表者は自社の株を保有していた。
これに対してベンダーは、システムは既に完成しているとして費用の支払いを求めて提訴した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.