パワハラにより退職に追い込まれた元社員vs.あることないことWebに書かれた企業。真実はどこにあるのか――。
2023年、あけましておめでとうございます。
おかげさまでこの連載も旧年中に100回を超え、読者の皆さまへの感謝の念に耐えない。新年を迎えこの連載が長く続けられるよう、筆者としても精進を欠かさぬよう決意を新たにしているところである。
本連載はそもそも、ITに関わる裁判が実は反面教師として実際の現場に有効な知見を与えてくれるのでは、と思い立って始めたものである。以来、途中で投げ出したくなるとか参考になる裁判例に困るとかいったことは一切なかった。しかし、書き続けるには、それなりに“元気”が必要なことも確かだった。
筆者に元気を与えてくれるのは、やはり読者の皆さまからの反応やコメントである。編集担当に送られるコメントや指摘は筆者である私のところにも確実に届いており、何度も読み返しては感謝の念を深くしている。裁判例の解釈についてコメントを頂くこともあり、私の研さんに大変役立ち、ありがたく感じているところである。
さて、そんな中、2022年4月に掲載した「パワハラされてリストラされたので、転職サイトに書き込んでやりました」で取り上げた裁判例の解釈について、読者よりコメントを頂いた。
記事の内容を要約すると、「あるIT企業の社員が社内でパワハラを受け、また整理解雇されたとして、退職後に自身のブログやSNSにその内容を記載したことが会社の信用、名誉を著しく傷つけたとして、会社が元社員を訴えた」というものだ。結果は、社員の記載が悪質であるとして、裁判所は会社側の請求を一部認めた。
私はこれについて「たとえ事実であったにせよ、辞めた会社の悪口は慎むべき」という趣旨で記事を書いた。しかしある読者から、「この判決は、元社員の主張が虚偽である(少なくとも真実性の証明がない)との原告(会社)の主張が認められたもので、元社員がブログやSNSに書いたことが事実であることを前提とした論調はいかがなものか」とのご指摘があった。そこで私ももう一度、対象となった判決文を見返し確認してみた。
裁判というものは、1つの事件の中に複数の「争点」が含まれている。原告が「被告にはこんな非がある、あんなところも悪い……」と複数の指摘をすると、被告がおのおのに反論し、裁判所もその主張ごとに判断をするのだ。この事件でも争点は4つあった。
読者からのご指摘は、複数ある争点のうちの「争点4」に関してのものである。この部分では、原告である元社員の「会社の代表取締役(判決文中では「B」と表記されている)によるパワハラや罵倒があり、実質解雇された」という主張を裁判所が「被告(元社員)の主張が真実であることを認めるに足りる客観的な証拠を欠く」としてしりぞけている。確かにこの争点においては、元社員が虚偽をブログやSNSで発信していたどうかか、少なくとも事実とは確認できないということになろう。
そうなれば、「事実を発信しているのに」とした私の論調はどうなのかという論もうなずけるところである。
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