社員が同僚を全員引き連れて転職し、顧客も奪われてしまったために支社を閉鎖せざるを得なくなったソフトウェア開発企業。泣き寝入りするしかないのか? ないのか? ないのかー!?
私の知人は、脱サラしてITベンチャーを立ち上げ、順調に経営していた。しかしある日、信頼していた社員が他の社員を連れて退職し、顧客も奪われた。知人はその後会社を立て直すことができたが、当時は従業員も顧客もないが会社設立時の借金だけはあるという状態で、自殺すら考えたそうだ。
別の知人は、勤めていた小規模なITベンダーに不満を持ち、退職して起業する意志を示したところ、同僚数名が一緒にやりたいと退職し、前の会社で担当していた顧客も幾つか引き継いだそうだ。新しく立ち上げた会社は順調だったものの、勤めていた会社から「不義理、不法行為だ」と再三にわたる抗議を受け、ついには裁判に発展しそうになったところで和解したそうだ(引き継いだ顧客案件を勤めていた会社経由の受注に変えるなどしたらしい)。
読者の中にも、前者の社長の立場、後者の社員の立場、あるいは今後そうなる可能性のある方も多いと思う。さて、皆さんはどちらの立場にシンパシーを覚えられるであろうか。
今回は、社員の退職と同僚の引き抜き、そして顧客の引き継ぎ(あるいは奪取)に関する裁判を紹介する。結果には多少もやもやしたものも残るが、裁判所の説示など、参考になることもあると思う。
石川県に本社を置くソフトウェア開発企業(以下、原告企業X)の東京支店に勤務していた社員(以下、被告Y)が同社を退職し、別会社(以下、会社a)に転職したが、その際、東京支店内の全ての従業員も被告Yと共に会社aに転職し、また被告Yらが原告企業Xで行っていた案件も、その多くが原告企業Xとの契約を終了し会社aと新たに実施することとなった。その結果、原告企業Xの東京支店は閉鎖された。
原告企業Xは、被告Yによる従業員の引き抜きと顧客との取引関係移転は、雇用契約上の債務不履行、予備的には不法行為であるとして損害賠償を求める訴訟を提起した。
出典:ウェストロージャパン
さて、皆さんはどのようにお考えだろうか。
「自分一人で辞めるのは勝手だが、同僚を引き抜き顧客との取引まで移転させるのは、さすがに非常識ではないか。そんなことをされたら会社の経営に関わり、残された社員たちの生活すら危うくなる」と考えるだろうか。
一方で、「社員が全て辞めてしまうのも、顧客が逃げてしまうのも、会社側に問題があったからではないのか。そもそも退職も契約の変更も何ら法に触れるようなことではない」と思うかもしれない。
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