第272回 2023年の半導体業界は曲がり角? これからの業界を勝手に予測する頭脳放談

2023年のプロセッサ業界は、大きな転換点になるのではないだろうか。どうしてそんな予感がするのか、筆者が気になっているトレンドを解説する。果たして10年後や30年後に、2023年が大きな転換点だった、ということになるだろうか?

» 2023年01月23日 05時00分 公開

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これからの半導体業界を勝手に予測する これからの半導体業界を勝手に予測する
2023年のプロセッサ業界、半導体業界は、なんだか大きな転換点になるような気がしている。どうしてそんな予感がするのか、筆者が気になっているトレンドを解説する。

 未来予測あるいは、「今年の展望」というものを語る場合、媒体的には変化の年だといっておく方が無難であるようだ。以下同文的に「今年も昨年の延長だ」などと書いたら、誰もそんなレポートを読まないだろう。

 毎度毎度変化が起きると語っていても、その変化の実体は過去のトレンドから容易に想像がつくものに収まることも多い。トレンドといっても、必ずしも等差級数的、線形のものばかりではない。半導体業界においては、指数関数的(代表例はムーアの法則)、三角関数的(4年ごとのシリコンサイクル、今は昔だが)など非線形のトレンドもごく普通だ。ちょっと非線形の要素が入るとヒトは結構簡単にだまされる。

 しかし10年に一度くらいはトレンドが変わることがある。そして30年に一度くらい本当に変曲点、いや特異点といえるような年があるのも事実だ。あえて書く。2023年は変曲点である。プロセッサ業界も曲がり角なら、半導体業界も曲がり角となるだろう。

 変化には、10年もたってから、「あぁ、あの時が曲がり角だったのだなぁ」と分かるような密(ひそ)やかな変化もあれば、何か衆目が一致する「イベント」があってそれがきっかけというか、目印となるような分かりやすい変化もある。勝手な予想を立てれば、2023年は後者、明らかな変化が見られるような気がしてならない。明らかな目印、つまりは誰かの決断なのか、何かの事件なのかだが……。

グローバリズム崩壊がプロセッサ業界に影響を与える?

 プロセッサ業界の構図は、ここ30年近く大きな意味でのトレンドは固定していたように思われる。例えば、PC向けプロセッサを語るのであれば、Intelに対するAMD、あるいはNVIDIAを含めた三つ巴(みつどもえ)を語ればよかった。

 その横で携帯機器は常に勃興し続け、携帯機器向けプロセッサの中心にはArmがいた。しかし今後はそういう構図では語れない状況が次々と現れてくるように思われてならない。

 当然なのだが、プロセッサ業界にせよ、その上部構造の半導体業界のトレンドにせよ、世界の政治的状況、経済、市場の全てと連関している。あえて言えば、上の「プロセッサ業界の構図」はベルリンの壁の崩壊に代表される冷戦構造の崩壊とその後のグローバリズムの世界を反映している。勝手な意見(妄想)だが。

 コロナ禍と戦争を通じて、グローバリズムは崩壊しつつあるのだ。TwitterやFacebookなどのSNSなどによって、お互いの主張やウソが大量に流され、対立が加速しているようにも見える。グローバリズムの申し子ともいえるコンピュータネットワークが、その一因を担ってしまっているのは必然以外の何ものでもなかろう。

 人々の間の「考え方」の分断は、SNSと十把ひとからげにされる構造、それに必然的に内包されているアルゴリズムに増幅されているように思われる。そんなアルゴリズムの計算実体を駆動するプロセッサにも世界の構造変化はフィードバックされてくるのである。

Amazon製のデータセンター向けプロセッサが台風の目?

 さて個別の話に移ろう。一般消費者にアピールするAppleシリコンは、みんな大好きだが、業界の構図の変曲点となりえるのは、「Amazonシリコン」(そういう呼び方をするのかどうか知らないが)の方だろう。「AWS Graviton」シリーズを始めとするAmazon製のデータセンター向けプロセッサだ。

 なかなか離陸しなかったデータセンター向けArmプロセッサだが、Amazonシリコン搭載のAWSのインスタンスが人気を博すれば、Intel、そして最近Intelからシェアを奪いつつあるAMDにとっては大打撃となりかねない。

 今やPCの頭打ちというか、凋落(ちょうらく)傾向は明らかである以上、IntelとAMDの両者ともデータセンター向けプロセッサこそ収益の柱であるべきだからだ。一気にAmazonシリコンに置き換わるとも思えないが、コスパ(電力消費含む)のいい普通の性能の装置からx64を食っていくことになるのではなかろうか。

 それにしても、Amazonはいつまで一般消費者向けの小売業を続ける気だろうか。いまや世界のITインフラを担っているAmazonと小売業のAmazonは違いすぎるような気がしないでもないのだが……。

 一方、Intelは、政治的な動きもからめて、ますます米国を支える半導体ファウンダリとしての顔に変化していくように予想される。その分プロセッサベンダーとしての顔が引っ込みそうだ。

 当面、x86/x64がIntelの収益の柱であることには変わりないだろうが、PCビジネスの後退が予想以上に急だと、AMDとIntelの協業が進みそうな気がしないでもない。すみ分けはIntelがファウンダリ、AMDがデザインか。あるいはチップレットの発達を見ると、AMDとIntelの混載、あるいは共通化みたいな製品が進む可能性もある。

中国製プロセッサの台頭も……

 x86/x64業界で、もう1つありそうなのが中国製プロセッサの台頭だ。IntelとAMDに比べて現状明らかに性能で劣る中華プロセッサを誰が買うかと思っていたのだが、ここにきて売り先候補が現れた。ロシアだ。

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