第273回 GoogleがAndroidをRISC-Vに対応、一方でIntelはPathfinder for RISC-Vプログラムを突然終了、どうなるRISC-V頭脳放談

GoogleがAndroidのサポートをRISC-Vにも広げるようだ。一方で、Intelは同社のファウンドリサービスとして対応してきたRISC-Vのサポートを突然終了した。この相反するRISC-Vへの対応の背景を推測してみた。

» 2023年02月20日 05時00分 公開

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「Intel Pathfinder for RISC-V」のWebページ 「Intel Pathfinder for RISC-V」のWebページ
以前は、「Intel Pathfinder for RISC-V」と呼ばれたRISC-Vをサポートするプログラムの概要が説明されていたが、終了を告げるアナウンスページに書き換わっている。このプログラムの利用を検討していたベンダーは、突然はしごを外されてしまった。

 2023年1月、「RISC-V」に関して相反する2つの方向からの動きがあったのでまとめておきたい。

GoogleがAndroidをRISC-Vに対応

 第一の動きは、前向きな方向の話だ。

 Googleが本格的にRISC-V用のAndroidをサポートするという話である。サポートするといっても、今すぐにではなく、まだまだ先の話ではあるようだが。

 だいたい現時点では、卵が先か鶏が先かという状態であるのだ。組み込み用途向けのRISC-V搭載マイコンは多数現れていて、数も出始めている。そして、組み込み向けのRTOSやミドルウェア、開発ツールなどもRISC-V向けのものが簡単に手に入るようになった。

 しかし、本格的なスマートフォン向けRISC-V搭載SoC、例えばAppleシリコンやQualcommのSnapdragonに匹敵するようなチップが量産されるという話は聞かない。スマートフォンに使えるレベル(コストや性能、アベイラビリティの全部で)のチップの存在が前提にならないと、いくらOSを作っても大きな市場は立ち上がらない。

 また、ソフトウェアが供給される前提なしに高性能なSoCを開発しても、開発費は回収できない。そういう状況で「GoogleがRISC-V用のAndroidをやる」とコミット(いつどこまで、そして誰に対してコミットしているのかは知らないが)したらしいことは、ともかく大きく前進したといえる。

 RISC-Vベースのスマートフォンをいつ頃、誰が出荷するのか、そしてそのSoCを誰が供給するのか気になるところだ。勝手な推測を述べれば、この件、中国の動向を抜きには考えられない。中国勢が勢いに乗って、RISC-V搭載スマホを立ち上げ、多分コストパフォーマンスを武器に市場を席捲(せっけん)しようとするのか? それとも欧米勢でもRISC-V搭載スマートフォンに乗り出す会社が出てくるのか? まぁ、日本はないだろうが……。

IntelがPathfinderプログラムを突然終了

 第二の動きは、後ろ向きだ。

 2023年1月末にIntelが「Intel Pathfinder for RISC-V」と呼んでいたプログラムを突然廃止した(IntelのPathfinderのWebページ「Intel Pathfinder for RISC-V」参照)。それもWebサイト上に突然、「effective immediately(本日より実施する)」という発表の仕方である。寝耳に水的な話だ。

 2022年、IntelはRISC-V InternationalのPremier Membersという一番上のメンバーになり、8月にPathfinderプログラムというものを発表した。インテル・ファウンドリ・サービスで、RISC-V搭載SoCを製造するのに必要な、設計IPや開発環境、ソフトウェアなどをそろえていこうとするものだったはず。

 Intelがやるということで、賛同する設計ベンダーやソフトウェアベンダーなども10社以上あったみたいだ。当然、IntelはRISC-Vに前向きと、筆者も含めて外部の人間はみんな思っていた。それが突然の廃止だ。

 Pathfinderプログラムを開始するというのは、2022年の8月末の発表だ。それが、2023年1月末に廃止である。使ってみようと思う会社があったとしても、普通の会社の時間的な間合いであれば、プログラム内容と自社の開発方向性を精査検討している段階ではないだろうか。「手を上げる前に廃止されてしまった」という感じだ。

 まさか鶴の一声で廃止でもあるまい。Intelの内部では、それをさかのぼる数カ月前、あるいは数週間前から「Pathfinderプログラムを廃止すべきか否か」ということで検討(社内でせめぎあい)していたはずだ。あまりに急激な方針転換である。

Intelの方針転換はいつものこと?

 まぁ、そういうIntelの方針転換にはさほど驚かない。「またか」という感じがする。何度も書かせていただいたが、Intelは組み込み用途向けで何度となく製品を打ち上げては、極めて短期間で撤退というアクションを繰り返してきた。

 今回はファウンダリビジネスがらみだが、ファウンダリは顧客の委託をうけて製造する点で、PCビジネスよりも組み込み用途のビジネスのスタンスに近い。

 Intel内部のロジックを推察するに、内部で進んでいる開発プロジェクトを期待効果の順番に並べて、近い将来の効果の割にコストがかかるものを下の方からバッサリと切り捨てる、といういつものやり方に見える。そこにあるのは、内輪の論理ばかり。外部協業者その他への配慮や長期の展望などは感じられない。

 思い付くままに一例を述べる。最近の組み込み向けx86プロセッサの取り組みである「Quark」のときに、IntelはQuark向けのRTOSとして「Zephyr RTOS」に「コミット」していた。結構力を注ぎ込んだらしく、今でもZephyrのソースには「Intel」の文字が見えるものが非常に多い。まぁ、Arm向けの環境でもZephyrは使えるので目にするのだが……。

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