第275回 Aruduioへのマイコン供給でルネサスは変わるのか?頭脳放談

ルネサスエレクトロニクスのArmコアマイコンがボードコンピュータ「Arduino」に採用されるという。これまでB2B分野を中心に展開してきたルネサスが、コンシューマー分野に手を広げる形だ。その背景には何があるのか、筆者が推察してみた。

» 2023年04月21日 05時00分 公開

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Arduino.ccのボードコンピュータ「Arduino UNO R4」 Arduino.ccのボードコンピュータ「Arduino UNO R4」
「Arduino UNO R4」にルネサスエレクトロニクスのArmコアマイコンが採用されたという。これまであまりコンシューマー向けに力を入れて来なかったルネサスが、Arduinoにマイコンを供給する背景は? 筆者が推察してみる。

 長らく続いた半導体不足だが、一服どころか一転、奈落の底をのぞき込んでいるような状況になりつつある。ご心配の方々も多かったのではないだろうか。

 しかしマイコンに限ればいまだ不足の解消していない品種もあるほどだ。特に日本の場合、2022年来の円安のあおりもあり、外国製のマイコン関連製品については需給がタイトな上に値上がりも目立つ。

 象徴的なのはワンボードコンピュータ「Raspberry Pi 4」の入手困難だろう。Raspberry Piシリーズは、かつてはマニア向けのボードコンピュータという位置付けで、秋葉原などにあるショップの通販で小口で販売されていた。

 今でもマニア向けの人気は高い一方で、昨今は工業用途(組み込み用途)で大量に使われている。B2B市場に数百万台といった規模で流通しているための品薄らしい。Raspberry Piの40ピンの拡張端子は工業用途の「標準バス」的なデファクトになりつつあり、プロユースの拡張ボード類も多数登場している。コンシューマー分野で小口販売されていた製品がB2Bの世界で大成功しているのだ。

 Raspberry Pi(マイコン機種のPicoは除く)は、Linux搭載のボードコンピュータであり、IoTネットワークの中ではエッジに位置付けられているような場所で使われることが多い。

 その先、IoTネットワークの末端部分、センサーであったり制御であったりのノードで人気の高いコンシューマー向け製品に「Arduino」がある。秋葉原レベルでは知らない人はいないマイコンボードだが、B2B分野のマイコン関連の仕事をしている人の中には、触る気もない人がいるかもしれない。しかし今やArduinoの名のもとに巨大なエコシステムが出来上がっているのだ。

Arduinoって何?

 マイコンボードの開発に大きな初期費用が必要であった、かつての状況とは様変わりなのである。今では無料のCADを使って誰でも安価に(数千円から)PCBを発注したり、マイコン製品を少量生産できたりするような世の中である。

 クラウドファンディングでお金を集めてアイデアを物にするような流れもある。日本ではあまり盛りあがっていないのが残念だが、欧米でも中国でもそういった手法を駆使してベンチャーが立ち上がることが増えているように思われる。そんな世界の中でArduinoというイタリア起源のささやかな規模のマイコン開発ボードが巨大な存在感を示しているのだ。

 なぜArduinoかと理由を問えば、そのオープンなエコシステムが挙げられるであろう。Arduinoの本家のArduino.ccがハードウェア/ソフトウェアを「設計」してはいるが、回路図もソフトウェアソースも全て公開されている。

 商標に関しては制限があるようだが、Arduino互換と称するボードを製造しているメーカーも多数ある。大手のマイコンメーカー製の純正開発ボードでもArduino互換と称する拡張端子を備えているものが多い。STMicroelectronicsやNXPなど欧州半導体メーカーの多くが含まれる。そしてその端子に接続可能な周辺機器も多い。

 また、ソフトウェアに関してもArduino互換と称するものの裾野は広い。「Arduino IDE」という名のIDE(統合開発環境)と、そこで使われているツールチェーンは大手ツールベンダーが提供する本格的なツールと比べたら機能的には限定されるものだ。

 しかし各種ソースから提供されるライブラリなどを統合することで、非常に幅広いマイコンや周辺機器に対応できる一種の「ソフトウェア・バス」になっている。端的にいえばArduino環境で動作するソフトウェアであれば、ある会社のマイコン上で動かしていたソフトウェアを、全く別な会社のマイコン上に移植することが「秒」で実現できたりするのだ(細かい話はいろいろあるが)。

 伝統的なマイコン開発の場合、マイコンの選定から開発システムの構築そしてアプリケーション開発開始まで数カ月単位の時間、そして場合によっては外部のベンダーに支払う結構な額の費用が掛かっていた。それに比べると、ほとんど初期費用と時間を掛けずにアプリケーション開発を開始できる。セキュリティ、製品安全、信頼性といった点で伝統的な開発ベンダーの牙城は崩れていないが、アイデア重視のベンチャー的な開発にはArduinoエコシステムの方が適するかもしれない。

ルネサスがArduinoにマイコンを供給?

 最近、そんな「Arduino業界」にニュースが流れた。「Arduino UNO R4」にルネサスエレクトロニクスのArmコアマイコンを採用というニュースだ(Arduino.ccのニュースリリース「Arduino UNO R4 is a giant leap forward for an open source community of millions」)。近く販売開始されるらしい。

 Arduino業界に詳しくない人に解説しておくと、Arduinoには仕様、形状や搭載マイコンの異なる多数の種類のボードがある。Arduino純正ボードはArduino XXX(「XXX」にはボードの名称が入る)という名を冠している。その中でも別格がArduino UNOである。このボードこそがArduinoエコシステムの中心といえるボードだ。

 「XXX」の中に入る名前によっては、仕様的に少々「ハズレ」と思われるボードが存在しないわけでもない。しかしUNOはハードウェア的にも、ソフトウェア的にも中心といえる存在だ。

 UNOを使っておけば、大抵のハードウェアもソフトウェアも使える標準機種なのである。そのUNO、現バージョンはR3という版である。R3にはMicrochip Technology(に買収された元Atmel)製のATmegaマイコン(RISCといいつつも8bit機)が搭載されている。ところがこのUNO R3の後継機型番のはずであるUNO R4にルネサスのArmコア製品が搭載されるというのだ。例えていえば、IBM-PCのインテル8088の後継機がインテル286でなくて、ルネサス製品になったようなものだ。

 大きな一歩だが、ルネサスのマイコンがArduinoに採用されることは、既定路線ではあったのだ。何せ2022年にルネサスはArduino.ccに1000万ドル出資していたからだ。「金で買った」当然の採用とはいえ、UNOの名のもとにルネサスのマイコンが登場することは予想外だった。

欧米メーカーは小口少量に力を入れてもルネサスは……

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