中国で新しいx86互換CPUが発表された。最新のIntel製CPUと比べると、性能は少し劣るようだが、自前主義、経済合理性を超えた意思を感じる。地政学的リスク対策を是とする社会的な傾向があるからだろう。一方、日本は最先端半導体工場の誘致など、これまた地政学的リスクの対策に余念がない。でも、地政学的リスクはそこだけだろうか?
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最近気になったニュースの1つに、中国で「また」x86互換CPUが発表されたというものがある。「Powerstar」というシリーズで、最初の製品はモデル名「P3-01105」というらしい。「Powerstar」の中国名は、「暴芯」だそうだ。
中国製x86互換CPUというと上海兆芯集成電路有限公司の「兆芯」を思い浮かべるが、全く違う製品のようだ。兆芯は台湾のVIA Technologiesが持っていたCentaur Technologyのx86技術を上海に持ち込んだものだ。今回の「Powerstar(暴芯)」は、それとは出どころが違う。
微博(Weibo)で公開された「声明」によると、「このCPUはIntelの支援を受けて立ち上げたカスタムCPU製品である」と述べており、どうも中身はIntel起源のようだ。何らかの手段を使ってIntel製の世代落ちのCPUを自分らのブランドで製造販売できるようにした、ということなのだろう。公開されたパッケージの形状やスペックから、中身はIntelの第10世代Coreプロセッサ「Core i3-10105」のようだ(Intelの現在の主流は12世代、13世代のCoreプロセッサなので、2世代から3世代前の製品ということになる)。
中国に進出した企業の関係者なら思い当たることがあるだろう。中国で商売したければ、「設計情報などを全て政府に提出しないと許可しない」とか、普通の国では考えられない縛りを掛けてくることが多いかの国である。「合法的に」x86の製造販売ができる抜け道があったとしても驚きではない。
暴芯を発表したのは「PowerLeader(宝徳)」という名の会社で、この会社は半導体ベンダーではなく、サーバなどのメーカーのようだ。想像するに、一朝事あればx86系CPUの供給が止まって自社製品が立ち行かなくなる、という危機感をもってのx86進出なのかもしれない。実際にはサーバだけでなくクライアント機にもビジネスチャンスを見つけただけなのかもしれないが……。
兆芯にしろ、暴芯にせよ、先端のx86と比べると性能的には劣るのだが、それでも自前でやってしまうところに、直近の経済合理性を超えた意思を感じる。地政学的リスク対策を是とする社会的な傾向があるように想像できる。
中華勢はRISC-Vでは先頭を走り、Armでも何やらちょろまかしをやり、そしてx86も手当をしている。はた目からしても着々とデカップリング(2国間の経済や市場などが連動していないこと)に備えているように見える。
一方、日本ではどうか。ご存じの通り日本国政府は日本国内における先端半導体工場の誘致、立ち上げに大枚をはたきつつある。めでたく工場がうまく立ち上がった暁には、半導体の自給比率は上昇するだろう。それもあって先端技術の工場があれば、一朝事あっても国内の半導体工場で自給の体制をとれるだろうと思っている人も多いようだ。しかし筆者はそう簡単ではないと思っている。
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