エッジコンピューティングはホットだ。しかしその一方で、非常に未熟で、成長するのに時間がかかっている。それはなぜか――?
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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」や、アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」などから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
Gartnerの顧客から寄せられる問い合わせから考えると、エッジコンピューティングはホットだ。だがその一方で、非常に未熟で、成長するのに時間がかかっている。それはなぜか――?
企業は、意識的に「エッジコンピューティング」に取り組んでいるわけではないからだ。企業が取り組んでいるのは自動化やアジリティ、スピード、顧客体験、生産性、予測メンテナンス、オフィスの衛生、公共の安全、品質管理など、数え上げればきりがない。
エッジコンピューティングは、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を、バックオフィスから店舗、人、機器へと「どのように」展開するかを具体化するコンピューティングスタイルだ。だが、Gartnerの顧客企業と話すと、企業は「エッジコンピューティング」ではなく、特定のユースケースに意識を向けていることが分かる。
もちろん、企業はそれらの展開先を「エッジ」とすら思っていない。それらは企業にとって、実際の仕事が行われる場所だ。このため、ITベンダーやクラウドプロバイダー、通信事業者が「ファーエッジ」(遠隔エッジ:実際の顧客や実際の工場が存在し、実際の仕事が行われる場所)について語っても、ITベンダーのデータセンター中心の考え方に染まっていない人々にとっては意味をなさない。現実の世界は、データセンターやクラウドを中心に回っているわけではない。こうした人々にとって、現実の世界で本当に遠くにあるものはクラウドであり、データセンターだ。
エッジコンピューティングは、DXのトレンドに含まれるテクノロジーのスタイルだ。DXは、私たちがそう呼ぶはるか前から、何十年にもわたって進められてきた。それが今、クラウドコンピューティングや、グローバルな通信ネットワークにより加速している。
テクノロジートランスフォーメーションの多くは、バックエンドで行われてきた。データセンターにおいても、ビジネスモデルにおいてもだ。やるべきことはまだたくさんある。だが、DXにおける真の未開拓地は人やモノ、工場が実際に存在する場所だ(以下では、これを「エッジ」と呼ぶが、それはIT中心の古い考え方に基づく呼称だ)。
コンピューティングは冷蔵庫から電球まで、あらゆるものに組み込まれつつあり、より安く、より簡単になっている。そして、より多くのものがデジタルでつながるようになっている。エッジにおけるDXとは、エッジに存在する人とモノが、デジタルでやりとりできるようになることだ。確かに、クラウドとのやりとり、クラウドサービスの利用、クラウドからの管理も可能だが、エッジの視点から見ると、それは音声による機器のコントロール、デジタルルールによるシステムの自動化、機械学習(ML)の利用によるスマートシステムの構築などを目的としている。では、なぜエッジコンピューティングはホットなのに、成熟が遅れているのか。
われわれは、クラウドからエッジに広がるコンピューティングを「エッジコンピューティング」に分類するかもしれないが、そのユースケース、トポロジー、テクノロジー、テクノロジースタックは、千差万別だ。次の例のようなコンテキストが重要になる。
それぞれの場合によって、エッジコンピューティングの在り方は根本的に違う。
企業はビジネス要件に基づいて、ユースケースごとにエッジコンピューティングを実行している。本社のIT部門ではなく、ビジネス部門に所属する、技術に詳しい担当者(ビジネステクノロジスト)がこの取り組みを進める場合が多い。一般的に、企業はプラットフォームやフレームワーク、汎用(はんよう)的なソリューションを展開するのではなく、多くの場合、自社で、あるいは業種に特化したベンダーと協力して、非常に特殊で、しばしば唯一無二となるソリューションを設計している。それらは雪の結晶のように、一つ一つが異なる。
そのため、われわれは「エッジコンピューティングのスプロール(無秩序な増殖)」に直面することになる。エッジデータの管理やエッジのセキュリティ対策、エッジの統合が多種多様な方法で行われる。「エッジコンピューティング」ソリューションの多くは堅牢(けんろう)性に欠け、単発的であり、要求された1つのことは見事にこなすが、それのみである。全体的なDXは寄せ集めでちぐはぐになり、企業のアジリティ(俊敏性)をますます低下させる。こうしたDXは、デジタルの取り組みの混乱や停滞につながる。
先進的な企業はユースケースに加え、プロアクティブに拡張性や戦略を考える。だが、こうした企業は少数派だ。そのため、業界標準やレファレンスアーキテクチャ、フレームワーク、水平ソリューション市場が成熟するまでには、長い時間がかかりそうだ。
また、そう考えると、エッジコンピューティングは今後も注目され続けるだろうが、ごく近いうちに、先進的な企業と「目的の前に行動する」企業を簡単に見分けられるようになるだろう。先進的な企業は、こうしたユースケースを広範なDXの一部として位置付け、現在のエッジコンピューティングニーズに利用できるプロセスとテクノロジーを、さらなる成果につなげるために拡張できる可能性とともに検討していくからだ。
こうした企業は、標準の形成を見守るとともに、それに一役買い、次のユースケースにより俊敏に対応するためのフレームワークを構築していく。そして、「エッジスプロール後の大淘汰(とうた)」を生き残るベンダーを選ぶだろう。待つことなく、小さく始めて大きく考えるはずだ。
その間、他の企業は吹雪の中で雪かきに追われることになりそうだ。
出典:The Stubborn Immaturity of Edge Computing(Gartner Blog Network)
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