@ITは「ローコード/ノーコード開発ツール」に関する読者調査を実施した。それによるとローコード/ノーコード開発ツールは確実に企業に浸透しつつあるものの、ツールの適用の仕方で悩んでいる傾向が強いことが分かった。
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ローコード/ノーコード開発ツールへの関心が高まっている。業務の効率化、開発の高速化、内製化の実現など期待される役割はさまざまだが、現場の温度感はどうなっているのか。@ITの読者調査からその傾向を探る。
なお、ローコード/ノーコード開発ツールとは、主に「GUI」(Graphical User Interface)の画面を操作するだけでアプリケーションなどを開発できるツールのこと。例外はあるが、GUI操作以外にもコーディングによって機能追加ができるものは「ローコード開発ツール」、コーディングの余地がないもの(GUI操作で完結するもの)は「ノーコード開発ツール」と分類されている。
ローコード開発ツールの導入状況について聞くと「導入済み」は36.9%、「検討中」が21.9%と半数以上が導入に前向きだった。一方、「検討したが導入しなかった」という回答も一定数あった。利用している部門はIT部門が多く、「IT部門だけが使っている」は17.4%、「事業部門や管理部門だけが使っている」は7.8%だった。
企業規模別に見ると、企業規模が大きいほど導入率(利用率)も高い傾向にあった。また、今後の使用を検討しているのは、従業員数が500人未満の企業の方が高かった。目立った特徴としては「検討したが導入しなかった」と回答したのは、50人未満規模の企業が1割を超えていた。
導入目的について聞くと、最も多いのは「開発スピードの向上」で55.2%。次いで「開発コストの削減」(45.8%)、業務プロセスの自動化(42.0%)と続いた。
「検討していない」「検討したが、導入しなかった」という企業に理由を聞くと、懐疑的な意見では「小規模開発なので導入する必要がない」「ツールの適応方法が分からない」「ローコード開発ツールでは必要なアプリケーションは作れないと思う」などが挙がった。こうした意見は、先入観や理解不足が要因となっている可能性があるため、まずはローコード開発そのものの理解を深めるアプローチが必要だ。
また、「プロジェクトによって言語の指定があるため使えない」「コーティングの方が自由度が高い」「ツールで実現方法を考えるより手を動かした方が早い」など、ローコード開発の特徴を理解した上での意見もあった。それについては「市民開発」(IT部門以外の従業員が業務アプリを開発すること)によるIT部門の負担軽減や保守作業の簡易化、IT人材が確保しやすくなるといった開発効率化以外のメリットを考慮すべきだろう。
ノーコード開発ツールの導入状況についても、ローコード開発ツールと同じ傾向が見られた。
ノーコード開発ツールの導入状況は「導入済み」が31.1%、「検討中」が22.5%。また、「検討したが導入しなかった」という回答もローコード開発ツールと同様に一定数あった。利用している部門もIT部門が多く、「IT部門(だけ)が使っている」は14.5%、「事業部門や管理部門だけが使っている」は7.6%だった。
また、企業規模が大きいほど導入率は高い傾向があり、今後の使用を検討しているのが従業員数500人未満の企業である点も同じだった。一方、「検討したが導入しなかった」と回答した割合はローコード開発ツールよりも多く、100人未満の企業で1割、50人未満の企業と合わせると2割近くに上った。
導入目的としては開発スピード向上を目的にしたケースが多く、53.4%だった。2位以下もローコード開発ツールと同じ傾向があり、2位が「開発コストの削減」(45.0%)、3位が「業務プロセスの自動化」(43.1%)だった。
検討していない理由については、事業部門での利用を想定しているためか「プログラミングを知らない人が開発をすることに危惧を覚える」「ノーコード開発ツールを使うスキルがない」といった意見が挙がった。
また、「スプレッドシートで十分」「『VBA(Visual Basic for Applications)』『VBScript』程度しか使っていないので必要ない」「自分たちで作った方が早い」など“開発ツール”として不要だ、という意見が目立った。
確かにスクラッチ開発やローコード開発ツールと比較するとノーコード開発ツールはコーディングする余地がほとんどないので、コーディングスキルのある人がその点を不満に感じることは理解できる。ただそれではいつまでもスキルを持つ人に開発作業が集中してしまう。そのためノーコード開発ツールの導入検討では、開発ツールとしての利便性ではなく、属人化の防止や権限委譲(アプリケーション開発、運用担当をIT部門から事業部門に変える)などの考慮が必要だ。
ローコードとノーコードの調査結果を比較すると、ローコード開発ツールの利用率が高かった。ただ、導入目的はどちらも「開発スピード向上」「開発コストの削減」が上位で、大きな差はつかなかった。このことからツールを導入する上でローコードとノーコードの違いについてはあまり意識されていないことが分かる。
ローコード/ノーコード開発ツールの運用上の課題について聞いたところ、最も多いのは「システム乱立、個別最適化」で31.3%だった。その他、「アプリケーションのブラックボックス化」(28.8%)、「アプリケーションの責任の所在が不明確」(22.7%)などが挙がっており、ガバナンスに対する懸念が大きかった。
「コーディングしなくてもアプリケーションを開発できる」という点はローコード/ノーコード開発ツールの最も目立つ特徴ではあるが、どちら(ローコード/ノーコード)がいいかは要件によって異なるし、その中でどのツールが最適なのかも変わる。またガバナンスを効かせないと使途不明のアプリケーションが乱立し、技術的な問い合わせも増え、IT部門の負担が増加してしまう。ローコード/ノーコード開発ツールの導入検討には専門家であるIT部門を加え、用途や適用範囲などを明確にして進めることが重要だ。
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