IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第22回は「SCM」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
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SCM(Supply Chain Management)は、原材料の調達から製造、物流、販売を経て消費者に製品が届くまでの一連の流れ(サプライチェーン)を管理することです。
SCMは、原材料の調達を担う企業、物流を担う企業など、サプライチェーンに含まれる企業全体をシステムとして統合し、需要予測や販売計画などの情報を連携することでサプライチェーン全体の最適化を図ります。SCMは通信販売の普及や物流における人手不足、新たなビジネスモデルによる企業の競争力向上など、さまざまな理由から近年注目されています。
SCMは、サプライチェーン全体の無駄をなくすことによるコスト削減と、顧客満足度を向上させることを目的とします。
例えば、サプライチェーンを担う各企業が個別に在庫量などのデータを管理していると、急な需要の変化に対応できず過剰な在庫を持つリスクや欠品による機会損失を招いてしまう可能性が高まります。しかしSCMの導入に成功すると、これらのリスクを軽減できます。
結果として納品までのリードタイムを短縮することとなり、顧客のニーズに対して迅速に商品を届けられることで顧客満足度の向上に寄与します。このように、SCMは商品提供側と顧客双方にとってメリットをもたらすものと言えます。
SCMは以下のような機能を持ちます。
サプライチェーン全体の需要を予測し、サプライヤーからの原材料や部品の調達計画、工場の生産能力を考慮したスケジュールの計画、最適な在庫量を維持するための在庫計画などを策定します。
計画したスケジュールや方針に基づいて、原材料の調達、受注の管理や製造、在庫の保管や移動、製品の配送などを管理します。
サプライチェーンのデータを収集、分析し、業務の改善や最適化を図ります。サプライチェーンの効率性やパフォーマンスの分析、コストの分析、需要と供給のバランスやリスクなどを評価し、サプライチェーンの改善に役立てます。
SCMを実現するためのソフトウェアは、上記の機能を備えていますが、1つのパッケージで全ての機能を満たすものや、特定の機能に特化したものなどさまざまです。管理する範囲に応じて選択します。
SCMは原材料の調達、商品の生産と販売、在庫の管理、配送など幅広い業務を管理する必要があり、導入の難易度は高いと言えます。
業務プロセスの見直しが必要となるケースも多く、一企業だけでなくサプライチェーンを構成する企業間においても情報の共有や最適化が必要です。縦割りの組織文化などSCMに不向きな慣習があれば、まず組織改革から行う必要があります。
また、既存システムとの統合やデータ連携など、技術的な課題の解決も必要です。このような要因から、導入には多くの時間とコストがかかります。これらの課題を解決するためには、現状のサプライチェーンの課題を正確に把握し、業務にマッチした最適なSCMソフトウェアの選定や、企業間のパートナーシップを強化しスムーズな情報共有を実現することが重要です。
サプライチェーンのリスクとして、自然災害やパンデミック(世界的大流行)などの環境的なリスク、テロや政治不安など地政学的なリスクなどさまざまな脅威がありますが、近年はサプライチェーンを標的としたサイバー攻撃のリスクが増しています。
サプライチェーン攻撃は、サプライチェーン上の企業の中でセキュリティ対策が手薄な企業を狙ってネットワークに侵入し、サプライチェーンのネットワークを通じてターゲット企業へ攻撃を仕掛けます。
例えば、数千社から構成される大規模なサプライチェーンの場合、たった1社のセキュリティが破られることによりサプライチェーン全体に影響を及ぼす可能性があり、社会的な問題となっています。
SCMはこのようなリスクに対しても一定の効果があります。SCMを導入することで、サプライチェーン全体を可視化し、潜在的な脅威や脆弱(ぜいじゃく)性に対する予防策を講じられます。
SCMは、膨大なコストがかかる点や企業間の連携の難しさなど、難易度の高さが導入の大きな障壁となりますが、成功すると需要の変化に柔軟に対応できる無駄の少ないサプライチェーンを実現できます。しかし、日本におけるSCMは、まだまだデジタル化が進んでいないのが現状です。
昨今は、AI(人工知能)を活用した高い精度の需要予測や、ブロックチェーン技術によるサプライチェーン全体の取引の透明化など、より高度な技術を活用したSCMも登場しています。さまざまな課題はあるものの、企業のグローバル化が進み、より多国籍なサプライチェーンが必要となる点や、企業の競争力強化、サイバー攻撃に対するリスク管理などの必要性から、SCMの重要性は増していくものと思います。
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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