政府機関のCIOのための効果的なガバナンス戦略Gartner Insights Pickup(379)

政府機関はさまざまな成果を目指し、複数機関にまたがる大規模なITシステム構築の取り組みに乗り出す。だが、多くの場合、政府機関のこうした取り組みを成功させることは難しい。政府機関のCIO(最高情報責任者)がガバナンス戦略を成功させるポイントは何だろうか?

» 2024年11月29日 05時00分 公開
[Todd Kimbriel, Gartner]

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 政府機関はさまざまな成果の達成を目指し、複数機関にまたがる大規模なITシステム構築の取り組みに乗り出す。だが、目標を実現し、プロジェクトのリスクを軽減し、課題に効果的に対処するには、実効性のあるガバナンスの枠組みが必要になる。

 多くの場合、政府機関のこうした取り組みは失敗する。一部の機関のトップやステークホルダーが、目指す成果に優先順位を付けないからだ。Gartnerは、2027年までに政府機関の80%が新しいエンタープライズアプリケーションへの取り組みを行うが、その半分以上がガバナンスの不備から失敗すると予測している。

 複数機関にまたがる大規模な取り組みを成功させることは、たいてい難しい。その要因は幾つかある。多くの場合、プログラムや機関によってニーズやビジネスプロセスが異なり、ミッションの違いから優先順位が対立してしまう。CIO(最高情報責任者)は、選挙で選ばれた議員や市民も含めたさまざまなステークホルダーを満足させなければならない。

 また、多くのプログラムリーダーは個別に重点事項を推進するが、必要なリソースを提供することに消極的であるため、取り組みを実行するのに必要な時間やリソース、労力の投入が不十分な場合が多い。労力対効果や取り組みの重要性の認識は、各プログラムや機関によって異なる。

 さらに、取り組みの影響を受けるプログラムや機関は、取り組みによって得られるビジネス成果の管理を手放したがらない。

 政府機関のCIOは以下のガバナンス戦略の実行により、期待事項を調整し、意思決定を構造化し、ポリシーやビジネスプロセス、ビジネスルール、コンプライアンスに関する期待事項を、プログラムや機関ごとに明確に定義する必要がある。

適切な意思決定者に権限を与える

 政府機関のリーダーは、意思決定をし、個々に割り当てられた目標に沿った結果を出すために、多くの裁量と資金を与えられており、その一方で最終責任を負っている。機関のトップが、他の多くの機関のニーズと自らの機関のニーズのどちらを選ぶのかと問われると、その回答は、ニーズ対応が誰のアジェンダ(課題)を満足させるかに左右されがちだ。

 複数の政府機関にまたがる大規模な取り組みのリーダーは、機関が取り組みの目標を達成するために、適切なガバナンスの枠組みを確立しなければならない。これには、十分な権限を持ち責任を負う上級オーナー(統括責任者)と、以下を実行する責任と権限を持つ執行委員会を任命することが含まれる。

  • 組織の戦略的な優先事項を決定し、18〜24カ月を計画対象期間として、それらと取り組みの目標をすり合わせる
  • ガバナンス構造の下位層から執行委員会に上がってくる可能性のある対立を解決する
  • 定められた決定権マトリックスの中で、合意に基づく意思決定を採用する
  • 他のステークホルダーにも参加責任を担わせる
  • 開発中に生じた、複数機関にまたがるニーズと個別機関のニーズの対立を解決する

 結局のところ、成功の鍵は、ガバナンス構造の中に対立を解決する仕組みを作ることにある。政府全体のニーズと個々の機関のニーズの軽重についての判断を、特定の機関に頼らずに済むようにするためだ。

取り組みを始める前に目標を設定する

 政府機関が複数機関にまたがる大規模な取り組みを行う際によく見られる重大な間違いの一つは、目標と目指す成果について、事前に明確な合意を形成しないことだ。もう一つのこうした間違いは、取り組みの進捗(しんちょく)に応じて計画の更新や調整をしないことだ。

 徹底的かつ効果的なコミュニケーションを通じて、目標と成果に加え、どのようにビジネスプロセスを進化させるかについて、全員が最初に合意していれば取り組みを成功させやすくなる。取り組みに着手する前に、RACI(Responsible〈実行責任〉、Accountable〈説明責任〉、Consulted〈協業〉、Informed〈報告先〉)チャートなど、分かりやすい形式を用いて、構造化された意思決定プロセスを整理しておくことも欠かせない。

 だが、多くの政府は、事前に時間と労力をかけて交渉し、合意に達することなく、すぐにベンダーに頼る。「COTS(商用既製品)がビジネスルールやプロセスの対立を解決してくれる」「インテグレーターが組織やビジネスプロセスの対立を魔法のように解消してくれる」と期待して、サービスを購入し始める。こうした反アジャイル(俊敏)なアプローチは、目指す成果を妨げる場合が多い。

 ベンダーを選定する前に、ステークホルダーを集めて、ビジネス成果の将来の状態を設計することが望ましい。この作業には、目指す具体的な成果と利用可能なCOTSのギャップ分析、コンポーザブル機能の開発、各プロダクトでニーズに最適な機能を活用できるようにするプロダクトアプローチの採用が含まれる。

 カスタマイズではなく、合意に基づく意思決定プロセスを通じて対立を解決し、必要に応じた軌道修正が重要だ。政府内のプロダクト委員会が継続的な改善や向上を支える役割を果たす。

大規模な取り組みを一連プロダクトのリリースと更新の継続によって確立する

 多くの場合、大規模な取り組みは新しい機能の考案と開発を目的としているが、期待に応えられないことも多い。プロジェクトベースの取り組みが終了すると、プロジェクトチームは解散し、以後のメンテナンスはユーザーからのランダムなカスタマイズ要求に応じて随時行われるようになる。

 そうならないためには、取り組みがプロジェクトベースかプロダクトベースかにかかわらず、常に成果の見通しについての明確な合意を経て、ビジネス主導で行われ、責任を負う政府の上級リーダーが管理する必要がある。

 プロダクトのオーナーとステークホルダー委員会には、次のことが可能な権限が与えられるべきである。1)必要な決定を下す、2)プロダクトロードマップを通じて、目指す具体的な成果を示す、3)どのような機能強化が必要かの判断への関与を継続する――。このアプローチにより、プロダクトやサービスのライフサイクル(廃止までの)を通じた持続可能性が確保される。

出典:Effective Governance Strategies for Government CIOs(Gartner)

※この記事は、2024年9月に執筆されたものです。

筆者 Todd Kimbriel

VP Analyst


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