クラウド戦略でよくある6つの間違いGartner Insights Pickup(386)

企業がクラウド導入の取り組みを成功させるには、強固な戦略が不可欠だ。本稿では、クラウド戦略を立てる際によくある6つの間違いを紹介する。

» 2025年02月14日 05時00分 公開
[Milind Govekar, Gartner]

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 クラウドコンピューティングのメリットを十分に享受できていない企業が多い。明確で効果的なクラウド戦略がないからだ。戦略自体がないのか、戦略を過信しているのかはさておき、明確に定義された計画がないと、クラウドを導入する取り組みはうまくいかない。

 強固なクラウド戦略が不可欠だ。クラウド戦略では、自社におけるクラウドコンピューティングの位置付けを明確かつ簡潔に示す必要がある。クラウド戦略は、自社の成功のための強固な基盤を支える要素となる。

 ただし、そのためには、クラウド戦略を立てる際によくある以下の間違いを避けなければならない。

クラウド戦略とクラウド導入計画を混同する

 最もよくある間違いの一つは、クラウド戦略とクラウド導入計画を混同することだ。この2つの文書は分けて考えることが重要だ。クラウド戦略では、導入計画の骨子と方向性を定め、自社におけるクラウドコンピューティングの役割を概説する。これに対し、導入計画では、戦略の実行に必要な手順と行動を詳しく説明する。効果的な導入の指針となる、明確に定義されたクラウド戦略を持つことが先決だ。このことを念頭に置く必要がある。

出口戦略を持たない

 出口戦略は、企業としては実行することを望まないとしても、必要不可欠だ。災害復旧計画のようなもので、ITのレジリエンス(回復力)と事業継続に欠かせない。出口戦略では、特定のクラウドサービスプロバイダーからどのように移行するかを概説する。ベンダーロックインのリスクに対処し、最小限に抑える狙いだ。

 だが、出口戦略の策定は難しい。データの所有権やデータ構造、コードの移植性、スキルといった重要な要素を分析する必要があるからだ。企業は、日頃から出口戦略の実行とそのスケジュールに備えるよう、全従業員に求める必要がある。クラウドの導入アプローチにも影響するからだ。

 多くの企業は、出口戦略は必要ないと考えている。クラウドから回帰することを想定していないからだ。だが、出口戦略を持つことは、企業のクラウド戦略の全体的な成功に欠かせない。

クラウドに移行すれば潜在的なメリットが全て得られると思い込む

 コスト削減やアジリティ(俊敏性)など、クラウドコンピューティングの潜在的なメリットは、いずれも保証されていない。これらのメリットが自動的に実現されると考えるのは、ありがちな間違いだ。クラウド戦略を望ましいビジネス成果につなげるには、優先順位を付けることが重要だ。企業は、バイモーダルIT(※)の考え方を用いて、効果的に優先順位を付けられる。

 このアプローチは、高レベルでも、個々のワークロードを分析する際にも有益だ。クラウド戦略が的を絞ったものであり、インパクトをもたらすことを保証する。

※※「バイモーダルIT」は、Gartnerが提唱する概念で、「攻めのIT」と「守りのIT」や、「SoR」(System of Record)と「SoE」(System of Engagement)などと称される2タイプのITを、「モード1」と「モード2」とし、両モードを共存、連携させた運用を推奨している。モード1(SoR)は従来的なIT/アプローチであり、信頼性や予測性、安全性が求められる。一方、モード2(SoE)は非連続的であり、スピードや俊敏性が求められる。

マルチクラウドによるコスト削減や災害復旧の強化を期待する

 マルチクラウドコンピューティングがもてはやされ、CTO(最高技術責任者)やITリーダーから非現実的な期待が寄せられるようになっている。マルチクラウドは、定義が必ずしも明確ではないため、混乱を招きがちだ。現実的なクラウド戦略を策定するには、ITリーダーは以下のステップを考慮する必要がある。

  • マルチクラウドの利用状況を把握する:同じ一般的な目的で複数のクラウドプロバイダーを利用しているかどうかを調べる
  • 主要なメリット以外に焦点を移す:ソーシングや調達のような戦術から、受け入れ、管理、ガバナンスに観点を移す。これは、マルチクラウドアーキテクチャの利用に移行する準備になる
  • 期待を修正する:ポータビリティの可能性を現実的に評価し、フル機能の抽象化されたポータビリティプラットフォームが利用可能になるのは、2027年以降になる可能性があることを認識する
  • 定義を明確にする:「マルチクラウドコンピューティング」と「クラウドネイティブコンピューティング」の定義について関係者間で合意し、これらの用語の理解と使い方について一貫性を確保する

 マルチクラウドを巡る盛り上がりは、しばしば導入を後押しする。クラウドプロバイダーが、既に他社のクラウドサービスが導入されている場合でも、この用語を持ち出して自社のサービスを正当化するからだ。現実的な期待を設定し、用語を明確に定義することで、企業はマルチクラウドコンピューティングの複雑さをうまく乗り切れる。

クラウド戦略と「全てをクラウドに移行する」ことを同一視する

 クラウド戦略を持つことと「全てをクラウドに移行する」ことを同一視してはならない。この誤解により、多くのビジネスリーダーやITリーダーが戦略の策定をためらう。全てのアプリケーションの移行を余儀なくされることを恐れるからだ。

 実際には、クラウド戦略はアプリケーションごとに策定、実行するものだ。クラウドに移行することで恩恵を受けるアプリケーションもあれば、コストやレイテンシ、その他の要因によって悪影響を受けるアプリケーションもある。オールオアナッシングのアプローチはほとんどない。

 さらに、企業はクラウド戦略の策定に当たってオープンマインドを保ち、エンタープライズアーキテクトなど、クラウド以外の技術の専門家も起用し、協力を得なければならない。こうした専門家は、クラウド戦略の定義に幅広い視点をもたらせるからだ。

広すぎるスコープ――クラウド戦略の中身が詰め込みすぎ

 クラウドコンピューティングは孤立した存在ではなく、企業のクラウド戦略もそうであってはならない。ビジネスリーダーは、クラウド戦略と既存の戦略(セキュリティ、データセンター、エッジコンピューティング、開発およびアーキテクチャなどの各戦略)の間で、整合性を確保しなければならない。これらの戦略を再構築したり、これらと矛盾する戦略を立てたりすることは避ける必要がある。

 クラウド戦略を担当するグループが他のグループと効果的なコミュニケーションや交渉をすることは、一貫性があるクラウド戦略を立て、導入、運用を成功させるために不可欠だ。

出典:Avoiding the Top Mistakes in Your Cloud Strategy(Gartner)

※この記事は、2024年11月に執筆されたものです。

筆者 Milind Govekar

Distinguished VP Analyst

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