成長は組織だけではない。新たなチャレンジは人にも影響を与える。
「ジョブシェアセンターで働く前は、子育てだけしていました。でも、外で働き始めたら、いろいろなことに目が向くようになったと思います。仕事でITに関わることで、知識が得られたこともそうですし、いままでだったら普段の生活の中で気にならなかったことも、『kintoneを使えば○○に生かせそうだな』といった感じに意識が向くようになりました」(Sさん)
「出産時はコロナ禍の真っただ中で、育児のことや悩みを相談できる人が全然いませんでした。でもここには子育ての先輩が多くいます。働くことによって、仕事のこと以外にも、子育てのことを相談できるようになったことは大きかったと思います」(Aさん)
子育てと仕事を両立することで、子どもにも変化があったそうだ。
「最初の頃は、私が何をしているのか分かっていないようでした。でも、仕事をしている姿を見ているんでしょうね。いまは静かに帰ってきたり、協力してくれたりするようになりました。PCを使って仕事をしている姿を見せられてよかったと思っています」(Sさん)
「働き始めた時はまだ10カ月ほどだった子どもが、最近は『頑張れ』と言ってくれます。寂しい気持ちもあると思いますが、『お母さんが頑張っているから、私も頑張る』と、手伝いもすごくしてくれるようになりました」(Aさん)
お母さんが働く姿を見て、子どもも成長するのだ。
人口減少社会が進めば、今後は行政も民間も人手不足になっていく。この状況を乗り越えるためには、「いままで2人でやっていたことを、1人でもできるようにする」「いままでフルタイム1人でやっていた仕事を、パートタイム3人に分割する」など、新たなモデルを構築し、働き方を根本的に変えていく必要がある。
「神戸市のコアな業務は、市制の運営や市民サービスの向上に尽きます。しかし、ここの周辺業務が職員にとって非常に負荷になっています。この負荷を外に切り出すことが、行政改革の一助になります。
切り出した業務は、私どもの施設で、神戸市民の皆さんに働き手となって業務に関わっていただく。それによって、市民の皆さんにとってはキャリア形成になるし、家族にとっては所得的なメリットになる。最終的には、それが税金という形で自治体に戻ってくる。最近では『循環型のビジネスモデルが生まれているよね』という言葉を頂くことがあります」(中野さん)
人口減少がさらに激しくなるこれからの時代に、こうした新たな働き方のモデルは、行政機関のみならず民間にも有効なのは間違いない。人材不足時代に、親和性の高いサービスだと言えるだろう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)といえば、デジタル化や最新の技術を使う印象がある。だが、「変革」という本来の目的や意味を捉えたとき、テクノロジーだけが大切なのではない。
「DXはテクノロジーも大切ですが、その担い手になるのは、やはり『人』です。『人の成長をどのように支援していくのか』を考えたとき、これからは、仕事に働き方を合わせていく従来のモデルではなく、働いていただく人に仕事をアジャストしていくことが大切だと思っています。プロセスデザインの変革期に入っているというイメージがあります。
ジョブシェアセンターを通じてプロセスデザインをより高度化していくことで、この世界観を実現していこうと思っています」(中野さん)
仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせていく。そのためには何が必要なのか?
「われわれの取り組みは、まだスタートを切ったばかりです。子育てをしながらも、自身のキャリアアップに意識を置いて、いまもなお成長している。そういう人材が湯水のごとく湧き出しているか……というと、いまはまだ、そうではありません。
でも、こうして先駆的にチャレンジしてくれているメンバーの成功事例が広がると、状況は変わってくると思います。多様な働き方の受け皿として、私たちの会社が、もっと機能を強化していけたらと思っています」(中野さん)
ジョブシェアセンターは、単なる雇用創出にとどまらず、個人の成長を促し、家族に良い影響を与え、さらには地域経済の活性化にも貢献する。人口減少社会という大きな課題に対して、人が主役となるDXを通じて新たな解を示す、未来志向のモデルと言えるだろう。この取り組みが広がることで、誰もが自分らしく働ける社会の実現が期待される。
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しごとのみらい理事長 竹内義晴
「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、「コミュニケーションの質と量」の重要性を痛感。自身の経験に基づいた組織作りやコミュニケーションの企業研修、講演に従事している。
2017年よりサイボウズにて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事の在り方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。
元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任され「楽しく仕事ができるチームを創りたい!」と、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。
著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。
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