日本に住んでいた親戚の影響もあり、ガネさんは高校卒業後、日本への留学を志していた。しかし、すぐには実現できなかったため、まずは母国の専門学校で1年半勉強し、その後、現地の会計ソフトウェア開発会社で実務経験を積んだ。
そんな折、日本在住の叔母から「日本に来てみたら?」という誘いを受け、24歳で来日を決意する。
東京のアジア学生文化協会(ABK)で2年間学んだ後、ガネさんは長崎総合科学大学の工学部に進学した。機械工学科で情報制御、開発の仕組み、ロボットの制御などを学びながら、学外の活動でも異彩を放った。
「大学では日本人の友達がたくさんできて、日本語の学びにもなりました。120人ほどの留学生を束ねる留学生会長として、フリーマーケットに定期的に参加したり、長崎ペンギン水族館でボランティアとして活動したり、老人ホームを訪問したりしました。新潟県中越地震の際は、学内で募金活動をして長崎の赤十字に寄付をしました」
ガネさんは、大学時代の活動としてさらに、「ロータリークラブでの活動」「長崎国際交流協会賞の受賞」「後輩の育成」を挙げる。
ロータリー米山記念奨学金をもらっていた東長崎ロータリークラブでは、毎月卓話をした。経営者などさまざま「大人」との触れ合いでマナーを学び、コミュニケーション能力を飛躍的に伸ばした。
長崎国際交流協会賞は、長崎県で年に1人だけが選ばれる貴重な賞だ。後輩が育ち、次の年に留学生会長になって良い大学生活を送ったことも、大きな喜びだ。
「この3つがあっていまの自分がある、と言っても過言ではありません」
人前で話す度胸、組織を動かす難しさ、そして仲間と何かを成し遂げる喜び。長崎での濃密な4年間は、エンジニアとしての技術だけでなく、日本でプロフェッショナルとして生きていくための「人間力」を養う道場のような時間だった。
大学卒業後、ガネさんはAKKODiSコンサルティングの前身となる企業、VSNに入社する。24歳で来日し、日本の大学を経て30歳での日本企業デビューだった。
「テレビショッピングのマニュアルを管理するシステムの検索結果を表示する機能を、Java言語を使って開発していました」
その後、自動車会社の自動運転システムを検証する部隊で、シミュレーション地図データの作成を担当。「このマップは日本を代表する高級車のナビに搭載して走行の検証しました。憧れの車なので、すごい誇りでもあります」と楽しそうに語る。
冒頭の「3つの余裕」は、このプロジェクトに3年携わっていた時に当時の部長が語ったものであり、心に深く突き刺さったのだという。
心、仕事、時間。これらに「余裕」がなければ、良い仕事はできないし、成長も止まってしまう。かつてガネさん自身も、仕事に追われミスをした経験があった。その時この上司は、「ガネさんは悪くない。責任は全て上司である私にある」と言い切ったという。この経験が、ガネさんのリーダーとしての在り方を決定づけた。
ガネさんのリーダーシップはチーム育成型だ。先頭に立ってチームをけん引するパワフルなタイプとは違い、メンバーが成長できる環境を作り、柔らかく見守る。後輩の成長を心から喜び、成功を「みんなで」つかむ。その姿勢は、スクールバスを走らせた高校生の頃から変わらない。
普段激烈指導をすることはないが、本当に必要なときには適切なサポートをする。これは、日本で出会った“大人”たちから受けた薫陶の影響もあるだろう。ガネさんの下で働くメンバーたちは幸せ者だと思う。
最後に日本の若いエンジニアへのメッセージを求めると、静かに、だが力強く語ってくれた。
「自らの行動で世界が変わる可能性が大いにあります。私たちが支える方々に誇れるエンジニアになりましょう。そして、PC上の友達だけでなく、本当の友達とぶつかり合い、痛みを分かち合い、成果を楽しんでください。それがハッピーな社会への近道です」
人生の半分を過ごした日本を愛しながらも、「自分の生きざまを決めるのは自分。私はスリランカ人です」と語るガネさん。その強いアイデンティティーと周囲への深い愛情こそが、彼のエンジニアとしての、そしてリーダーとしての強さの源泉なのだろう。
例えば、良い絵画の条件が10個あって、それを全てクリアしたからその絵画は良い、とされるのではない。具体的にピカソの、あるいはマティスの絵画があって、素晴らしい絵とは何かが決まる。抽象的な議論は具体から帰納的に論じると分かりやすい。
ガネさんとお話しし、その人間力の強さに感銘を受けた。人間力の定義は浅学非才の身には分からないが、その具体はガネさんと話すと分かる。この人とならぜひ仕事をご一緒したいと思った。
例えば新しいことに常に学ぶ姿勢、新しいことを創り出す気概、自ら機会を作り出す情熱、機会に感謝する真摯(しんし)さ、人のつながりを大切にする謙虚さ、家族を心から大切にする愛情――まだまだたくさんあるが、どれも歳月でより磨かれ、蓄積で研ぎ澄まされる。
IT業界で、そしてこのAIの時代にベテランと呼ばれるからには、この人間力をこそ培っていきたいと、自戒する機会を頂いた。
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