新しく企業ネットワークの管理や運用の現場に携わることになった方を対象に、日々の業務で不可欠な「視点」「気付き」のポイントを解説する連載。初回は「企業ネットワーク」を軸に、「ISPネットワーク」「ホームネットワーク」と比較しながら、ネットワーク管理で注視すべきポイントなどを解説する。
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近年、クラウドやSaaSの活用拡大、AI利用の進展により、企業におけるネットワークやセキュリティの重要性はこれまで以上に高まっています。“当たり前にネットワークがつながる”環境の裏側では、多くのネットワーク管理者が監視、設計、障害対応などすることで、安定したサービスを提供してくれています。
本連載『「早くつないで」に泣かない管理者への道』では、新しく企業ネットワークの管理や運用(オペレーション)の現場に携わることになった方を対象に、日々の業務で不可欠な「視点」「気付き」のポイントを3回にわたって解説します。単なる技術解説だけではなく、「なぜその視点が必要なのか」「現場で何を意識すべきか」といった実務で役立つ考え方も交えながら整理します。第1回は「ネットワーク」、第2回は「セキュリティ」、第3回は「AIやSaaS、ネットワークセキュリティの最新トレンド」をテーマにお伝えする予定です。
第1回の今回は、「企業ネットワーク」を軸に、「ISP(インターネットサービスプロバイダー)ネットワーク」「ホームネットワーク」と比較しながら、ネットワーク管理で注視すべきポイントを解説します。
ネットワーク管理者は、機器を設定したり、障害が発生したときに対応したりするだけではありません。社内業務ならびにサービス提供の業務を支える“当たり前につながる”環境を維持することが重要な役割を担います。つまり縁の下の力持ちです。
まずネットワーク構成を覚え、さらに機器や機能の冗長性の観点から複数ベンダーの製品を扱ったり、各製品のコマンドや機能を覚えたりすることになります。「覚えることが多過ぎる」と感じることも少なくなく、筆者自身も以前、企業ネットワークを管理、運用していましたが、同じ気持ちを持っていました。
ですが、分からないことは自分で調べたり、先輩や周りから教えてもらったり、トライ&エラーを繰り返すことで、難しい環境に向き合う経験が、確実に技術力と自信につながっていきます。また、現在は生成AIが一般化しており、調べる環境は格段に変わっていますし、ネットワーク監視システムの中にもAIや、AIと連携する機能が入ってきているので心強いと思います。
では、「企業ネットワーク」は自宅で使うWiーFiと何が違うのでしょうか。ネットワークを管理する環境を、ホーム、企業、ISPの3つに分けて考えてみましょう。分かりにくいところは「道路」や「交通」で例えてみます。
自宅でWi-Fiを使っている方は多いと思いますが、Wi-Fi機能とルーティング機能を持ち合わせているホームルーターを利用していることでしょう。
Wi-Fiでたくさんの人が同時接続したときに、動画視聴が遅延したり、動画が止まって見られなくなったりする経験はなかったでしょうか。連休や行楽シーズンの一般道をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。目的地まで行く道路に車が集中してノロノロ運転となり、流れが悪い状況と同じです。
また基本的には、携帯電話やタブレット端末へはプライベートIPが割り当てられ、ホームルーターでNAT(ネットワークアドレス変換)が機能した上で、ISPネットワークに接続されます。
自宅などでのネットワーク管理は、接続のしやすさや快適さはもちろん、回線品質の管理も意識しなければなりません。近隣Wi-Fi周波数の干渉やトラフィック量の集中や分散を考える必要があります。
企業の業務やサービスを安定して継続するには、高帯域かつ低遅延なネットワーク環境を維持することが重要です。冗長性の観点から上位ISPの回線を複数本にしたり、またネットワーク設備を2台構成で冗長化し、それぞれ「Active/Active」または「Active/Standby」で運用したり、いつでも安心して使える状態に整えておくことがネットワーク管理者の大切な役割です。
例えば、ECサイトを運営している企業では、ネットワークが少し遅くなったり、サービスが一時的に止まったりするだけでも、売り上げや顧客満足度に大きな影響を及ぼすことになります。そのため管理者には、単に「つながっているか」を確認するだけでなく、誰がどのアプリケーションを使い、どのような通信が発生しているのかを把握しながら、安定した低遅延の通信環境を維持することが求められます。
DDoS(Distributed Denial of Service/分散型サービス拒否)攻撃といった外部からの妨害や突然の機器故障が発生することもあります。そうした場面でも、セキュリティ対策や冗長化構成、上位ISPとの連携を活用し、できるだけ影響を広げずにサービスを継続できるようにすることも重要です。
つまり、ネットワーク管理者の役割は、ただ通信を通すことではなく、「止まらない環境」を支え、企業の信頼や収益を守ることにあります。業務やサービス提供を支える基盤を守り、安心して利用できる環境を維持する仕事だと言えます。
運用体制としても、日中帯の対応がメインですが、夜間は、協力会社や外部のNOC(Network Operations Center)/SOC(Security Operations Center)サービスを活用して対応している企業もあります。サービスの可用性や耐障害性を高めるための手法を取ることも一つの手段です。
ISPネットワークは、自社ネットワークだけで通信を完結するだけではなく、他のISPと相互接続することで、世界中にある「住所(IPアドレス)」への最短ルートを常に計算してネットワークパケットを高速に転送してくれます。
ISPネットワークには、高速道路同士を接続する中継ポイントであるジャンクションのように事業者同士を相互接続するIX(Internet eXchange)や、「Amazon Web Services」(AWS)、「Microsoft Azure」「Google Cloud」などのクラウド接続を持っているところもあり、円滑なサービスへの接続を提供してくれます。
そして、その広大なネットワーク上で「どの道路を通れば目的地まで最短、最適にたどりつけるか」を判断しているのが、BGP(Border Gateway Protocol)という経路情報を交換するプロトコルです。高速道路の交通案内システムのようなものと思えばいいでしょう。
ホームネットワークや企業ネットワークが全世界に通信する際、ISPネットワークを経由してさまざまな環境に接続されていると先述しました。交通で例えると、データやパケットを「車」として、カーナビに目的地を入力することで、上位回線へ転送されていき、行き先がきちんと決まり、パケットが目的地へ到達するイメージです。
ISPのネットワーク管理者は、対外的な接続や帯域を増やすことを考えるだけではなく、接続拠点を増やしたり、ネットワーク全体の通信がスムーズに流れているかどうかを把握したり、回線を冗長化したり、迂回(うかい)路を確保したりします。回線障害発生時には、サービス品質の低下やサービス停止をできるだけ防ぐことを目的に、通信の迂回作業や輻輳(ふくそう)制御など、さまざまな角度から対応を実施しています。
ISPサービスには、コンシューマー向けや法人向けがあります。ホームネットワークがコンシューマー向けサービス、企業ネットワークが法人向けサービスと考えてもらえばいいと思います。インターネットの通信は、ISPを経由して接続されていくのです。
ISPの運用体制については、自前のNOC/SOCサービスを持っている企業が多く、かつ24時間365日の体制を築いているところが多いです。
企業ネットワークがどんなものか理解できたかと思いますので、実務のポイントを紹介していきます。新しくネットワーク管理者になったら、何から把握していけばいいのでしょうか。
最初に重要なのは、全ての設定を細かく覚えることではなく、自分が管理するネットワークの全体像をつかむことです。具体的には、次の点などを確認するといいと思います。
これらを把握しておくことで、障害時にも落ち着いて状況整理しやすくなります。筆者は経験上、ネットワーク管理で障害検知したら、すぐにトラフィック迂回を行うことも重要ですが、それ以上に「管理する全体のつながり」を理解しておくことが重要なポイントだと考えています。
ネットワーク障害が発生すると、従業員からは「つながらない」「アクセスが遅い」といった問い合わせが入りますが、影響範囲を冷静に切り分けることです。以下の観点を整理することで、障害原因を冷静に特定しやすくなります。
作業を行う前に以下の4つを意識しておくといいでしょう。
機器設定の変更前に既存の設定を保存しないまま作業を行うと、設定ミスやサービス断が発生した際に、切り戻しに時間を要する可能性があります。もちろん、ロールバック機能を持つ機器もありますが、万が一、作業で設定ミスによるサービス断が発生した場合、作業前のバックアップは有効であり、復旧が数分で済むのでぜひ実施してみましょう。
ネットワークは、複数の機器やサービスが相互に接続しており、一見、小さな設定変更でも別部署やシステムに影響を与えることがあります。
特に、IPアドレスの設定ではタイプミスが大きな影響につながるので、変更内容を適切に設定、管理することが大切です。コピー&ペースト後のダブルチェックも重要です。
従業員から「ネットワークがつながらない」という問い合わせがあったときは、何らかの設定変更作業がなかったかなど原因を調査しましょう。LANケーブルの抜け、機器の電源断、ポートのリンクダウンなど物理的な原因も少なくありません。基本を飛ばして高度な調査をすることで、原因特定が遅れる可能性もあります。そのため、機器の状況やケーブルの接続確認、目視確認が重要です。
一昔前は、「つながらない」と言われてから調査していましたが、現在は、異常なトラフィックや遅延の検知、機器の温度、異常ログの事前検知などから、ユーザーが気付く前に修正するなど不具合を未然に防ぐこともネットワーク管理者の対応業務の一つです。管理する幅も広がり、いろいろなアラートやログとの精査が必要になります。その点が、AI製品との連携で緩和される可能性があると考えられます。
ネットワーク管理者は立場上「つながって当然」「なんで落ちたの?」「早くつないでよ」と言われることもありますが、縁の下の力持ちという重要な役割です。最近では、クラウド接続やテレワーク、事業継続、セキュリティなどの重要性から、存在価値が見直されています。現在の社会基盤を支えている役割といっても過言ではないので、新しくネットワーク管理を任された方は、誇りを持って取り組んでいただければと思います。
JANOG(JApan Network Operator's Group)や各IXが提供するユーザー会などがあるので、そういったコミュニティーやイベントに参加することて、サービスを利用する側の人々やサービスを提供する側の人々との関係性を作ることも重要です。ネットワーク管理者にしか分からない悩みなども共有できると思います。
ネットワーク知識を学ぶ場としては、最近は「YouTube」にもさまざまなコンテンツがあります。例えば「#showint(show int:インターネットの裏側解説)」のようなチャンネルは、インターネットの基礎や技術的なTipsなどが参考になるので、ぜひスキルアップの手段として利用してみてはいかがでしょうか。
次回は、「セキュリティ」をテーマに、ネットワーク管理者が押さえておきたいポイントを紹介します。通信を“つなぐ”だけでなく、“安全につなぐ”ためには何が必要なのか。ファイアウォールやアクセス制御、脅威への備えなど、日々の運用と切り離せない視点を今回同様、「ホームネットワーク」「企業ネットワーク」「ISPネットワーク」に分けて解説します。
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