Ciscoは、異なるベンダーの量子コンピュータや量子センサーを単一のネットワークに統合できるプロトタイプのスイッチを発表した。室温で動作し、標準的な通信用光ファイバーを利用しながら、量子もつれ状態を維持したまま光子の経路を切り替えられるという。
量子コンピューティングは、創薬や金融モデリング、気象予測、サイバーセキュリティといった幅広い分野で複雑な問題の解き方を変えると期待されている。ただし、これらの分野で量子コンピューティングを実用化するには、現状の量子ビット(qubit)数では不足している。
これを解決するためには、より大きな量子コンピュータを構築するだけではなく、多数のQPU(Quantum Processing Unit、量子処理装置)を量子ネットワークで結ぶ分散型アプローチが有効だ。
そうした中でCisco Systems(以下、Cisco)は2026年4月23日(米国時間)、量子ネットワーキングに必要なスイッチのプロトタイプ「Cisco Universal Quantum Switch」を発表した。
Cisco Universal Quantum Switchは、異なるベンダーの量子コンピュータや異種の量子センサーを単一のネットワークに接続する研究用プロトタイプだ。エンタングルメント(量子もつれ)状態の光子をルーティングし、量子状態を維持したまま経路を選択する。全ての主要なエンタングルメントと符号化(エンコーディング)のモダリティー(変換手法)に対応し、室温で動作する。通信用周波数帯と標準的な通信用光ファイバー上で動作するため、極低温装置や専用インフラを必要としない点が特徴だ。
異なる企業が構築した2台の量子コンピュータが量子状態を共有する必要が生じた場合、Cisco Universal Quantum Switchは到着した量子信号をそのモダリティーのまま受け取る。内部では中立な共通モダリティーに変換してルーティングし、受信側のシステムが期待するモダリティーで送出する仕組みだ。量子信号は読み取ると状態が崩れるため、古典的なスイッチではこの役割を果たせない。Cisco Universal Quantum Switchは量子状態を一切測定しないという。
Cisco Universal Quantum Switchは、全ての主要な量子符号化のモダリティーに対応するという意味で「ユニバーサルスイッチ」と名付けられている。1台のスイッチで、異なるタイプの量子コンピュータと量子センサーを接続できる。Ciscoは、Cisco Universal Quantum Switchが量子ネットワーキングの進展を阻んできた次の4つの課題を克服すると説明している。
ポイントツーポイント接続はすぐに複雑化し、全てのリンクで端から端まで量子もつれと符号化を保持する必要がある。1000ノードのデータセンターをポイントツーポイントで完全接続するには、約50万本の直接リンクが必要になる。スイッチング層を導入することでこの複雑さを解消し、デバイスの組み合わせごとに光ファイバーを敷設しなくても、繊細な量子状態を維持できる。
量子システムでは主に4つの符号化方式、「偏光」「時間ビン」「周波数ビン」「経路」が使われており、それぞれに異なるエンタングルメント方式が組み合わされている。Cisco Universal Quantum Switchはこれら4つの全ての方式に対応し、それらの間を動的に変換できるよう設計されている。そのため、物理的な仕組みが異なるシステム同士でも、内部の動作を変えることなく通信できる。
モダリティー変換により、量子コンピュータでも量子センサーでも、異なる方式が混在した構成を実現できる。例えば、中性原子QPUはイオントラップQPUと通信でき、それが同じスイッチを介してフォトニック方式や中性原子型のセンサーとも通信できる。単一のモダリティー標準やアーキテクチャに縛られず、新しい技術を組み込みながら進化する、量子データセンターや量子センサーネットワークを構築できる。
単一光子検出器やエンタングルメント光源は、配備や管理に高いコストと負荷を要する。スイッチがなければ、これらは個別の点対点リンクに専有的に割り当てられ、ハードウェアの費用負担と運用上の複雑さの増大を招く。スイッチがリソースのプールを集約し、1組の検出器と光源でネットワーク全体に対応することで、大規模な量子ネットワークを経済的に成立させる。
Cisco Universal Quantum Switchは、既存のデータセンター環境にそのまま組み込むことを目標に、実環境のデータセンター条件を意識して構築されている。
Cisco Universal Quantum Switchは研究用プロトタイプとして、本格的な量子インターネットが構築される過程でも、古典コンピューティングのユースケースに価値を提供できる応用を可能にするという。
いずれも研究用プロトタイプであり、エンタングルメント光源と検出器をネットワーク全体で共有できるようになるほど、実用性を増し、より広い規模で機能する見込みだという。
今回のスイッチは、Cisco Quantum Labsが推進する全スタックの量子ネットワーキングの取り組みに加わるものだ。チップからプロトコル、アプリケーションまでをカバーし、分散型量子コンピューティングの実現を目指している。ベンダー中立で設計され、実環境のファイバーやデータセンター条件で動作することを意識している。
CiscoはIBMやAtom Computingといった企業と協力しながら、各社の取り組みを相互運用可能かつ大規模展開可能にするレイヤーを構築している。「実用的な量子コンピューティングへの道はネットワークを通じて開かれている」とCiscoは述べている。
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