船員の高齢化と人手不足に直面する内航海運。日本財団の「MEGURI2040」は、この課題に船舶の自動運航技術で挑む。単なる無人化ではなく、認知・判断・制御・監視を統合したシステム構築の本質とは。ミッションクリティカルな社会インフラを自律化する、究極のシステムアーキテクチャに迫る。
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止められない基幹システムを運用するエンジニアは、「動く」ことだけを考えているわけではない。障害の兆候をどう検知するか。どこまで自動復旧に任せるか。どの段階で人間が介入するか。復旧できない場合、どの状態で安全側に倒すか。企業ITの現場では、こうした判断を日々積み重ねている。
自動化を進めれば、人の負担は減る。しかし、全てを機械に任せればよいわけでもない。誤検知で止めれば業務に影響する。介入が遅れれば障害は広がる。結局のところ、重要なのは「人を外すこと」ではなく、人間が介入すべき場面と、システムに任せるべき処理をどう切り分けるかにある。
この問いは、企業ITの中だけに閉じていない。社会全体にも、止められない運用システムがある。電力、通信、交通、物流、医療、行政サービス。これらは生活や産業を支える基盤であり、障害や停止は広い範囲に影響する。一方で、その多くは少数の熟練者、現場判断、24時間運用、障害対応に支えられている。人手不足や高齢化が進めば、これまで人が担ってきた運用を同じ形で維持することは難しくなる。
物流はその分かりやすい例だ。製造業の部品供給、ECの配送、食品や燃料、医療物資の供給は、どれも止めにくい。物流が止まれば、企業活動だけでなく生活にも影響が及ぶ。しかも物流は、情報システムだけで完結しない。車両、船舶、港湾、倉庫、作業員、交通状況、天候など、物理的制約と常に向き合う必要がある。
日本の場合、この物流と地域交通を支える重要な基盤の一つが内航海運だ。島国である日本では、国内貨物輸送や離島航路を海上輸送が支えている。一方で、内航海運の現場では船員の高齢化と人手不足が進み、熟練者の経験に支えられてきた運航を、これまでと同じ形で維持することが難しくなりつつある。
そこで注目されているのが、船舶の自動運航技術である。自動運航船という言葉から、AIが船長の代わりに船を走らせる姿を想像するかもしれない。しかし実際は、レーダー、AIS(船舶自動識別装置)、カメラなどで周囲を認知し、航路を判断し、舵(かじ)や推進器を制御し、陸上から運航を監視、支援する統合システムだ。
だが巨大な船体は簡単には停止できない。周囲には他船があり、港には岸壁があり、風や潮流も変化する。その中で、どこまでをシステムに任せ、どこで人間が判断するのか。船舶自動運航の開発は、海事分野だけの特殊な技術開発ではなく、止められない社会インフラを、限られた人員で安全に動かし続けるための自律化の取り組みだ。
日本財団が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」は、この課題に、技術、ルール、社会受容の面から取り組んできた。今回は、MEGURI2040を取りまとめる日本財団常務理事の海野光行氏に、自動運航船がなぜ必要とされているのか、そして巨大な物理インフラをソフトウェアと人間の判断でどう制御しようとしているのかを聞いた。
では、なぜいま船舶に自動運航が必要なのか。海野氏が挙げるのは、内航海運が抱える人手不足と高齢化だ。
日本の物流は、トラックや鉄道だけで成り立っているわけではない。島国である日本では、国内貨物輸送や離島航路を海上輸送が支えている。特に内航海運は、製造業の原材料、燃料、生活物資などを運ぶ基盤の一つだ。だが、その現場では船員の高齢化が進み、若い担い手の確保も難しくなっている。海野氏は、こうした状況を「将来の物流や地域交通を維持する上で避けて通れない課題」と見る。
人手不足は、単に乗組員の数が足りないという問題にとどまらない。船舶の運航には、見張り、操船、機関監視、気象海象の判断、入出港時の対応など、多くの作業がある。特に港に近づく場面や輻輳(ふくそう)海域では、熟練した船員の経験が安全を支えてきた。人手が減り、ベテランへの依存が高まれば、運航を維持する負担はさらに重くなる。
もう一つの課題が安全性だ。海難事故では、見張り不十分、操船不適切、船位不確認、機関取扱など、人間の判断や作業に関わる要因が大きな割合を占める。これは人間が不要だという意味ではない。むしろ、人間に過度な負担が集中している現状を示している。長時間の当直、夜間航行、悪天候、入出港時の緊張を前提に、全てを人間の集中力と経験だけで支え続けるには限界がある。
自動運航技術は、この課題に対して、船員を置き換えるためだけの技術ではない。レーダーやAIS、カメラなどで周囲の状況を把握し、システムが航路や避航を支援し、必要に応じて陸上からも運航を見守る。人間が担ってきた作業の一部をシステムが支え、船員はより重要な判断や監視に集中できるようになる。海野氏が強調するのも、無人化そのものではなく、船を安全に動かし続けるための仕組みをどう作るかという点だ。
離島航路の維持にも、この技術は関わる。有人離島を結ぶ船は、住民の移動や物資輸送を担う生活インフラだ。採算性や人員確保の問題で航路維持が難しくなれば、地域の生活そのものに影響する。自動運航技術は、こうした航路を将来も維持するための選択肢になり得る。
このように船舶の自動運航は、未来的な実験技術ではない。人手不足、高齢化、安全性、物流と地域交通の維持という現実の課題に対して、船上システムと陸上支援を組み合わせて答えを出そうとする取り組みだ。日本財団がMEGURI2040を通じて目指してきたのも、船を「無人で走らせる」ことだけではなく、社会インフラとしての海上輸送を、これからも安全に動かし続けるための仕組みを作ることにある。
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