「MEGURI2040」に見る、船舶自動化「認知・判断・制御・監視」のアーキテクチャ設計「AI船長」の誤解を解く(3/3 ページ)

» 2026年06月29日 05時00分 公開
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技術的な山場は自動離着桟だった

 自動運航船の技術的な難しさは、航海中に船を予定航路に沿って走らせることだけにあるわけではない。むしろ、実船で大きな山場になるのは、港に近づき、岸壁へ船を寄せ、係留できる位置まで安全に持っていく離着桟の場面だ。

 海上を航行している間、船には一定の速力があり、周囲の船舶や障害物を避けながら、比較的広い空間の中で進路を選べる。一方、港内では状況が変わる。船は低速で動き、岸壁、係船設備、防波堤、他船との距離は近くなる。風や潮流の影響も無視できない。さらに、船体には大きな慣性があるため、舵や推進器を操作しても、車のようにすぐ止まったり、向きを変えたりすることはできない。

 このため、自動離着桟では、センサーで周囲を認知し、システムが船体位置や進路を判断し、DTCなどの操船制御系が舵、主機、スラスターを細かく制御する必要がある。航海中の自動操船よりも、低速域での精密な船体制御が求められる局面だ。岸壁までの距離を詰める過程では、わずかな位置ずれや速度の違いが、運航上のリスクにつながる。

 海野氏も、自動運航船の開発において、離着桟が難しい領域であることを認める。2026年3月27日の航海では、新造内航コンテナ船「げんぶ」が晴海で自動着桟を実施した。海野氏によれば、自動着桟はこれまで何度も、さまざまな形で試験してきたという。異なる方式で取り組む企業もあり、単一の手法だけで正解を探してきたわけではない。

 この日の自動着桟について、海野氏は「見ている限りでは100点満点だった」と評価した。もちろん、これは自動着桟が完全に完成したという意味ではない。だが、「一番難しいと言われている離着桟」の自動化に一定の到達点を示したことは、自動運航船の社会実装に向けた大きな成果といえる。

「おりんぴあどりーむせと」による自動着桟の様子。港内では岸壁や係船設備との距離が近く、低速で船体を精密に制御する必要があるため、自動運航の中でも難度が高い局面となる

 ITシステムに置き換えれば、これは単にバッチ処理を自動化する話ではなく、障害対応や本番切り替えのように、失敗時の影響が大きく、判断と制御の精度が問われる処理を自動化することに近い。自動化したからといって、人間の確認や介入が不要になるわけではない。むしろ、どの情報を監視し、どの条件でシステムに任せ、どの段階で人間が介入するかを設計することが重要になる。

 自動離着桟は、まさにその考え方が凝縮された領域だ。船舶自動運航の難しさは、(現時点では)AIや制御アルゴリズムの性能だけでは測れない。現実の港、実際の船体、乗組員の運用、陸上支援との連携を含めて、安全に「走らせる」「止める」「寄せる」ことができるか。そこに、自動運航船開発の技術的な山場がある。

陸上支援センターは船舶の運用監視基盤

 自動運航船は、船上のシステムだけで完結するわけではない。重要な役割を担うのが、陸上支援センターである。

 陸上支援センターというと、遠隔地から船を操縦する「リモート操船室」のように見えるかもしれない。しかし、MEGURI2040で整備された陸上支援センターは、航行中の船舶位置、航路、気象、周囲の状況、機関状態、システム異常などを確認し、必要に応じて航行を支援する。IT運用に置き換えれば、監視基盤やNOC、SREチームに近い役割を持つ。

 自動運航では、航行の可否判断を船上のCIMなど自動運航システム側が担う。陸上支援センターは、自動航行に介入するのではなく、船側システムがスタンドアロンで適切に動作していることを前提に、航行状況、機関状態、気象、周囲の状況などを遠隔から把握し、運航側の判断や情報共有を支援する仕組みといえる。

 複数の船を同時に見守り、異常時には詳細情報を確認し、船上の乗組員や運航側を支援する。自動運航船の社会実装では、船を自動で動かす技術だけでなく、陸上から安全に運用を支える体制そのものが重要になる。

MEGURI2040で整備した常設型陸上支援センター。複数の自動運航船を遠隔から監視し、異常時には詳細情報を確認して支援する運用監視基盤として機能する
Airstream製キャンピングトレーラーをベースにした移動型陸上支援センター。常設型と同様に衛星通信や携帯回線を備え、場所を移して自動運航船を遠隔支援できる
Airstream製トレーラー内に設けた移動型陸上支援センター。前席は船長用で航路やカメラ映像を確認し、後席は機関長用として機関状態を監視する。限られた空間に遠隔支援機能を集約した

自動運航は「人を外す」技術ではない

 ここまで見てきたように、自動運航船は、船員を船から外すための単純な無人化技術ではない。センサーで周囲を認知し、システムが航路を判断し、操船装置が船体を制御し、陸上支援センターが運航を見守る。その中で重要になるのは、どの処理をシステムに任せ、どの状態で人間が確認し、どの段階で介入するかを決めることだ。

 今回は、自動運航船を認知、判断、制御、監視を組み合わせた運用システムとして見た。次回は、この仕組みを実船で使える技術にするため、MEGURI2040が複数企業、制度、ルール整備、実運航データの取得にどう取り組んだのかを見ていく。

長浜和也

長浜和也

フリーランスライター。雑誌『世界の艦船』やボードウォーゲーム専門誌『BANZAIマガジン』、MONOist、ねとらぼなどで船舶関係の記事を執筆する傍ら、図上演習(ボードウォーゲーム)のデザインに携わる。

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