Googleが自社製AI半導体「TPU」をIntelに300万個発注したという報道が波紋を呼んでいる。TSMCの製造能力逼迫や米政府による国策の影がちらつく中、先んじてキャパを確保する動きが加速する。しかし、激しい生成AIの進化スピードと巨額投資の回収を巡り、ハードウェア視点での懸念も無視できない。
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GoogleのIntel発注から見える「ハード使い捨て」のリスク前回の頭脳放談「第312回 Intel・Apple・Arm──Intelの株価急騰の報道から解く「3大巨頭」の深い因縁」では、AppleがIntelに製造委託するのではないかという話を書かせていただいた。今回はGoogleが自社のAI向け半導体TPU(Tensor Processing Unit)をIntelに300万個発注したという話である。
300万個といっても安いチップではない。Googleは今のところ外販していないので正確な値段は不明だが、1チップ数十万円は確かなところで、仕様によっては大方100万円といった値になってもおかしくはないと思われる。総額にすれば数千億円から数兆円規模の商談となる。
このデバイスは「テンソル(Tensor)」を掲げているだけあって、巨大な行列演算に特化したプロセッサである。NVIDIAのGPUなどよりも、さらにAI向けと言ってもよいかもしれない。設置されているのは今のところGoogle自社のデータセンター内のみである。当然、Googleはこれを使って自社の生成AIなどを動かしている。一般ユーザーが全く使用できないわけではなく、Google Cloudで課金すれば利用可能だ。地域により使えるTPUの世代は異なるようである。
GoogleがこのようにTPUをかたくなに内製し続けるのは、自社のAIサービス、特に大規模言語モデルに対しての最適化が可能だからだろう。汎用(はんよう)的なGPUとは異なり、自社のソフトウェアに完全に合わせたハードウェアを設計することで、電力効率や処理速度の点で優位となるからだ。さらに、現在のAI市場を事実上独占しているNVIDIAへの依存から脱却し、法外なチップ調達コストを削減するという経営上の判断もあるだろう。Google Cloudの強力な差別化ポイントとしても、内製TPUの存在は不可欠なのだ。
第4世代では4096個のTPUを1単位とする「ポッド」での実装だったが、第5世代では8960個のTPUが1ポッドを構成する。第5世代の場合、1個のTPU当たり459TFLOPs(16bit浮動小数点数/8bit浮動小数点数)の処理能力があるということだ。各チップに95GBのHBM(高帯域幅メモリ)が割り当てられているらしい。
これが「Ironwood」と呼ばれる第7世代では192GBにまで拡張されている。このようなTPUをGoogleは100万個単位で保持しているようだ。世界中でHBMが品薄になるのもうなずける。現在発表されている最新版は第8世代であり、TSMCの3nmプロセスで製造予定ということになっている(第8世代についてはGoogleのプレスリリース「Our eighth generation TPUs: two chips for the agentic era」参照のこと)。
IntelがTPUを本格製造するのは2028年の予定らしい。現在は第7世代が展開されており、最新版の第8世代はその後になるであろう。Intelが製造を担うのが、第8世代の一部機種なのか、あるいはまだ発表されていない新機種になるのかは現時点では不明だ。製造プロセスは、現在のIntel 18A(その改良版であるIntel 18A-P/18A-PT)か、もしかしたらその次の世代となるだろう(Intel 18Aについては、「Intel 18A: See Our Biggest Process Innovation」参照のこと)。ちなみにIntel 18Aは、TSMCやSamsung Electronicsが展開する2nm世代に相当する。
なぜGoogleがIntelに製造を委託するのかという理由については、TSMCの製造能力がパンパンだから、という説明がなされている。今から2028年製造のデバイスのキャパ(製造能力)を心配しなければならないほど、AI関係チップの需給は逼迫(ひっぱく)しているということになる。実際、高価な最先端のAI関係チップを100万個調達してデータセンターを立ち上げるといった話が出ているくらいだから、キャパの取り合いになっている可能性は極めて高い。
ともかくデータセンターのキャパを先んじて確保した方が有利になる流れなので、これは致し方ない。まぁ、Googleは昔から半導体の調達が得意とはいえないところがある。以前もメモリの調達が遅れて関係者のクビが飛んだといううわさが流れたほどだ。保険と思えば、Intelに今から発注しておくのも悪くはないのだろう。
また、前回も書かせていただいたが、米国政府がIntelに莫大な補助金を突っ込んでいる。Donald Trump(ドナルド・トランプ)大統領による国策だからIntelを使え、という無言の圧力がかかっている可能性もあるだろう。しかし今回は、Appleのときのように情報が漏れ伝わっているわけではない。
さらに言えば、NVIDIAもIntelのプロセスを評価しているようだ。長年文句を言われ続けたIntelの製造プロセスにも、ここへきて確かな改善が見られているのかもしれない。
ただし危惧もある。まずお金の問題だ。生成AI関係で何兆円といった巨額の投資話が頻発して資金が調達されている一方で、生成AIに直接的に絡まない「地味」なハードウェアやソフトウェア関係の企業の資金調達が難しくなっているといううわさも聞く。生成AIだけでシステムが完結して何でもできるわけではないので、業界のバランスとして少し心配している。
また、生成AIを支えているハードウェア自体についても危惧がある。すさまじい速さで生成AIのモデルが刷新されているため、新たな生成AIは最新のハードウェアを求めるのが通例である。そして新しい生成AIは、瞬く間に既存の古い生成AIを駆逐してしまうことが多い。その時、巨額の投資で作られた古い(といっても数年程度前のものだが)ハードウェアは、果たして投資資金を回収できているのだろうか。その辺りの実例の数字を見たことがないので、やややじ馬根性的な心配ではあるのだが……。
組み込みの世界で生きてきた筆者として多少心配なのは、マイコンなどの製造に影響が出ないかどうかという点である。プロセス的には、マイコンを製造している工場と、先端AIなどの製造に使われるプロセスは異なる。組み立て工程も先端AIとは大きく違う。熊本に進出したTSMCも、第1工場は車載などの組み込み向け、第2工場はAI半導体も対応可能なハイエンド向けと分けているようだ。そのため、直接的に工場のキャパが競合して問題が出るということはないだろう。
ただし半導体製造という点においては先端半導体でも組み込み半導体でも似たような原材料が使われている。何かの問題で一部の原材料の入手に不安が出るということはあり得ると思う。まぁ、大きな問題はないとは思うのだが。
頭脳放談「第310回 【最新動向】やはりAIバブルは崩壊するのか? イラン情勢を背景にAI・半導体・電力が一蓮托生で沈む新シナリオについて考える」など、過去の回でも繰り返し述べてきたが、一番の心配は、巨額の投資が続く生成AI業界が「本当にそんなにもうけ続けられるのか」という点だ。今は先んじて投資しないと、競争に勝ち残れない。ともかく生成AIは規模が大きい方が「頭が良い」とされるため、世界中から資金をかき集めている状態だ。
そのうえ、半導体会社と生成AIのプラットフォーマーの間でその資金がぐるぐる回っている傾向にある今はまだよい。しかし、ひとたび勝負が決まった、あるいは他の要因で投資が減速したら、一体どんなことになるのか、想像すると少し恐ろしい。もちろん米国政府も、そんな事態になったらまずいので何かしらのテコ入れはするのだろうが。
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。
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