国連CISOを歴任した蓮見氏が語る、AI時代の“しなやかな”キャリアと日本型セキュリティGo AbekawaのGo Global! 蓮見祥子さん from 日本 to グローバル(1/3 ページ)

サイバー攻撃の裏には、必ず人間がいる――国家間の紛争に巻き込まれるような環境でCISOとして戦ってきた1人のセキュリティエンジニアが見つけた「究極の防御」は、「人間のしなやかさ」だった。

» 2026年07月06日 05時00分 公開

 「一番やばかったのは、サイバー戦争に巻き込まれたときです。夜中の2時にコントロールパネルのファイアウォールが、英語じゃない言葉に目の前で書き換わっていくんです。『これは終わりだ』と眠れなくなりました」

 国連でCISO(最高情報セキュリティ責任者)としてサイバーセキュリティの任務についていた頃の思い出を語るのは、スターバックス コーヒージャパンでサイバーセキュリティ部部長を務める蓮見祥子氏だ。

 蓮見氏のキャリアは、単身オーストラリアへ渡ったことから始まり、OECDや数々の国際連合機関(UNIDO、ICAO、UN Women、IOM)でCISO(最高情報セキュリティ責任者)や国連CISOグループ共同議長を歴任するという、異色のものだ。現在は民間企業でかじを取る彼女が、波乱万丈な歩みの中でたどり着いた「人間中心のサイバーセキュリティ(サイバーレジリエンス)」とは何か。そして、変化の激しいIT業界において、エンジニアはどのようにキャリアを築くべきか。そのヒントを探るべくお話を伺った。

「ガラスの床」で選んだセキュリティの仕事

 横浜で生まれ育った蓮見氏の人生が大きく動き出したのは、17歳の時だった。きっかけは身近な人物の発言だったという。

幼少期の蓮見さん。つらい時も苦しい時も握りしめて乗り越えてきた、お守りのような写真

 「イギリスに交換留学していた姉が帰国後、私に吹き込んだんです。『これからは女も外に出なきゃダメよ』って。姉がそう言うならと、オーストラリアの大学に留学することにしたんです。もちろん、すぐに帰ってくるつもりでした。でも、父が『卒業するまでは絶対に日本に帰ってくるな』と言いだし、しかも『成績がトップ10だったら学費は全額払うが、それ以下だったら成績に応じて、例えば80点だったら80パーセント払おう』と条件を付けてきたんです。仕方がないので、必死に勉強しました」

 父親が提示した背水の陣を必死の努力で生き抜いた蓮見氏。オーストラリア国立ウーロンゴン大学で国際政治学を専攻し、言語力と精神力を鍛え上げた。

 そんな彼女がITの世界に足を踏み入れるきっかけを作ったのも、姉の存在だった。

 「大学進学時、本当は理系に行きたかったんです。でもITやコンピュータの世界は頭が良い人のためのもので、私には無理だろうと思っていた。そうしたら、同じく文系のはずの姉が、IT系の企業に就職したんです。『お姉ちゃんができるんだったら私にもできるはず』と適性試験を受けたら才能があるという結果が出て。金融機関だったらITを一から教えてくれると聞いたので、ステート・ストリート信託銀行に就職してエンジニアになりました。ちなみに姉は、すぐにIT企業を辞めちゃったんですけどね(笑)」

 こうしてエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた蓮見氏は実務を通じて必死に勉強をするが、研さんを重ねれば重ねるほど「情報処理の基礎が足りない」と痛感するようになる。そこで、南クイーンズランド大学の情報処理学をオンラインで学び、修士課程を修了するなど、実務と学びを高速で循環させていった。そして徐々にセキュリティの世界に足を踏み入れていく。

 インターネットサーバの権限管理や、マルウェア「I LOVE YOU」が世間を騒がせていた頃、サイバーセキュリティの黎明(れいめい)期であった。まだ「セキュリティ専門職」という概念すら定着していない時代に、彼女がセキュリティ分野に飛び込んだ背景には、当時の雇用環境の事情があった。

 蓮見氏は大学で情報工学を専攻していない。加えて、女性であり、アジア人である。仕事の選択において、「王道」を進むことは難しかったのだ。

 「女性には『ガラスの天井』があると言いますが、英語には『ガラスの床(Glass Floor)』という言葉もあるんです。男性がやりたくない仕事や危険な仕事、要は隙間の仕事を女性にやらせる、みたいな意味合いです。私もこの隙間にちょこっと入り込んだような感じでした。当時はセキュリティなんて誰もやらないし、『何それ、面白くないよ』と言われていました。でも、やってみるとセキュリティは面白いんですよ。私のキャリアは、サイバーセキュリティという分野が世界的に育っていくプロセスと一緒に育ってきた。テクノロジーが進化し、概念が変わっていくのを特等席で見てきたんです」

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