AIを活用することで、停滞してきたレガシーシステムの刷新を前進させられる可能性もあります。しかし単にAIコーディングツールを導入するだけでは、その効果が部分的にとどまるばかりか、コストや運用の破綻といった事態に陥るリスクもあります。先行事例も踏まえながら、効果的に進めるためのポイントを探ります。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
AIコーディングツールの利用は開発現場で急速に広がっており、停滞しがちだったレガシーシステム刷新の推進役になる可能性も見えてきました。
一方で、AIが生成したコードが「信頼し切れない」という課題も浮き彫りになっています。さらにはAIエージェントが人間の承認なしに作業を実行する結果、「本番データベースを勝手に消去してしまう」といったような重大なインシデントの発生も、現実のものとなっています。
AIツールを導入するだけで終わらせず、AIをどう制御し、開発プロセスや共通基盤へどのように組み込むかが、確かな成果を生み出すための鍵です。
AIコーディングツールをただ導入しただけでは、レガシーシステム刷新の停滞を根本から変える効果は期待できません。それどころか、検証し切れないコードが積み上がり、不信感が強まるリスクさえはらんでいます。
そうした課題がある一方で、AIエージェントを開発工程に適切に組み込む工夫をすることで、レガシーシステム刷新の工数を劇的に短縮した事例も出てきています。
経済産業省によると、国内の大企業の74%にいまだにレガシーシステムが残存しています。背景には、仕様を知る担当者の高齢化や退職、ドキュメント不足などがあります。現行システムの調査だけでも多大な工数とコストがかかることで、「刷新の必要性は分かっていても着手できない」という状態が生まれていることが珍しくないと考えられます。
そうした壁を、AIエージェントの活用によって打破した事例として、広島県の造船業、常石造船の取り組みが挙げられます。同社は17年間塩漬けにしてきた資材調達システムの現状分析およびリファクタリングを、わずか2日間で完了させました。従来の人為的な手法では、約2年、2億円程度を要すると見積もられていた作業でした。
ここで重要なのは、AIコーディングツールを開発工程の中にどう組み込んだのかという点です。同社はモノリス(一枚岩)構造のシステムを、ビジネスドメインごとに9つに分割してマイクロサービス化しました。これによって、AIが扱うデータのコンテキストを小さく絞り込むことができ、予期しない変更やハルシネーションを抑制することが可能になったといいます。
詳しくはこちらの記事でまとめていますが、常石造船のような先行事例では、AI駆動開発によるレガシーモダナイゼーションを安全かつ効率的に推進するための工夫が取り入れられています。Scalar社の実践例を参考に見てみましょう。
例えば、システムの変更しやすさを定量評価する仕組みの導入です。機能の分割や結合の状況、独立性などを数値化し、どこが技術負債になっているのか、どこから改善すべきなのかを可視化します。
直してはいけない箇所まで変更が加えられる可能性があるのが、AIエージェントのリスクの一つです。この点では、変更の対象を細分化し、部品化しておくことで、思わぬ変更が及ばないようにしたり、パターンごとにスキル化しておくことで効率的に進めたりできるようにする手法が取り入れられています。
AI駆動開発ではリリースサイクルがより高速になります。その中で安全かつ迅速にデプロイしたり、コストを適切に配布したりするために、DevSecOpsやFinOpsを実行する仕組みも整えられています。そうした部分を自動化しておかなければ、プロセスの一部だけを高速化しても運用の工数・コストが増大してしまうからです。
調査会社のGartnerは、「2027年末までにエージェント型AIプロジェクトの40%が失敗する」との予測を発表しています。単にAIを導入しただけでは、効果が部分的にとどまり、投資対効果を十分に引き出せません。そればかりか、コストやセキュリティの統制が効かなければ、運用の複雑さが増す結果、プロジェクトそのものが行き詰まる恐れもあります。
AIエージェントから真の価値を得るには、個々のタスクの拡張ではなく、業務工程全体を含めてどうすればボトルネックを解消し、再現性のある取り組みにしていけるのかを考えなければなりません。レガシーシステム刷新の必要性が高まり、従来は難しかった工程をAIの活用で突破できる可能性が出てきた今こそ、既存のボトルネックに向き合い、生産性を抜本的に向上させられるやり方を考えることが重要です。
富士通も日立も去る、日本での「メインフレーム脱却」が一筋縄ではいかない理由
COBOL、Java、PL/I――「レガシー刷新できない理由」は技術者不足だけじゃない
日立がメインフレームOS終了 次の注力「AIエージェントによる基幹システム刷新」の実態は?
塩漬け“17年”のレガシー刷新作業を「2年→2日に短縮」 常石造船の事例で見えた、AIプロジェクトの成否Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
編集部からのお知らせ