「転職」と「中途採用」の違い:転職失敗・成功の分かれ道(5)
毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
新卒採用と中途採用では目的が異なる
転職のサポートを長年していて残念に思うのは、新卒採用と中途採用の違いを認識せずに転職活動を行っている方が多いことです。
そもそも新卒採用は、将来企業の根幹を成す、ポテンシャルの高い優秀な人材を確保するのが目的です。一方の中途採用は、企業の営業活動・生産活動で不足している人材を補完するために行うものです。いわゆる即戦力の募集です。
転職サイト・情報誌などで、「ポテンシャル採用」「未経験からのチャレンジ」などの言葉が独り歩きしているため、誤解している方が多いのではないかと思います。
この言葉をうのみにして、実際の中途採用の面接現場で「私のポテンシャルを見てください」という話を人事担当者などにする方が多いそうです。もちろん、ずば抜けたポテンシャルをお持ちであれば何とかなるのかもしれませんが、実際はそうでない方がほとんどだと思います。そんな面接の受け方では、人事担当者も困ってしまいます。
転職では基本的に即戦力として応募するわけですから、新卒採用時とは「差」をつけてみましょう。
新卒採用と中途採用の「差」とは
実際の面接での質問項目などは、職歴以外、新卒採用と中途採用で本質的に大差はありません。
- あなたは、何ができますか?(自己分析)
- あなたは、何がやりたいですか?(将来のビジョン)
- 志望動機は何ですか?
以上の3つの要素を中心に、約1時間の面接が行われます。
1.は、自己分析がしっかりとできていないと答えられません。自分の長所・短所をしっかり認識し、自己PRします。実際には皆さんきちんと自己分析ができていて、自己PRも上手に行い、不足スキルは克服するというやる気をアピールできているようです。
新卒の場合は、これだけできていればパーフェクトだったのではないでしょうか。しかし、中途の場合はどうでしょうか。これだけでは新卒時の面接と本質的に何ら差はありません。
では、その差とは何でしょう。ある企業の人事部長の言葉を借りると「不足しているスキルを、やる気でカバーするのは新卒です。中途は不足スキルをカバーするために、実際にどんな努力を行っているのか。これが大事なのです」ということです。このように話す人事担当者は少なくありません。
つまり新卒と中途の差とは、「自ら自己分析を行い、自ら将来のビジョンを明確にし、自ら行動すること」なのです。努力すると口にするのは簡単ですが、実際に行動するのは大変なことです。
実際にあった面接の分かれ道
ある大手システムインテグレータ(SIer)で、若手のエンジニア採用が活発に行われていました。オープン系の開発環境で、しかも上流工程から携われる企業で人気がありました。さらに汎用機のエンジニアでも応募できたのです。
そこに同じような経験を持つ2人のエンジニアが応募してきたそうです。
Aさん:某国立大卒。メガバンク系SIerに勤務して3年目。汎用機エンジニア
Bさん:地方私立大卒。2次請けのSIerに勤務して3年目。汎用機エンジニア
といった具合です。
Aさんは持ち前のコミュニケーション力で、面接では高いポテンシャルを前面にアピールしました。面接担当者も好印象を持ったようです。自己分析もしっかりできているので、長所のアピール、短所の認識もバッチリです。本人も非常に満足した面接でした。
一方、Bさんのコミュニケーション力はごく普通で、見た目ではそれほどのポテンシャルを秘めているとは感じさせない方でした。Bさん自身もそれを認識して危機感を持っており、転職のためにコツコツと努力し、Oracle関連の資格を取得していました。面接では、経歴の説明、将来のビジョン、なぜその資格を取ったのかなどを丁寧に説明したそうです。しかし、面接はそれほど盛り上がることなく終わりました。
結果として、その企業はBさんを採用したのです。理由はBさんは自己分析がしっかりできていて、それに対して計画的に、かつ自発的に行動できている。一方のAさんは、自己分析はできていて、それに対して計画も立てているが、実行できていない。転職だけですべてを解決しようとしている、と感じたとのことでした。
「転職」と「中途採用」、視点の違い
Aさんのような失敗例は数多く存在しているはずです。それは「転職」と「中途採用」との違いを理解していないためだと思います。両者の違いとは何でしょうか。それは「視点」です。
人間誰でもそうですが、自分を中心に物事を見ています。「転職」はあくまでも個人の視点でとらえた解釈です。一方、企業の視点から望むのは、欠点を補う即戦力を獲得するための「中途採用」なのです。
このことが理解できれば、自ずと中途採用に臨むときの意識が変わるのではないでしょうか。
著者紹介
リーベル
小塚康司氏
福岡県出身。大学卒業後、社員研修コンサルティング会社にて、主に大手流通業向けの従業員教育・モチベーションコンサルティング業務を経験。その経験をIT業界で生かしたいと思い、大手ユーザー系システムインテグレータに転職。CRM・SCMを担当。その後、大手人材紹介会社へ転職。人材紹介IT部門責任者を経て、2005年にリーベルへ参画。
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