転職先企業への先入観は排除しよう転職失敗・成功の分かれ道(22)

毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。

» 2006年09月14日 00時00分 公開
[岩沼竜平キャプラン]

転職の成功には

成功する転職にはスピードが重要である

 あらゆる転職ノウハウ本や、キャリアコンサルタントが挙げる転職活動を成功に導く要因の1つに、この言葉があります。

 これは無駄な時間を極力少なくし、機会損失のリスクを最小にして効率的に転職活動をする、という意味と考えてください。

 スピードといっても、応募から内定までの期間の短さをいうのではありません。

理解できても実行は……

 在職中の方は特に、現在の仕事と転職活動という2つを並行してこなすため、離職中の方に比べるとスピードは非常に重要になります。日ごろから多忙を極めるITエンジニアの方は、このことを頭では十分に理解していると思います。なるべく時間をかけず転職活動を行いたい、現職に負担をかけずに転職をしたいとは、誰しも考えることです。

 しかし、この単純明快なことを理解はしているが、実践できている人は少ないと感じます。

転職を阻む先入観

 スピード感のある、効率のよい転職活動を阻んでいるものの1つに先入観があります。

 転職活動で最も時間がかかるのは、応募する企業を選定する作業です。

  • 「やりたいことはできるけど、多分ベンチャー企業は自分には合わないのではないか……」
  • 「あの企業の社風は体育会系っていううわさだから、自分には合わないんじゃないだろうか……」
  • 「あの企業の主力商品は過去のもので、新製品の動きもないし、将来は不安定だろう……」

 このように先入観が邪魔をして、応募以前から頭の中でいろいろと考えすぎてしまうと、なかなか応募先を決められないで時間だけが過ぎていきます。

 その間に、せっかくの好機を逃してしまうこともあります。これではスピード感のある転職活動はできません。

少し立ち止まって考えてほしい

 ここで、ちょっと考えてみてください。

 あなたは、ベンチャー企業で働いたことがありますか。その企業の社風は本当に体育会系でしょうか。新製品の動きは本当にないのでしょうか。

 自分の頭の中で考えてはいるが、経験したことがないものは、先入観やイメージに支配されることが多いのです。インターネットなどの媒体や知人の話などで、ある程度の情報収集は可能ですが、その情報すら誰かの先入観がつくり上げたことかもしれません。

 ある企業の求人概要やWebサイトを見て、またキャリアコンサルタントから社風などの情報を聞き、少しでも魅力を感じたり、いいなと思う点が見つかったら、可能性を広げるために応募してみてはいかがでしょうか。

 もちろんこれまでのキャリアやお人柄を、キャリアコンサルタントが総合的に判断し、明らかに合わないであろうと思われる案件については、お勧めしないでしょう。

 自分ではなかなか気が付かない一面を見極め、可能性を広げるのも人材紹介会社の重要な仕事の1つです。

 しかしこの方法は、ともすると大量の企業に応募して、スピード感を損ねてしまうことになるかもしれません。確かに、少しでも魅力を感じた企業すべてに応募していると、それだけで時間がかかってしまいます。

スピード感がある転職のために

 そこで、企業規模、社風、事業内容などでカテゴリ分けし、その中から数社受けてみることをお勧めいたします。実際にベンチャー企業を受けてみて、面接で違和感を覚えたら、その後はベンチャーにカテゴライズされた企業を選択肢から外せますし、体育会系の企業に関しても同様のことがいえます。

 自分自身が実際に肌で感じたことを基準に選択肢を限定していくことにより、スピード感がある転職活動を行うことができるのです。

 そのためには、先入観の排除は非常に重要なことなのです。

 最後に、この先入観の排除により、成功した転職事例を紹介しましょう。

事業内容に共感できない

 Aさんは、社内SEの経歴を持ち、何カ月も転職活動を行っていましたが、なかなか転職先が決まらず苦労していました。

 そんなとき、私のところに相談に来られました。そこでいろいろとお話をお聞きしたうえで、Aさんの希望を満たすような求人企業を紹介しました。しかし数日後、Aさんから返ってきた返答は、「職務内容や勤務地は魅力的ですが、ネットや知人の話を聞き、事業内容に共感できないので応募しません」というものでした。

 しかし、その案件は勤務地や職務内容、年収面などあらゆる点でAさんに最適な案件でした。「事業内容に共感を持てない」という点については、確固たる確信があるうえで応募しないと決めたわけではなかったので、私は事業内容について詳細に説明し、その会社の事業の魅力を伝えました。そして次のように伝えたのです。

 「何点か興味を持っている点があるのならば応募してみて、面接まで進んだら面接官の方にあらためて事業内容の不安な点などを、詳細に聞き出すのが一番よいと思います。先入観で決め込んでこの案件に応募しないのは可能性を狭めてしまいますよ」

半信半疑で応募してみると

 Aさんは私の話に半信半疑でしたが、とにかく応募することに決めました。その後、書類選考を通過し、面接後に感想を聞いたところ、意外な言葉を聞きました。

 「今後は、この企業を第1希望に活動をしていきたい」

 Aさんは面接時に面接官から事業内容を詳細に聞き出し、いままで持っていた先入観を捨て去り、事業内容に共感を持てるようになったのです。その後Aさんは見事内定をつかむことができ、納得して転職活動を締めくくることができました。

 このように、先入観を捨て去り、あらゆる可能性を模索することは、機会損失を最小限に抑え、効率よいスピード感のある転職活動につながるのです。

 皆さんも、一度自分の殻を破って先入観を捨て去り、可能性に挑戦してみてはいかがでしょうか。

著者紹介

キャプラン 岩沼竜平

金融系シンクタンクへ入社し、銀行システムの開発を担当する。その後キャプランに転職し、現職。SE経験を生かし、ITエンジニアの方の悩みやキャリアパスを親身になって相談することを心掛けているという。



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