転職はやりたい仕事が分からないとダメ?:転職失敗・成功の分かれ道(20)
毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
今回は、転職のための面接の対策として留意すべきポイントとして、最低限押さえておくべき重要ポイントについてお話しさせていただきます。
やりたい仕事は何ですか
転職活動を行っていると、必ず「やりたい仕事は何ですか」という質問をされると思います。これは企業での面接時はもちろんのこと、私ども人材紹介会社が相談者の方とお会いした際にも必ずお聞きます。
そうした質問をするのは当然で、その方がどういった希望を持っていらっしゃるのか、それによってどんな仕事・企業をご提案したらよいのだろう、という対応のベースになるからです。
私は日ごろからいろいろなITエンジニアの方とお会いしているのですが、この基本的な質問にスムーズに答えられない方が多いと感じます。
一途にひたすら好きな仕事に打ち込んでいらっしゃる方は特に問題ないのですが、「うーん」とうなってしまう方が多いのです。
「うーん」とうなってしまうのは、学校を卒業してたまたまいまの会社に入って、たまたまいまの部署や業務にアサインされ、ほかの世界を見ることなく、一生懸命過ごしてきた方に案外多いのです。
そういう方にあらためて「やりたい仕事は?」と聞くと、いまの仕事もたまたま行っているだけなので、これがやりたい仕事なのかどうかもよく分からないし、かといって今後やりたいと思えることもないといった感じで、あいまいなのです。
実は筆者もかつてSEとして働いていたことがあります。その当時、転職活動を行うと、よくこの質問を聞かれて困っていました。
本心では特にやりたい仕事はよく分からないのに、何か答えなければいけないので、何となく表面的な答えをしていたと記憶しています。あるとき時、ある人材紹介会社に相談に行ったとき、思い切って「やりたい仕事はありません!」といったら、「そんな心構えでは転職なんてできませんよ」なんて説教されて途方に暮れた覚えがあります。
そこで、別の人材紹介会社に行って本心をいってみようと思い、「実はSEの仕事はもうやりたくありません。それ以外の仕事でお願いします」と希望をいったら、「君はSEの経験しかないじゃないか。そんな希望が通るはずがないだろう」なんて、またまた説教されてしまいました。そのときは本心を素直にいったつもりだったのですが、「やりたい仕事」って難しいなあと感じました。
相談者に見る「やりたい仕事」のパターン
筆者は現在、昔とは逆の立場でやりたい仕事を「聞く側」に立っています。そこで私が日ごろ相談を受けるITエンジニアの方に「やりたい仕事」についてお聞きしたとき、それにどう答える方が多いのか、その代表的な4つのパターンについてご紹介します。
(1)はっきりと明確に「やりたい仕事」を答える方
明確に「やりたい仕事」を答えるだけでなく、その「根拠」も明快です。根拠というのは「行動」が伴っていて、やりたい仕事を実現するために資格を取っている、現在勉強中である、学生時代にその研究をしていた、などです。また、自分の特性をよく理解している方なども答えは明快です。
例えば、過去における相談者の例では、
- Java言語の実務経験はないが、Javaを使った開発の仕事がやりたいため、ベンダのJavaの技術者資格を取っていた方
- 個人情報管理や内部統制関係などの仕事を目指していて、いまはSEだが、かつて司法試験の受験経験があり法律にも興味があった方
- ハードウェアの製品化プロセスの一部としての仕事にやりがいを覚え、組み込みソフト開発を希望した方
- SEながら積極的に顧客との調整、交渉、提案業務をこなし、その仕事の方が向いていると認識して、営業を希望した方
などがいらっしゃって、多くの方が希望の仕事に就きました。
(2)はっきりと「やりたい仕事」を答えるが、その根拠はあいまいな方
妙にはっきりと「これがやりたいです!」とおっしゃるが、「なぜそれがやりたいのですか?」としつこく突っ込んでいくとその理由があいまいになっていく方です。どうも「イメージ」だけが先行しているようで、雑誌やWebの情報サイト上の成功例など見て、こんな仕事をしてみようと最近思いついた、というレベルで、特に(1)の方にように、そのための勉強や資格取得をしているわけでもないようです。本音は「やりたい仕事はまだよく分からない」という方です。
(3)「やりたい仕事は現在はありません」と明快に答える方
4つのパターンの中では一番少ないかもしれません。一見どうかなと思われがちですが、案外ロジカルで素直な方が多く、ニュートラルな状態で物事を考えられたりします。意外にこういう方は突然本当にやりたい仕事に巡り合うことが多いようです。
(4)とにかくあいまいな方
「うーん、やっぱりSEですかねぇ」「うーん、やっぱりプロマネ(プロジェクトマネージャ)ですかねぇ」と無難な答えをする方。この回答が最も多いのではないかと思います。
私もかつてこうでした。やりたい仕事ははっきりしないが、何かしないといけない、という気持ちから、最大公約数的な答えをしてしまうパターンです。「なぜそれがやりたいのですか」と突っ込むと、回答に苦しむことになります。特に、転職理由自体が仕事内容以外のところにある場合に、このパターンに陥る方が多いようです。
以上、「やりたい仕事は」、と聞かれたときの回答例を4パターン挙げました。あくまで「やりたい仕事」というのは自分の意志の問題なので、どれがいい悪いということではありません。そもそも、誰しもが、はっきりとやりたい仕事を明確に持っているわけではありませんので。
「やりたい仕事」と「やるべき仕事」の区別をする
私ども人材紹介会社などとのお話の中では、別にこの2つの質問に明確に答えなくても問題ないのですが(そこからご相談がスタートする場合も多いで)、「企業との面接時」には、そうもいっていられません。
やりたい仕事を聞かれて、はっきりと答えられなければ、面接で不合格となってしまいます。
やりたい仕事があいまいで面接に落ちた人の事例
K氏は大手流通業に関連した情報システム会社でSEをしていますが、業績の悪化に伴い転職を決意しました。大手の総合システムインテグレータ(SIer)に応募し、流通業のアプリケーションの知識が豊富で、先方の現場担当者から高い評価も受け、いよいよ最終の役員面接に進みました。その中で役員からやりたい仕事を問われ、「いろいろなことを幅広くやりたい」と答えました。「リーダーとして活躍してくれるかね?」という質問に対しては「状況に応じて対応したい」などとあいまいな回答をしたところ、結果役員面接で不合格となってしまったそうです。
理由は「優秀な方だが、ご自身のスタンスがはっきりしない」というものだった。現場の見方はスキルがあればOKという見方だったが、役員の見方は今後リーダーとして期待したい人物として見たため、自分のスタンスをはっきり持っていないという点を許さなかったようです。
ではやりたい仕事があいまいな方はどう答えるべきかというと、「やりたい仕事」ではなく、「やるべき仕事」を答えればよいのではと思います。
「やりたい仕事」ととらわれると、心からの欲求として求めている仕事、自分の天職は、となってしまい、その観点に立つとどの仕事も別に特別やりたいと思っているわけではないし、といった感覚となることもあるでしょうし、その結果回答もあいまいになりがちです。
そこで、やりたい仕事を「やるべき仕事」と置き換えて、「自分がこの世界(IT業界)で生計を立てていくために、やっていかなければならないと思っている仕事」ととらえれば、
- 自分は古めのテクノロジでの開発を行っているが、常に最新技術に携わっていないと取り残されるのではないかという不安があり、オブジェクト指向といった最新技術を用いた開発業務を希望する
- 自分はプログラム開発を行っているが、なかなか実力を発揮しきれていない。自分はプログラマよりも顧客との調整で力が発揮できると思うので、業務知識を生かした上流工程を中心とした工程を担当したい。
- 非常にニッチな業界のアプリケーションを担当していて、将来ほかのアプリケーションへの対応力がなくなるのではという不安があるので、もっと汎用的な業務アプリケーションを行いたい
- 年齢が高くなると会社からのリーダーとしての要求が高くなり、リーダー経験の内容が問われてくるので、若い段階から早めにリーダー経験を積んでおきたい
というような回答ができるかもしれません。このように考えていけば、転職を検討したいと思い始めた理由や、自分のこれまでの経験を基に、根拠のある「やりたい仕事(やるべき仕事)」が素直にいえるようになるかもしれません。
未経験職種だが、やりたい仕事をアピールして採用された事例
U氏は、とあるSIerで主にグループウェアのシステム開発のSEとして活躍していたが、自分自身のSEとしての技術力には疑問を持っており、将来に不安を感じていました。
むしろコミュニケーション力の高さを生かした、例えばプリセールス的なポジションの方が、自分に合っているのではと感じていました。そこでソフトウェア製品ベンダでのプリセールス職をターゲットに転職活動を始めました。
ただ、営業活動は未経験のため、経験はアピールできないので、「どうしてプリセールスがやりたいのか」という点と「なぜ自分がプリセールスができるという自信を持っているのか」という点を中心に自分の考えを徹底的にまとめたのです。そして面接の場で存分にアピールし、未経験の職種ながら、相手の企業にポテンシャルを認めさせ、見事、意中であったグループウェア系ソフトウェア製品ベンダに入社できたのです。
やりたい仕事の見つけ方
ここまでは、あくまで転職活動において「やりたい仕事」をどう考えるかについて書かせていただきました。最後は「心からやってみたいと思っている仕事(天職)」をどう考えるかという点についてです。
よく雑誌などで、「こうやって天職を見つけました!」なんてサクセスストーリーの記事を見掛けますが、現実には、そんなうまい探し方があるわけではありません。そうやって仕事(天職)が見つかる運のいい方もいますが、一生見つからないかもしれません。
ただ、1ついえることは、頭の中で考えているだけでは見つかるものではありません。いろいろな会社、仕事、先輩、同僚、友人、顧客と出会い、いろいろなお話をして、視野を広げ、刺激を受けることで、世の中が見えてきます。
その中でばったり「ああこんな仕事をしてみたい」などというのに出合うかもしれませんし、たとえ出合わなくても、世の中における自分の仕事の位置付けを再認識して、いままではあいまいだったが、がぜんいまの仕事に対するモチベーションが高まるなど、さまざまな展開があると思います。
ひょんな出会いからやりたい仕事を見つけた例
O氏は、大手SIerでデータベースの技術担当として働いていました。あるとき上司からあるプロジェクトにアサインされ、その顧客先へ常駐ということになりました。その会社は地理情報を活用した、BtoCの情報提供サービスを行っている会社で、新しいプロジェクトでは、Web技術/GIS技術/データベース技術を複合的に活用する必要がありました。その中でO氏はデータベース構築を担当しました。
プロジェクトにかかわっている間に顧客企業のいろいろな方とお話しするようになりました。その地理情報を使ったサービスの面白さ、要素技術の面白さ、その会社の人たちのそれにかける熱い思いなどに触れるうちに、自分もそういう不特定多数のユーザー向けのシステムがやりたかった、ということに気付いたそうです。
その数カ月後、O氏は同様のサービスを展開している別の企業に転職を果たしたのです。たまたまアサインされた常駐先の企業でやりたいと思える仕事を見つけたのです。
ちなみに筆者もSEなどの仕事を13年行った後、現在の人材コンサルタントという仕事に就きました。別に突然の思いつきでこの仕事をやろうと思ったわけではありません。13年間の経験の中で、いろいろな仕事、プロジェクトを経験して、いろいろな方とお付き合いをして刺激を受けていくうちに、自然といまの仕事のイメージが出てきたという過程があったのです。
別にやりたい仕事がはっきりしないからといって焦る必要はありません。まずは足元の「自分のやるべき仕事」をしっかりと見据えながら、その先にある「やりたい仕事」をじっくりと探し続けていただければと思います。そのためには、日ごろからいろいろな仕事に積極的にチャレンジしてください。たとえそれがやりたい仕事でなくても。
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