日本のRFID業界をけん引する人々(1)

実業に根ざして使う人の視点を重視する
日立製作所


柏木 恵子
2006年7月19日

 ユーザー企業の価値向上のためシステム全体として考える

――実業の中で出てきた要件とは、具体的にどのようなものですか

中島 2004年から電子タグの実証実験に取り組んでいますが、当初、電子タグの中にデータを入れることは、あまり考えられていませんでした。電子タグとバーコードを同じように考えていて、商品コードがあればいい、あるいはそれにロットナンバーなり製造番号なりを加えてユニークに指定できるものにすればいいという考えです。議論の中心はほとんどその部分で、タグが万が一読み込めなくても、そのコードがタグにバーコードや数字で書いてあれば、システムでリカバリできますという話になります。

 しかし、実際に実証実験での使われ方を見ると、もっとたくさんの情報をタグに入れたいというのが現場のニーズでした。企業内でも部門ごとに異なるデータを入れたいという要望がありますし、企業間でも、メーカーはその製品に関する情報や検査の情報を、物流の場面で物流の情報を、販売者は販売に関する情報を入れて有効に活用したいと希望します。

 いままでは用途ごとにいろいろなシールを貼ったり、別のタグを付けたりしていましたが、RFIDならばそれらを1つにできます。そのためには、メモリをどのように使えばいいかといったことが次の課題として出てきています。

――現状は、製造・物流・販売で使う3つのデータが1つのタグに入るようにはなっていないのですか

 現状では、特定の企業同士がグループをつくって、“紳士協定”を決めて運用しています。今後、業界ごとでルールを決めていくことになるでしょうが、それだけでは不十分だと思っています。例えば、それぞれのプレーヤーごとに領域を分けて、それぞれにセキュリティをかけられるといった機能が、タグに必要ではないかと。

――ビジネスとしてのソリューション展開の方向性は

中島 トレーサビリティ・RFID事業の本格展開ということで125のソリューションメニューの提供を2006年6月14日に発表しました。これらのソリューションは2004年から提供しているトレーサビリティソリューションのさまざまなシステム構築の実績のほか、政府・各省庁主導で行われているICタグ実証実験や企業・各種団体の実証実験への参画、さらにはミューチップなど日立独自の技術開発などを通じて得た数多くの事例とノウハウをベースに開発したものです。

生産から流通、消費、廃棄までの履歴管理や追跡照会を実現するトレーサビリティ・RFID事業を本格展開
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2006/06/0614.html

 重要なのは、1つのソフトウェアやRFIDそのものといった個々のコンポーネントではなく、それを導入することでユーザーがどういう価値を得られるかということです。個々のコンポーネントの開発ももちろん行っていきますが、それだけではあまり意味がありません。あくまでもユーザーの立場からの開発が必要でしょう。

 総務省によるRFIDによる経済波及効果予測で2010年に17兆円という数字がありますが、そのうちの10兆円はユーザー企業の売り上げ拡大と原価低減です。そして新規サービスとして5兆円で、IT投資はわずか1兆円です。RFIDというコンポーネントそのものを作ることで何かうれしいことが起きるわけではなく、それを導入することでいかに売り上げを上げていくか、原価を下げていくか、あるいは新しいビジネスを創出していくか、その部分に力を入れていきたいと思っています。

「ユビキタスネットワーク時代における電子タグの高度利活用に関する調査研究会」の最終報告
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040330_6.html

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Index
実業に根ざして使う人の視点を重視する日立製作所
  Page1
チップからSIまでワンストップで提供する日立
Page2
ユーザー企業の価値向上のためシステム全体として考える
  Page3
RFIDによって情報の精度・密度・鮮度が上がる
  Page4
セル型生産方式にRFIDが有効な手段になり得る
  Page5
トレーサビリティが築く新しいマネジメント技術へ

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