ではインストールの手順を追って見ていきましょう。
まずqmail-1.03のソースとパッチを手に入れます。
qmail-date-localtime.patchは、ヘッダに記録される日付・時間情報をローカルタイムに合わせます。対策が施されたqmailサーバから配信されたメールには、日本標準時を意味する「+0900」が付加されます。
ダウンロードしたソースを展開し、パッチを当てます。
# tar xvfz qmail-1.03.tar.gz # cd qmail-1.03/ # patch -p1 < ../qmail-date-localtime.patch
コンパイルの前に、インストール先の作成(ここでは/var/qmail)とqmailを稼働させるのに必要なユーザーとグループの登録を行います。
# mkdir /var/qmail # groupadd nofiles # useradd -g nofiles -d /var/qmail/alias -s /bin/false alias # useradd -g nofiles -d /var/qmail -s /bin/false qmaild # useradd -g nofiles -d /var/qmail -s /bin/false qmaill # useradd -g nofiles -d /var/qmail -s /bin/false qmailp # groupadd qmail # useradd -g qmail -d /var/qmail -s /bin/false qmailq # useradd -g qmail -d /var/qmail -s /bin/false qmailr # useradd -g qmail -d /var/qmail -s /bin/false qmails
また、メールサーバを運用する場合、DNSの設定を省略することはできません。DNSに下記のようにドメインに対するMX(メールエクスチェンジャ)が設定されていることが前提になります。
IN MX 5 host.example.jp.
テスト目的など、とりあえず動かしてみるだけならMXは必須ではありませんが、その場合user@example.jpではサーバへの配送は行われません。user@host.example.jpのようなFQDN(Fully Qualified Domain Name:完全修飾ドメイン名)を用いてテストしてください。また、最低限host.example.jp自体はDNSに登録されている必要があります(DNSの設定方法については、BINDで作るDNSサーバ第2回「名前解決の仕組みとゾーンファイルの設定」も参照)。
ではコンパイルです。
# make setup # make check # ./config
この過程でエラーが出るようならconf-ccとconf-ldファイルを編集して、gccを使用するようにするなどしてください。また、最後の./configは自ホストがDNSに登録されていない場合、
Your hostname is host.example.jp. hard error Sorry, I couldn't find your host's canonical name in DNS.
となるので、下記を実行します。
# ./config-fast host.example.jp
以上の作業で、/var/qmailにqmailの動作に必要なファイルやディレクトリが作成されます。
次に、動作に必要な設定を見ていきます。/var/qmail/controlにはいくつかのファイルが作成されています。/var/qmail/controlディレクトリに移動し、viなどのエディタで編集を行います。それぞれのファイルに対する必要な項目は次のようになります。
example.jp
localhost localhost.example.jp host.example.jp example.jp
localhost example.jp .example.jp
host.example.jp
example.jp
以上で設定はほぼ終了です。たった5つのファイルを編集するだけで最小限の動作が可能で、不正中継対策も施されます。単純すぎて拍子抜けしてしまいましたか? 実際、qmailはメールサーバとして必要最少限の動作を提供するにとどめています。例えば、中継ホストの設定を柔軟に行いたい場合やスプールに対して制限したい場合は、アドオンソフトを使用することになります。
設定が整ったところで、起動の準備を行います。まずpostmaster、MAILER-DAEMON、rootといった重要なアカウントに対する配信の設定です。
# cd /var/qmail/alias # touch .qmail-postmaster .qmail-mailer-daemon .qmail-root # chmod 644 .qmail*
これでpostmaster、MAILER-DAEMON、rootあてのメールは/var/qmail/aliasに保存されます。
すでにsendmailが動作するようになっている場合は、sendmailの動作を止める必要があります。
# /etc/rc.d/init.d/sendmail stop
また、次からサーバ起動時にsendmailが立ち上がらないように起動スクリプトを外します。
# mv /etc/rc.d/rc2.d/S80sendmail /etc/rc.d/rc2.d/_S80sendmail # mv /etc/rc.d/rc3.d/S80sendmail /etc/rc.d/rc3.d/_S80sendmail # mv /etc/rc.d/rc5.d/S80sendmail /etc/rc.d/rc5.d/_S80sendmail
mailコマンドやCGIスクリプトなどで直接/usr/lib/sendmailを参照する場合のことを考え、qmailのsendmailラッパーで置き換えます。
# cd /usr/sbin # mv sendmail sendmail.dist # chmod 0 sendmail.dist # ln -s /var/qmail/bin/sendmail /usr/sbin/sendmail
では、qmailサーバを起動してみましょう。ここで紹介する方法は、動作を確認するためのものです。実際の運用では、後半で紹介するtcpserverを使った起動方法を使ってください。
起動スクリプトを用意し、実行します。/var/qmail/boot/homeを/var/qmailにrcという名前でコピーします。
# cp /var/qmail/boot/home /var/qmail/rc # /var/qmail/rc &
次に、/etc/inetd.confファイルに次の行を追加してinetdデーモンを再起動します。
smtp stream tcp nowait qmaild /var/qmail/bin/tcp-env tcp-env /var/qmail/bin/qmail-smtpd
# /etc/rc.d/init.d/inet restart
以上で動作確認のための準備は完了です。では、動作を確認してみましょう。psコマンドでプロセスが実行されているかを確認します。
# ps -aef | grep qmail qmails 14540 13180 0 00:54 pts/4 00:00:00 qmail-send qmaill 14541 14540 0 00:54 pts/4 00:00:00 splogger qmail root 14542 14540 0 00:54 pts/4 00:00:00 qmail-lspawn ./Mailbox qmailr 14543 14540 0 00:54 pts/4 00:00:00 qmail-rspawn qmailq 14544 14540 0 00:54 pts/4 00:00:00 qmail-clean
次にメールを出してみましょう。
# echo to: root@host.example.jp | /var/qmail/bin/qmail-inject
これで、空のメールが/var/qmail/alias/のMailboxファイルに届いているはずです。
# more /var/qmail/alias/Mailbox
で確認してみましょう。
ここで「Maildirじゃないの?」と疑問に思った方もいると思います。動いているプロセスを見ると、確かに「qmail-lspawn ./Mailbox」となっています。
qmailの特徴は、sendmailのmbox形式に対していくつものメリットがあるMaildir形式だと説明しました。しかし、Maildirを使うにはもう少し作業が必要です。ユーザーごとにmboxかMaildirかを選択することも可能ですが、ここではMaildirにデフォルトで対応するようにします。
先ほど用意した/var/qmail/rcファイルの内容を下記のように編集します。
qmail-start ./Mailbox splogger qmail
↓
qmail-start ./Maildir/ splogger qmail
mboxでは各ユーザーのホームディレクトリにMailboxファイルが作成されますが、Maildirディレクトリは手動で生成する必要があります。
# /var/qmail/bin/maildirmake ~alias/Maildir # chown -R alias /var/qmail/alias/Maildir
これでMaildirに対応しました。Postfixでは、Maildirを使用するように設定すると各ユーザーのホームディレクトリにMaildirディレクトリが自動生成されますが、qmailでは手動で対応する必要があるので注意してください。各ユーザーのアカウントで、
$ /var/qmail/bin/maildirmake ~/Maildir
を実行するか、rootが代わりに作成する必要があります。root権限で実行した場合は、chownでMaildirディレクトリのオーナーが各ユーザーになるように変更してください。
新規のユーザーについては、/etc/skelディレクトリにMaildirのひな型を置いておくと、adduserコマンドなどでユーザーを作成した際に自動でMaildirディレクトリが生成されるようになります。具体的には、下記のようにします。
# /var/qmail/bin/maildirmake /etc/skel/Maildir
では、Maildir対応版でqmailを起動し直します。現在起動している各qmailプロセスをkillコマンドで終了させ、psコマンドでqmailプロセスが残っていないことを確認してください。その後もう1度、
# /var/qmail/rc &
を実行します。
念のために配送テストをもう1度行います。
# echo to: root@host.example.jp | /var/qmail/bin/qmail-inject
今度はMailboxファイルではなく、Maildir/newディレクトリにファイルが1つできていると思います。そこでもう1度配送テストを行うと、次に届いたメールは別のファイルとして保存されるはずです。
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