プロジェクトを管理しやすいように分割したものをフェイズといいます。プロジェクト・ライフサイクルはこのフェイズの集合体です。
例えば、典型的なウォーターフォール型のシステム開発プロジェクトでは、
企画 → 要件定義 → 設計 → コーディング → 単体テスト → テスト → 本番移行
という工程があります。これらの各工程をフェイズと呼びます。そして、企画もしくは要件定義から本番に移行するまでの全体をライフサイクルといいます。
本番稼働したシステムは、運用・保守の作業が繰り返され、いつかは新しいシステムに置き換えられます。この、企画から始まり、廃棄されるまでの期間をプロダクト・ライフサイクルといいます。プロダクト・ライフサイクルには、開発のプロジェクトに加え、運用・保守といった定常業務も含まれます。
プロジェクト・ライフサイクルとプロダクト・ライフサイクルの違いは、電化製品など身の回りの製品をイメージすると分かりやすいです。
例えば、ソニーのWalkman(カセットプレーヤー)で考えると、プロジェクト・ライフサイクルは、カセットデッキを携帯するアイデアから商品化するための研究、設計、試作機の製作までとなるのが一般的だと思います(プロジェクトXの世界ですね)。
そして、販売のためのラインが稼働し、広く世の中に販売されます。その後、Walkmanは、軽くなったり、機能が増えたりバージョンアップなどの改良が行われるものの、CD Walkman、MD Walkman、iPodといった新しい携帯音楽プレーヤーが登場し、Walkmanの市場は縮小していきます。この、製品の誕生から市場の縮小(販売終了)までの流れがプロダクト・ライフサイクルです。IT業界でいうと、「Windows 95」などの製品にもいえると思います。
プロジェクトにはさまざまな立場の人が関与します。プロジェクトに対し、プラスやマイナスの影響を及ぼす人や組織、プロジェクトの実施やプロジェクトの結果から何らかの影響を受ける人や組織を、プロジェクト・ステークホルダーといいます。
プロジェクト・ステークホルダーには、プロジェクトマネージャをはじめ、プロジェクトメンバー、顧客、エンドユーザー、ベンダ、母体組織などさまざまなものが含まれます。
プロジェクトは企業活動の一環として実行されます。従って、企業が持つ組織構造によって、プロジェクトマネージャの権限の強さも異なります。つまり、企業の組織構造はプロジェクトマネジメント活動に大きな影響を及ぼします。
企業が持つ組織構造には、機能型、プロジェクト型、マトリックス型があります。
☆機能型組織
機能型組織は、従来の組織構造で、開発、営業、経理などの機能ごとに部門が構成されます。機能型組織に所属する従業員には、機能部門マネージャが唯一の上司になります。
機能型組織で、組織横断的にプロジェクトチームが発足した場合、プロジェクトマネージャはあまり権限が与えられず、メンバーは、機能部門マネージャの指示に従い業務を行います。
☆プロジェクト型組織
プロジェクト型組織では、プロジェクトが1つの部門となり、プロジェクトマネージャが従業員の唯一の上司となります。メンバーは、プロジェクトマネージャの指示に従い、業務を遂行します。
☆マトリックス型組織
マトリックス型の組織は、各従業員に対し、機能部門マネージャとプロジェクトマネージャの2人の上司が存在する組織形態です。プロジェクトマネージャの権限の強弱により、強いマトリックス型組織、バランス・マトリックス型組織、弱いマトリックス型組織に分類されます。
すでに述べましたが、PMBOKでは、プロジェクトマネージャが行うプロジェクトマネジメントの活動を44個のプロセスにまとめています。プロセスとは、プロジェクトマネージャやプロジェクトマネジメント・チームが、プロジェクトを成功裏に進めるためのアクティビティです。詳細は次回以降で述べますが、ここでは、そのプロセスの考え方だけを説明します。
プロジェクトマネジメント・プロセスには、「インプット」「ツールと技法」「アウトプット」が定義されています。
インプットはそのプロセスの活動を行うために参照する情報を表します。また、プロセスによって生成される成果物や結果がアウトプットです。ツールと技法は、プロセスの活動を実行するために使用するテクニックなどが定義されます。
例えば、「WBS作成」というプロセスがあります。このプロセスでは、プロジェクトの要素成果物やプロジェクトの作業をマネジメントのしやすい単位に分割していきます。そのアウトプット(成果物)が、「WBS(Work Breakdown Structure)」であり、「WBS辞書」です。プロジェクトマネージャはこのWBSを作成するために、事前に必要な成果物を定義した「スコープ記述書」を参照します。そして、スコープ記述書に定義されている1つ1つの要素を「要素分解」というテクニックを使用して、管理しやすい、より細かい単位に分解していくのです。このとき、あらかじめ「WBSのテンプレート」などのツールが用意されていれば、作業を効率よく進めることが可能になります。実際には、ここに挙げたもの以外にもインプット、アウトプット、ツールと技法が定義されています。
5章3項 WBS作成 | |
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インプット | 1.組織のプロセス資産 2.プロジェクト・スコープ記述書 3.プロジェクト・スコープ・マネジメント計画書 4.承認済み変更要求 |
ツールと技法 | 1.ワーク・ブレークダウン・ストラクチャーのテンプレート 2.要素分解 |
アウトプット | 1.プロジェクト・スコープ記述書(更新版) 2.ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー 3.WBS辞書 4.スコープ・ベースライン 5.プロジェクト・スコープ・マネジメント計画書(更新版) 6.要求済み変更 |
図3 WBS作成プロセスのインプット/ツールと技法/アウトプット |
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