本連載は、これからプロジェクトマネージャへの転身を考えている方、現在PMBOKベースでマネジメントされているプロジェクトに参加しているメンバーの方などを対象にしています。『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド第3版(日本語版)』(以下、PMBOKガイド)の解説を行いながら、プロジェクトマネジメントの基本を解説していきます。なお、各小見出しの横には、対応するPMBOKガイドの章を記載していますので、PMBOKガイドを学習する際の参考にご利用ください。記事の最後には演習問題を用意しました。復習にご利用ください。
最近、さまざまな企業でプロジェクトマネジメント力の強化が注目されています。IT業界も例外ではありません。そんな中、プロジェクトマネジメントにおいて、米国のPMI(Project Management Institute)がまとめた「PMBOK」という知識体系を適用する企業が増えてきました。読者の皆さんも、身近でPMBOKという言葉を耳にする機会があるのではないでしょうか?
本連載では、これからプロジェクトマネージャを目指す方、プロジェクトメンバーの方を対象に、PMBOKガイドの中身を分かりやすく解説し、プロジェクトマネジメント力の育成をお手伝いしていきます。
第1回 PMBOKガイドを開いてみよう
連載1回目の今回は、プロジェクトとプロジェクトマネジメントの概要を説明します。プロジェクトマネジメント活動の詳細は次回から見ていきますので、今回はそのためのベースとなる知識を身に付けましょう。
初めに、PMBOKガイドとは何物でしょうか? 当のPMBOKガイドにも説明があります。PMBOKガイドはその目的として、「プロジェクトマネジメント知識体系のうち、良い実務慣行と一般的に認められている部分を特定すること」と書いてあります。
PMBOKを制定している団体PMIは、1969年に結成されたプロジェクトマネジメントの研究と推進を行う団体で、いまや全世界に20万人以上の会員がいる国際的な規模の団体です(PMIの本部は米国にあります)。PMIは長年にわたって、プロジェクトマネジメントをどのように行えば成功に近づけられるかを研究してきました。そうした研究の成果をまとめたものが「プロジェクトマネジメント知識体系(PMBOK)」です。そのPMBOKの中でも、一般的に広く認められている部分を抽出し、概要をまとめたものがPMBOKガイドなのです。PMBOKガイドはプロジェクトマネジメントのテキストとして、現在は広く用いられています。
それでは、PMBOKガイドの内容を見ていきましょう。PMBOKガイドは、12章から構成されており、そのほか用語集などの付録があります。今回はこの中の1〜3章を見ていきます。
第1章 序論
第2章 プロジェクト・ライフサイクルと組織
第3章 単一プロジェクトのプロジェクトマネジメント・プロセス
第4章 プロジェクト統合マネジメント
第5章 プロジェクト・スコープ・マネジメント
第6章 プロジェクト・タイム・マネジメント
第7章 プロジェクト・コスト・マネジメント
第8章 プロジェクト品質マネジメント
第9章 プロジェクト人的資源マネジメント
第10章 プロジェクト・コミュニケーション・マネジメント
第11章 プロジェクト・リスク・マネジメント
第12章 プロジェクト調達マネジメント
そもそもわれわれが参加するプロジェクトとは、どのようなものでしょうか?
PMBOKガイドには、「プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期性の業務である」と定義されています。ポイントは、「独自の」という部分と「有期性の」という部分です。プロジェクトは、これまでに存在したことのない成果物を創造するために行う活動で、開始と終了が明確になっている必要があります。これに対し、繰り返し行われる業務(いわゆるルーチンワーク)のことを「定常業務」といいます。
次に、プロジェクトマネジメント、つまりプロジェクトをマネジメントするとは、具体的にどういうことでしょうか? プロジェクトを成功に導くには、プロジェクトの目標を達成するためにやるべきこと(プロジェクト・スコープ)、納期(スケジュール)、予算(コスト)という大きな制約条件とのバランスを取りつつ、品質の高い成果物を生成する必要があります。プロジェクト・スコープ、スケジュール、コストこれら3つの要因を3大制約条件といいます。たとえ、高品質な成果物を作っても、予算を大幅に超過して赤字になったり、スケジュールが遅れたりすればプロジェクトは成功といえません。
ですので、プロジェクトマネージャは、さまざまな知識やスキル、テクニックなどを駆使して、三大制約条件とうまくバランスを取りながらプロジェクトを進めていく必要があるのです。PMBOKでは、そのために行うプロジェクトマネージャの活動を44個のプロジェクトマネジメント・プロセスとして定義しています。プロジェクトマネジメント・プロセスの詳細は、次回以降で説明します。
プロジェクトは企業の中で単独に存在するものではなく、周囲の環境などに大きく影響を受けます。この周囲の環境などをコンテキストと呼びます。コンテキストとは、背景という意味です。PMBOKガイドでは、こうしたプロジェクトを取り巻く環境について、プログラム、ポートフォリオ、サブプロジェクト、PMO(プロジェクトマネジメント・オフィス)という項目ごとに紹介しています。
プログラム | 関連するプロジェクトや定常業務の集まり |
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ポートフォリオ | 企業における戦略的な事業目標を達成するための、複数のプロジェクトやプログラムの集まり |
サブプロジェクト | プロジェクトを管理しやすい単位に分割したもの |
PMO | プロジェクトマネージャをサポートする個人または組織の総称。複数のプロジェクトにまたがる要員のアサイン調整などを行う |
図2 プロジェクトマネジメントのコンテキスト |
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