企業も技術のマネジメントという意識を持って、現場のエンジニアのことを考えてほしい――。IT検証産業協会(IVIA)の第3回定時総会で招待講演を行った、情報処理推進機構(IPA)の渡辺登氏は、集まった経営者陣に向けてそう語った。
IVIAは、IT検証(テスト・評価)に関連する企業や団体によって構成される、IT検証の業界団体。6月18日に行われた定時総会で、招待講演として渡辺氏が「ETSSによる組み込みソフトウェア開発力強化」という講演を行った。渡辺氏はOKI通信システムで約20年、現場のエンジニアとして業務を行ってきており、現在はSEPGとしてプロセス改善に携わる傍ら、IPAで組み込みスキル標準(ETSS)に関わっているという。
渡辺氏は最初に、経済産業省と共同で行っている組み込みソフトウェア産業実態調査に触れた。特にテストエンジニアに着目し、「数としては増えており、不足感も和らいできているが、あくまで数ではなく、ミドルレベルやハイレベルの質の高いテストエンジニアを必要としているというデータが出てきている。一方で、これまでに就いたことのある職種としてはテストエンジニアは30%を超えて非常に多いのに、将来就きたい職種では10%に満たない」と現状を説明した。
アウトソーシング比率で見ても、テストエンジニアはアウトソーシングに頼っている傾向にあるという。渡辺氏は、「まずは業界内でも、テストエンジニアのプロフェッショナルとしての認知を進めないといけない」と警鐘を鳴らした。
さらに渡辺氏は、「技術のマネジメントを是非やっていただきたい」と語った。ピーター・ドラッカーの「技能の基盤として理論を使える者は無数に必要とされる」という言葉を引用し、「外科医が医学の知識をきちんと基盤として持ったうえで手術の執刀が行えるようにスキルを磨くのと同じで、われわれプログラマやアーキテクト、エンジニアも、きちんとした知識を裏づけに、理論の基盤を持って技能を発揮するという意識を持たないといけない」と主張した。例としてプロジェクトマネジメントを挙げ、「まずはやり方、知識があり、その上に、例えば組み込み開発であれば、その対象に対する勘所がある。加えて、プロジェクトは1人で行うものではないので、巻き込み力やコミュニケーションがある。PMBOKだけ知っていればプロジェクトマネジメントができるわけではない」と、個人レベルでも知識、スキル、テクニックを積み重ねる必要があるとした。さらに、「組織としての仕組みがないと、プロジェクトマネジメントはうまくいかない。優れたプロジェクトマネージャがどんなにがんばっても、それが本当に正しいか、うまく進んでいるかは、例えばPMOを置いてフォローするなどの仕組みがないといけない。そういった組織としての仕組みがあって初めて、プロジェクトは成功する」と、組織レベルでのスキルの重要性を強調した。
こうした「個人のスキルと組織のスキル」について、「開発力強化には個人のスキルを組織のスキルに変換する必要がある」とし、野中郁次郎氏のSECIモデルを紹介。暗黙知と形式知のサイクルを意識して、自身の会社でどこがうまくいっていないかを検証してほしいと、集まった経営陣に対して提言した。
最後に渡辺氏は、「自分自身、現場で苦労したこともあり、いろいろと思うところもあります。近年、短期的な成果が求められるような傾向になり、技術者が非常に疲れきっているという状況です。短期的な成果を求めるのは変えられない事実だと思っていますが、是非、現場の技術者が意欲を掻き立てられるような組織文化や施策を打ち出してほしい」と語り、現場の技術者目線から経営者にメッセージを送った。
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