LTEのネットワーク動作次世代の無線技術、LTEの仕組みが分かる(6)(2/2 ページ)

» 2010年12月24日 00時00分 公開
[小島浩ノキア シーメンス ネットワークス]
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エンドツーエンドのきめ細かなQoS

 コアネットワークの構成要素であるP-GWの機能の1つに、QoS(Quality of Service)制御があります。3Gネットワークでもアプリケーションに応じた優先制御は可能ですが、オールIPのLTEではすべての情報がIPパケット化されるため、よりきめ細かな優先制御がエンドツーエンドで行えるようになります。

図7 LTEならではのQoS 図7 LTEならではのQoS

 LTEのQoS制御は、端末と基地局の間の無線ネットワーク区間とコアネットワーク側の双方で行われます。QoSを処理するパラメータにはQCI(QoS Class Identifier)があり、帯域制御の有無や遅延許容時間、パケットロス率などに応じて9段階の優先度が決められています。QCIの1〜4は帯域保証されるGBR(Guaranteed Bit Rate)、5〜9は帯域保証されないNon-GBRとなるなど、QCIに応じて各ベアラでQoS制御される仕組みです。

 端末と基地局の無線ネットワーク区間では、スケジューラと呼ばれる、周波数領域と時間領域で制御する帯域割当制御が行われ、各ユーザーの端末が使用しているサービスに対応したQCIが示す優先度に応じて優先制御します。

 例えば音声(VoIP)のように途切れては困るアプリケーションの場合、QCIは1、優先度は2というように優先度が高く設定され、無線区間の帯域も帯域保証のGBRが割り当てられます。

QCI Guarantee 優先度(Priority) Delay Budget Loss rate アプリケーション
1 GBR 2 100ms 1e-2 VoIP
2 GBR 4 150ms 1e-3 Video call
3 GBR 5 300ms 1e-6 ストリーミング
4 GBR 3 50ms 1e-3 リアルタイムゲーム
5 Non-GBR 1 100ms 1e-6 IMSシグナリング
6 Non-GBR 7 100ms 1e-3 インタラクティブゲーム
7 Non-GBR 6 300ms 1e-6 TCPプロトコル(ブラウジング、
電子メール、ファウルダウンロード)
8 Non-GBR 8 300ms 1e-6
9 Non-GBR 9 300ms 1e-6
表1 QoSレベル

 一方、Web閲覧やメールのようにリアルタイム性が低いアプリケーションの場合は優先度の低いQCI(7〜9)が割り当てられ、帯域割当の優先度もNon-GBRと低くなります。

 ちなみに、QoS制御で最も優先度が高い(優先度1)のアプリケーションは、ネットワーク制御を行うシグナリングと規定されています。

 3GPPではこうしたQoS制御や課金のルールを「PCRF」(Policy and Charging Rule Function)として規定。各事業者はPCRFに基づいてどのサービスを優先制御するかといったルールを決め、ゲートウェイ(P-GW)でQoS制御や課金用データ収集を行う仕組みです。例えば海外の事業者の中には、通常料金よりも割高なプレミアム料金を設定し、ゴールドユーザーに優先的に帯域を割り当てるといったサービスを提供する例もあります。

3Gと連携したLTEの音声通信

 インターネットとSkypeを利用してPCでビデオや通話を行う人も増えてきました。最近ではスマートフォンの拡充とともに、3Gネットワークを介した通話やインスタントメッセージの手段としてSkypeが注目されています。

 こうした中、Skypeを搭載したスマートフォンから3G経由で通話できるサービスを提供する事業者や、Wi-Fiを使って通話できるサービスを提供する事業者もあります。ちなみに、LTEのデータ通信サービス上でSkypeを利用することも可能です。ただし、QoS制御で帯域が確保されるVoIPとは異なり、無料のSkypeの場合、帯域割り当ての優先度が低くなるなど、事業者はサービスを差異化していく考えのようです。

 オールIPのLTEでは、音声通信もIP化されることになります。現行のLTEサービスは当初、データ通信用デバイス(USB、カードタイプ)UBのみの提供となり、今後、音声対応のLTE端末の提供と相まって音声通信サービスが提供される予定です。

 当初、LTEのサービスエリアは主要都市が中心になることから、サービスエリア以外のデータ通信は3G(HSPA)が利用されます。同様に、LTEで音声サービスが提供されるようになっても、VoIPの対応はまだ先のことであり、当面は既存の3G(海外では2Gも利用)と併用されることになります。

 そこで3GPPでは、CSフォールバック機能を利用する音声通信を規定しています。LTE端末に音声の着信呼び出し(ページング)があったときに、3Gの回線交換網に切り替えて応答、通話する仕組みです(図8の(2))。

 また、将来LTEでVoIPがサポートされるようになっても、現実問題としてすべての端末とネットワークがLTEに移行するのは投資面でも困難なことから、3G(2G)ネットワークは残ることが考えられます。そこでVoIP方式のLTEエリアと回線交換方式の3G(2G)エリアをハンドオーバーして音声通信を継続する方法として、SRVCC(Single Radio Voice Call Continuity)があります(図8の(3))。

 LTE対応端末のサポート状況や事業者のサービス戦略などによりますが、CSフォールバック、SRVCCを経て、オールIP(VoIP over LTE)へと音声通信サービスが進展していくと考えられます(図8の(4))。

図8 LTE Voice Evolution

 現状の音声通信のほか、SMS(Short Message Service)は回線交換網を利用するため、パケット交換方式のLTEでは使うことができません。そこで、世界の主要な通信事業者や通信機器ベンダでは、LTEでの音声通信とSMSに関する仕様を策定し、2009年にOne Voiceイニシアティブを発表しています。通信技術の進化とともに、事業者の連携も進んでおり、LTEのVoIPサービスが提供されるのは、そう遠いことではないかもしれません。


 次回はLTEをめぐる世界の動向を紹介する予定です。

著者紹介

ノキア シーメンス ネットワークス株式会社 ソリューションビジネス事業本部 ネットワーク技術部長

小島浩

1987年 総合電機メーカ入社。以降、移動体通信ネットワーク機器、移動体通信システムの開発に従事。

2007年 ノキア シーメンス ネットワークス株式会社に入社。以降、移動体通信機器、システムの業務に従事。

現在、同社ネットワーク技術部長。



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